47トピックス

▽ 実名報道と匿名報道 光市母子殺害事件で分かれる   


                   

 山口県光市で1999年4月に起きた母子殺害事件で、最高裁は20日、犯行当時未成年だった元少年(30)の被告に死刑判決を言い渡した。

 元少年はこれまで匿名で報じられてきたが、21日の在京各紙朝刊を見るかぎりでは、元少年を実名で報じた社と匿名を続けた社に分かれた。匿名を維持したのは毎日新聞と東京新聞。実名に切り替えたのはそれ以外の産経新聞、朝日新聞、読売新聞、共同通信など。NHKとTBSも実名を出した。
 各紙はそれぞれ1面に掲載した「おことわり」で実名に切り替え、あるいは匿名を継続した理由を明らかにした。実名にした社は、最高裁判決で死刑が確定することになったため、少年法の理念である社会復帰の可能性や更生の機会が失われることになることを理由に挙げた。他に「国家によって生命を奪われる刑の対象者は(実名を)明らかにされているべきだ」(朝日)、「国家が命を奪う死刑の対象者が誰なのかは重大な社会的関心事」(読売)とも。
 これに対し、匿名を継続した毎日は「今後、再審や恩赦が認められる可能性が全くないとは言い切れない」ため、匿名で報道するという原則を変更すべきではないと判断した、としている。東京も「元少年の更生の可能性が直ちに消えるわけでは」なく、「少年法が求める配慮はなお必要」、と匿名報道の継続を明らかにした。
 以下に各紙とNHK、TBS、共同通信の「おことわり」を並べた(順不同)。

【東京新聞】本紙は光市母子殺害事件の被告の元少年について、少年の健全育成を目的とする少年法の理念を尊重し、「報道は原則実名」の例外として匿名で報じてきました。今回の最高裁判決によって元少年の死刑が確定しても再審や恩赦の制度があり、元少年の更生の可能性が直ちに消えるわけではありません。少年法が求める配慮はなお必要と考え、これまで通り匿名で報道します。

【産経新聞】産経新聞社は原則として、犯行当時に未成年だった事件は少年法に照らして匿名とし、光市母子殺害事件も被告を匿名で報じてきました。しかし、死刑が事実上確定し、社会復帰などを前提とした更生の機会は失われます。事件の重大性も考慮し、20日の判決から実名に切り替えます。

【毎日新聞】毎日新聞は元少年の匿名報道を継続します。母子の尊い命が奪われた非道極まりない事件ですが、少年法の理念を尊重し匿名で報道するという原則を変更すべきではないと 判断しました。
 少年法は少年の更生を目的とし、死刑確定でその可能性がなくなるとの見方もありますが、更生とは「反省・信仰などによって心持が根本的に変化すること」(広辞苑)をいい、元少年には今後も更生に向け事件を悔い、被害者・遺族に心から謝罪する姿勢が求められます。また今後、再審や恩赦が認められる可能性が全くないとは言い切れません。
 94年の連続リンチ殺人事件で死刑が確定した元少年3人の最高裁判決(11年3月)についても匿名で報道しましたが、今回の判決でも実名報道に切り替えるべき新たな事情はないと判断しました。

【共同通信】光市母子殺害事件の被告は事件当時、未成年だったため、本人を特定できるような報道を禁じる少年法を尊重し、匿名としてきましたが、実名に切り替えます。死刑が確定することで更生、社会復帰に配慮する必要がなくなり、上告審判決に対する訂正申し立てでも量刑が覆ったケースはないためです。

【朝日新聞】朝日新聞はこれまで、犯行時少年だった大月被告について、少年法の趣旨を尊重し、社会復帰の可能性などに配慮して匿名で報道してきました。最高裁判決で死刑が確定する見通しとなったことを受け、実名での報道に切り替えます。国家によって生命を奪われる刑の対象者は明らかにされているべきだとの判断からです。本社は2004年、事件当時は少年でも、死刑が確定する場合、原則として実名で報道する方針を決めています。

【読売新聞】読売新聞は、犯罪を犯した未成年者について、少年の健全育成を目的とした少年法の理念を尊重し、原則、匿名で報道しています。しかし死刑が確定すれば、更生(社会復帰)の機会はなくなる一方、国家が人の命を奪う死刑の対象が誰なのかは重大な社会的関心事となります。このため20日の判決から、光市母子殺害事件の被告を実名で報道します。

【NHK】NHKは、少年事件について、立ち直りを重視する少年法の趣旨に沿って、原則、匿名で報道しています。
 今回の事件が、主婦と幼い子どもが殺害される凶悪で重大な犯罪で社会の関心が高いことや、判決で元少年の死刑が確定することになり、社会復帰して更生する可能性が事実上なくなったと考えられることなどから実名で報道しました。

【TBSラジオ】これまで元少年について匿名で報じてきましたが、最高裁で死刑判決が確定することによって少年法がうたう更生と社会復帰の可能性への配慮が必要なくなること、今後、誰に刑が執行されるのかが匿名であってはならないと考えることなどから実名報道に切り換えました。

(2012年2月21日 今井 克)

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