上杉隆氏の 有料メルマガを 読み始めました。
福島のメルトダウンを指摘し 流言飛語扱いされたジャーナリスト。
記者クラブ制度が マスコミをゆがめていると指摘し、40万の“オフレコ”を
暴露し始めている人。
自由報道協会を設立し、世界の注目を 集めている人です。
今日 初めて届いたメルマガを コピーしてみました。
有料なので 本当はいけないことでしょうが、宣伝に一役買うということで
許してくれるでしょう。(勝手な思い込み?)
Vol.105
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上杉隆の東京脱力メールマガジン
『 ルクセンブルグの夜 日本と欧州 』
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欧州一の美食の街はどこだろうか? パリ、ローマ、ウィーン──。
いやいや、どうやらまったく予想もしない街がトップらしい。
「ここが一番よ。ミシュランの星を獲得しているレストランの数でもダントツ
一位なのよ。面積あたりだけどね。でも、どのレストランに入っても失敗はな
いわ。保証する。試してみて」
ルクセンブルクの古城を眺める岩盤の上に建つホテル。その受付スタッフにお
薦めのレストランを尋ねると、こんな答えが返ってきた。
実際、ルクセンブルグで食べた食事は驚くほど美味だ。欧州委員会の特別会議
のために集まった各国の代表たちに感想を求めても、異口同音にこの国の料理
を褒めちぎる。
あの、食に五月蝿いフランス人(原子力規制局のメンバー)ですら「ルクセン
ブルグの料理は悪くない」と認めるほどだ。
なにやら、意外な街(国)にやって来たものだ。では、なぜ私が欧州の小国ベ
ネルクス三国のひとつであるルクセンブルグにやってきたのか。
それは、欧州委員会とフランス原子力規制局主催のある国際会議に出席するた
めである。
最初、この会議から招待のオファーを受けた際、私はその趣旨も、規模も、そ
して重要度も理解していなかった。いや、白状すれば、ルクセンブルクに到着
してもなお判っていなかったのである。
「今回の会議は特別なものです。オーフス条約の精神を体現する会議として、
フクシマの大事故を受けて特別に開催されるものです。欧州委員会、欧州議会
に参加している国や団体の代表者がここルクセンブルクに一同に介し、まる2
日間にわたってプレゼンを行い、フクシマ原発事故後の環境への影響、放射能
汚染、とりわけ情報収集、あるいは情報隠蔽がどのようになされたのかを検証
しようというものです」
主催者の一人、欧州のドラマに出てくるような庶民的なハンサムの科学者Gil
les Heriard Dubreuil氏 はこう語って、私の初歩的な疑問に丁寧に答えてく
れた。
実は、彼は、ホテルの前で雨に打たれながら歩いている私をみつけて「ミス
ター・ウエスギ!」と最初に呼び止めてくれた人物でもある。Dubreuil氏だけ
ではない。驚いたことにこの会議中、私は見ず知らずの欧州人から、外国人に
しては難しい発音の苗字で何度も呼び止められ続けた。そう、すでにみな私の
顔と名前を知っていたのである。
「あなたは有名人よ。あなたの動画や発言集が訳されているの」(会議事務局
スタッフ)
そう、私にとって、この意外な会議はまさしく意外なスタートで始まったので
ある。
会場となったジャン=モネ・ビルディングは市の北東部に位置し、15ほどの会
議場を持つ。
私が案内されたのは、その中でも最も大きい国際会議場だ。通訳者のための
ブースが二階席にまで広がり、200人、いや席の配置によっては300人は
入る広さを誇る。「円卓会議」とは聞いていたものの、小さな会議を勝手に想
定していた私は、最初から面食らってしまった。
議長席の脇の演壇には、欧州議会のマークが刻まれ、スピーカーは巨大なスク
リーンモニターを見ながらプレゼンを行うことができる。
「まさか、あそこでプレゼンをするのか?」
ジャケットとジーンズにスカーフ姿でやって来てしまった私はいきなり後悔し
た。
参加者は多様だった。原子力発電を推進するフランス政府当局、電力会社など
ステークホルダーの幹部、あるいは原子力推進派の専門家や学者がいると思え
ば、チェルノブイリ事故の被害者でもあるノルウェーのサミ民族やスウェーデ
ンの環境団体のトップもいる。
また、ウクライナの放射能研究者やかつてのチェルノブイリ原発労働者もいれ
ば、グリーンピースなどのNGO団体、さらにはリトアニア環境省局長やオー
ストリアの農業森林水資源環境省の幹部などの顔も見える。
フランスの核施設の責任者とハンガリーの反核団体の代表がコーヒーを片手に
話し込んでいるのも実に不思議な光景だ。
「原発賛成と反対で分ければ、よく分からないが、そうちょうど半々くらいで
はないか。だが、それはあまり意味のある質問とは言いがたい」(D氏)
そう、この会議は原発の是非を話し合うものではない。それは各国政府が政治
的に判断を下すもので、欧州全体で話し合う議論ではないということだ。今の
会議はあくまで前述した通りの趣旨で欧州中から参集したものだという、極め
てドライな説明を受けた。
それではなぜ、この錚々たる放射能、原発事故の専門家たちの揃う欧州委員会
の会議に、フリーランスのジャーナリストで東洋人である私が呼ばれたのだろ
うか?
プレゼン前、その真意を議長団席に座っているD氏のもとに歩いていき尋ねて
みた。
「欧州議会、欧州委員会の中の私たちのチームは、事前に3人の日本人を候補
として挙げていた。ミスター上杉、あなたはその中のひとりで、最優先候補の
ひとりだったというわけだ」
他の二人はいったい誰だろう? 興味が湧く。続けてD氏に聞くと「あなたに
来てもらった。それ以上望むことはない」と笑いながらはぐらかされた。
天然の城壁の上に造られたルクセンブルグは、欧州議会や欧州委員会の金融な
どの機関が立ち並ぶ。欧州議会とは無関係だが、EUの原子力安全局もここに
あるという。そういえば、欧州議会、EUともにベネルクスが発祥の地だ。
だからだろうか、ここルクセンブルグには欧州の中でもさらに多様性を認める
成熟した自由な言論社会が存在していた。もちろんそれは今回の会議の中でも
言えた。
「私たちは今回のフクシマの原発事故にショックを受けています」
こう語るのは、京都大学に留学経験のあるACRO代表のダビッド・ボイレイ氏だ。
彼はチェルノブイリの原発事故と比較しながらこう続ける。
「チェルノブイリの事故は事故そのものも、またその後のソビエト政府の情報
隠蔽も、正直、やはりそうかなと感じるところがあった。なにしろ事故の起き
た1986年はまだソ連は共産主義国家だ。残念ではあるが、起こるべくして起き
たと感じたのだ。だが、今回は違う。我々と同じ先進国でとりわけ原発技術の
最先端を行く日本で発生した事故なのだ。その後のうんざりするような政府の
対応も含めて、欧州全体の原発政策に与えた影響は小さくない。その意味でフ
クシマは我々欧州の人間にとってもショックだったのだ」
ボイレイ氏は、その影響として、イタリアの国民投票、ドイツの原発廃止など
の決断があったと解説した。さらに4月のフランス大統領選も日本の原発事故
が大きな争点となっているとも語った。
それほどまでに欧州などに影響を与えているフクシマでの東電原発事故だが、
なぜか当事国の日本には危機感がない。むしろ世界で一番、楽観視しているの
が日本ではないかとさえ疑ってしまう。
この欧州での会議を通じて、日本政府、官僚組織、電力会社、そして大手のメ
ディアが情報をきちんと提供したと信じる参加者は絶無だった。逆に、あまり
にお粗末な情報隠蔽によって、日本という国家への信頼性に疑問を持った者が
ほとんどだった。
これは日本人としてあまりに悲しい現実であった。
「フクシマの原発事故発生直後から、フランス政府は日本政府に対してあらゆ
る協力を惜しまないと申し入れている。サルコジ大統領が訪日した際も、同様
に事故処理の援助を申し入れている」
こう語りながら、ボイレイ氏は目を伏せた。ボイレイ氏の配偶者は日本人であ
る。達者な日本語は夫人から学んだのだろうか。
前出のG氏もこう話す。
「今回の会議があなた、ミスター上杉を招いた理由には、日本のマスメディア
が機能を果たさず、多くの日本人に情報を提供できなかったという背景がある。
私たち、欧州の人間が、フクシマの原発事故において、日本政府や専門家、あ
るいはメディアから本当の情報を得ることができたかというとそうではない。
多くの貴重な情報は、独立系のジャーナリストやFPAJ(自由報道協会)、
あるいは市民団体によってインターネットを通じてもたらされたものばかりだ。
政府は情報を隠蔽し、メディアは機能しなかったと考えている。
公的なデータとして活用できたのはTEPCO(東京電力)のHPから直接得
たこと。あるいは、あなた方のようなジャーナリストの報告を各国大使館がそ
れぞれ訳し、本国に逐一伝えたことにある。東京のフランス大使館は一日200
回以上の公電を打ってきた。いずれにせよ、なぜ日本で情報の遮断が起きたの
か。その実態とマイクロメディアの果たした役割を知りたかった、それであな
たをお招きしたのだ」
そう、自由報道協会は日本では極めて低い評価、いや評価さえされていないが、
世界、いや少なくとも欧州のこの会議の参加者たちの間ではその存在を大きく
認識されていたのだ。そしてこちらが恥ずかしくなってしまうほど、堅実で勇
気のある言論機関として評価されていたのである。
フランスのみならず、他国の代表に尋ねても、やはりそれぞれの日本大使館を
通じて、自由報道協会のフリー記者たちの活躍は伝えられていたのは本当のよ
うだった。とくにベラルーシとウクライナの代表は、私の姿を見るなり、抱擁
してきて、サインを求めて、記念撮影を要請してきたほどだ。
そうした評価は、会議最後の議長総括でもわざわざ自由報道協会に言及された
ことからも明らかだ。
私がルクセンブルグで開かれたオーフス会議に到着するや、すぐに高揚してし
まったのは、実は、この評価を知ったからだったかもしれない。
世界的にはまったく無名のフリーランス記者たちの集まりである自由報道協会、
私はその一員として、この貴重な会議に招待されたことを誇りに思う。そして
また、あの3月自由報道協会が世界に情報を発信できていたことを確認できて、
意外ながらも、心から率直に嬉しく思う。
翻って日本はどうか。その言論空間は相変わらず不健全で、幼稚な状態から脱
し切れていない。
そうした日本の記者クラブの酷い現状は、フクシマの現実とともに、日本より
もむしろ欧州や海外でより理解されている。そうした逆転した状況が事故後も
続き、まもなく一年を迎えようとしているのだ。
2日目の会議が終わり、ホテルのレストランでウェイターお薦めのポトフを注
文した。料理の出てくる間、ツイッターのタイムラインを眺めていると、いつ
ものように何の知的興奮も感じない無意味なツイートが流れてくる。それはた
いてい4,5個の匿名アカウントが騒いでいるものにすぎない。
● 2月17日 考えなきゃ。もう若くないんだから。 @Cabagine
「上杉隆の母でございます。このたびは…」っていうアカウントを探してみた
● 2月17日 John Lemon John Lemon @montagekijyo
その「欧州委員会」には「欧州委員」は参加してるんですか? RT @uesugit
akashi: 欧州委員会でも話題に。理解不能 RT @tomoyononaka:...
● 2月17日 新宿のメディア王 新宿のメディア王 @mass_com
会議じたいはやってるんですか?飲み屋とかじゃなく。 RT @UCaty 上杉隆
さんが参加してる円卓会議なんだが、どうググってもたいしたことなさそう
なんだが…議事録もなさそうだし、欧州委員会のHPにも載ってない…
●2月17日 ケビン・ベーコン ケビン・ベーコン @UCaty
上杉隆さんが参加してる円卓会議なんだが、どうググってもたいしたこと
なさそうなんだが…議事録もなさそうだし、欧州委員会のHPにも載ってない
…@たいした会議ではないのだろう〉
私はつい考えてしまった。
本当に民主的な言論社会を知らないこうした哀れな人々が多数棲息するのが日
本の言論空間の現状なのだろう。残念なのは、彼らを助けることもできないし、
また、そうした低俗な発信を信じる一部の日本人も救うことができないという
ことなのだ。私はしばらくタイムラインを眺めながら、深く、嘆息してしまっ
た。
ルクセンブルグの夜は心地よい静寂とともに深まっていく。せっかくの料理が
まずくなる。私はタブレットを閉じ、テーブルから顔を上げた。すると、窓際
のテーブルでウクライナの科学者とリトアニア環境省のスタッフが呼んでいる。
私はレストランのスタッフに席を替わる旨伝えると、会ったばかりで、言葉も
あまり通じないが、気持ちのよい議論のできる「旧ソ連人」のふたりが待つ席
に向かった。そして、少し草臥れた、だが悪くはない木製の椅子に腰掛けると、
こう言ったのだ。
「さぁ、チェルノブイリの話を教えてくれ。日本のために、フクシマの子供た
ちのために」
※ルクセンブルグでの会議でのツイートについては、及川健二氏(@esperanto
2600)のように、有益で正確な情報をもたらしてくれるものも、もちろん少
なくなかった。
※今回、私はこの会議すべてを記録した。しかし、撮影は特別許可をもらった
上のもので、公開できるかどうかは今後、オーフス会議事務局の判断、あるい
はまた欧州委員会に諮られることになるようだ。条件と契約をクリアすれば、
No borderなどで個人メディアで発表したいと思う。
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■発行元:上杉隆
■Twitter:http://twitter.com/#!/uesugitakashi
■Blog:http://www.uesugitakashi.com/
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