1月最後の週末、南相馬市と福島市を訪れた。土曜の夜は南相馬の居酒屋で、25歳から25年間この場所で営業している店主と話し込んだ。ここを離れる気はないという。有線で「新相馬節」をリクエストした。節回しが難しい。1978年から5年間の新人記者時代、知り合いが何度も歌ってくれた歌だ。
昨年9月に来た時には運休していた常磐線原ノ町駅だが、相馬駅までの20・1キロが復旧していた。もとには戻らないが、ちょっとずつ。短い区間でも地元の人には明るいニュースだろう。
古い話で恐縮だが、インターネットで「ふくしま手帳2012」を注文した。発行は福島市庄野に本社と工場がある日進堂印刷で、送料を合わせて1100円。カラーページには特産品や観光名所などが掲載されている。
楽しいページばかりではない。見開きの福島県の地図には、東京電力福島第1原発から10キロ、20キロ、30キロの半円が印刷されている。別冊の「ふくしま防災メモ帳」には「3・11の教訓」として、家族との連絡方法や家族の役割、個人データを書き込む欄や必要な物資のチェック欄がある。忘れてはいけない内容だ。
担当の星野博幸さんによると「販促は県内のテレビ、新聞くらい。前年はあまり東京では売れなかったが、今年は個人のブログやツイッターで取り上げていただき、予想以上の好評価を受けた。感謝の気持ちでいっぱいです」という。私もツイッターでこの手帳をみつけた。
ネット上ではいろいろな情報が流れ、中にはありがたくないものもある。北関東にある国立大学の教授は「福島県の農家はいま日本社会に向けて銃弾を打ってる」とつぶやき、物議を醸した。昨年11月に福島で開催された女子駅伝を「殺人駅伝」と呼んだ人もいる。原発から流出した放射性物質の危険性を指摘し、その責任を追及するのはいいが、批判の対象が間違ってはいないか。
ネットであれこれ言われたくないと思う気持ちは私にも少しは分かる。ツイッターを見ていると「福島はフクシマでねぇ福島だ」というタグ(付せんのようなもの)がついた書き込みを時々みつける。福島をフクシマと呼んでほしくない、自分たちはここで暮らしている、よそ者にとやかく言われたくない--。そんな福島の人たちの思いが込められている。
東京に戻り、県の観光交流課が事務局の「ふくしまファンクラブ」に申し込んだ。白河だるまと会員証、会報が届くのを楽しみにしている。(毎週土曜日掲載)
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■人物略歴
1954年東京生まれ。78年毎日新聞社入社。福島支局、社会部、経済部、政治部を経て東京本社編集局次長、デジタルメディア局長、新聞研究本部長。現在、昭和女子大学キャリア支援センター副センター長。
毎日新聞 2012年2月18日 地方版
岩手県・宮城県に残る災害廃棄物の現状とそこで暮らす人々のいまを伝える写真展を開催中。