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外資の森林買収 「無防備」状態を避けたい
(2012年2月16日午前8時04分)
外国資本による山林、森林の買収は北海道、東北を中心に広がりつつある。日本の貴重な森林資源、水資源がじわじわと“奪われる”事態に国はもっと警戒心を強めるべきだ。一部自治体では監視を強める動きが出始めた。売買取引規制は世界貿易機関(WTO)に違反する恐れがあり、法制化は今のところ不可能だが、森林の無防備状態は避けねばならない。
埼玉県は所有者に売買相手の事前届け出を義務付ける条例化に乗り出した。買収事例はまだないが、「発覚してからでは遅い」と先手を打つ。北海道、群馬県も同様に検討中だ。緑豊かで水源地に恵まれた本県も、情報収集から先の対策を見据えておいてもいいのではないか。
林野庁の調べでは、2006年からの5年間で外資や外国人が取得した森林は北海道、山形、長野など5道県に広がり約620ヘクタール。北海道の道内独自調査によれば、同期間に39件、約910ヘクタールの買収があったという。背景に中国マネーが動いているケースが多い。しかもこれらの数字が実態かどうかは不明だ。
外資のリゾート用地買収は以前からあったとの指摘はあるが、森林買収については謎が多い。資産保有や転売名目とはいえ、北海道では水源地のほか陸上自衛隊駐屯地や航空自衛隊千歳基地に近い森林もある。水源地は世界的な水ビジネスへの思惑もあろう。自衛隊施設付近の土地は演習などで騒音がひどく道もない場所もあり、地元は買収目的に首をかしげている。
山形県では昨年2月、最上川源流の森林の一部をシンガポール在住の男性が買収していた。地元では開発による水質悪化や伐採による環境破壊などを警戒している。いったん外資に渡ると、森林の適正管理や地籍調査を進める際などにさまざまな交渉が難しくなる恐れがある。
現在、外資の土地所有に有効な規制はない。国土利用計画法や昨年春の改正森林法は売買、相続に伴う土地所有について事後の届け出は義務化している。しかし外資の動きが事前に分かる仕組みを作り上げておくべきだろう。民主党は水資源保全に向け議員立法で「水循環基本法案」を今国会に提出する予定だ。具体化を急いでほしい。
埼玉県の条例案も売買を制限することはできないが、事前に把握することで目的や水資源への影響を調べ不適当なら所有者に助言できる。森林はいわば県民の共有財産であり、県のアドバイスで所有者が「危ない取引はできない」と判断するだけでも条例化の意味はある。
県内は県の連絡協議会が情報収集に努めており、現時点で確認されていない。大野市では水資源の現状や保全への情報集め、方策提案を目指すワーキングチームが調査研究を始めた。こうした活動で森林資源の動きは分かるものだ。
県内の民有林は27万3千ヘクタール。1ヘクタール超えの開発規制や伐採の事前届け出制はあるが、外資買収には裸同然だ。山林の地籍調査が低調な本県は所有者を明確にして山林整備に対する意識を高める必要がある。まず地籍確認を進め森林保全につなげたい。
