マツダ本社工場への突入事件の裁判員裁判は17日、殺人などの罪に問われた元同社期間社員、引寺(ひきじ)利明被告(44)の起訴後の精神鑑定を担当した医師が広島地裁(伊名波宏仁裁判長)の第14回公判に出廷。鑑定結果が初めて開示され、引寺被告が「妄想性障害」の状態だったとの診断内容が示された。一方で事件態様などから「完全責任能力に近いものがあった」とも指摘。最大の争点である責任能力を巡り、検察・弁護側双方の質問が続いた。
広島地検は10年10月、起訴前鑑定の結果から「刑事責任能力が問える」として引寺被告を起訴したが、弁護側は再鑑定を求め、地裁が実施を決定していた。
鑑定医は、▽引寺被告は「集団ストーカー行為」を受けているという妄想を抱き、それが動機になった▽被告は年齢を重ねるにつれ、投げやりで悲観的な性格になった▽突入直前に迷いが生じるなど健全性も残されていた--などの鑑定結果を説明した。検察・弁護側双方は、障害が突入の決意にどのように影響したか、細かく質問した。
鑑定医への尋問に先立ち、被告人質問があり、裁判員6人全員が引寺被告に質問した。【中里顕、寺岡俊】
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検察官 被告が実行に踏み切ったのは、精神疾患と人格では、どちらの要因が大きいのか。
鑑定医 妄想だけではなく、性格が相当大きな影響を与えたと考えられる。性格の方が大きいと思う。
弁護人 被告が精神疾患を偽っている可能性は。
鑑定医 ない。事件前から知人らに「集団ストーカー行為」の相談をしている。
弁護人 被告は心神喪失ということにはならないのか。
鑑定医 そうだ。心神耗弱の中の完全責任能力に近いと個人的には思う。
検察官 妄想性障害で自己のコントロールはほとんど失われていたか。
鑑定医 全くではないが、ある程度は失われていた。
毎日新聞 2012年2月18日 地方版