2012年2月23日(木) 東奥日報 天地人



 作家の泉鏡花は極端なばい菌恐怖症だった。ほうじ茶はぐらぐらと煮てから飲んだ。酒は毎晩2合ほど飲むが、徳利(とっくり)が指で持てないほどの熱燗(あつかん)だった。アンパンは表も裏もあぶって食べ、指でつまんでいた部分はぽいと捨てた。大根下ろしも煮て食べたとか(嵐山光三郎著「文人悪食」)。

 恐怖症といえば、最近は福島第1原発事故の影響で放射能恐怖症も増えているようだ。沖縄県の那覇市できょう本県の雪を使って開くはずだった恒例のイベントが急に中止となった。東日本大震災後に神奈川県などから那覇市に避難した人たちが電話で「青森県の雪は放射能が心配」と訴えたためだ。

 雪は海自八戸基地の隊員が十和田市の蔦温泉周辺で集めた。那覇への輸送に際し、積み降ろしのときに放射線量を測定し、安全を確認したという。青森県も那覇市の担当者に対し、降下物には問題がないというデータを示し、安全性を説明したと聞く。

 この件で那覇市が説明会を開いたところ、20人の母親が出席した。半数が避難してきた人たちで、やはり中止を求めたという。どうやら、この人たちの放射能恐怖症は、鏡花のばい菌恐怖症並みらしい。結局、市は安全に問題がないことを知りながら、避難者の不安に配慮し、中止を決めたという。

 が、このことで那覇市民や沖縄県民が「青森県は放射能まみれなのか」と誤解する恐れはないのだろうか。市が風評被害を広げたことになりやしまいか。イベントを楽しみにしていた子どもたちもかわいそうだ。


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