「友紀夫に変えたい」--。突如、改名宣言をした鳩山由紀夫元首相(65)。自らの政治信条である「友愛精神」を広く伝えるためという。かつては政界引退を表明しながら、あっさり撤回したこともあったが、今回はどこまで「本気」なのか。鳩山氏を直撃した。【大槻英二】
--2月4日、地元の北海道室蘭市での後援会会合で「由紀夫の『由』を『友』という字に変えたい」と明らかにしました。改めて真意をうかがいたいのですが。
鳩山さん 決して世間様を驚かせようというつもりじゃないんです。私自身、今までの人生を振り返って、ざんげするところはざんげし、心機一転やり直そう。そういう気持ちを(改名宣言に)込めたつもりです。
もちろん、建国記念の日の2月11日生まれで「紀」元節に「由」来する「おとこ(夫)」という両親からもらった名前も大事に思っています。だから、それも尊重しながら「友愛」という考え方をもっとあまねく、素直に受け入れていただけるよう努力したいという意味なんです。
--「ざんげ」という言葉が出ましたが、特に何を悔い改めたいと?
鳩山さん 圧倒的な支援をいただいて政権交代を実現させることができ、首相までやらせていただきながら、1年足らずで辞めざるをえなかった。自分自身の未熟さゆえにうまくいかなかったことは大いに反省しています。
--「友愛」の由来は、祖父の鳩山一郎元首相がオーストリアの政治家で欧州統合を唱えたクーデンホーフ・カレルギーの著書を翻訳する際、博愛を意味する語にこの2字をあてたことでしたね。
鳩山さん 自由が過ぎれば平等が失われ、平等が過ぎれば自由が失われる。自由と平等の均衡を図る懸け橋となるのが友愛です。私は現代流に「自由・平等」を「自立・共生」と置き換え、因数分解すると「友愛は自立と共生である」と解釈しています。「絆」という言葉にも極めて近い。東日本大震災を経験した今こそ、友愛精神を基調に新しい社会をつくりあげることが、これからの日本の役割じゃないかと思います。
--その「友愛精神」が「ちゃかされたり、十分に伝わらなかったりしている」とも発言していますね。
鳩山さん 「友愛」というと甘っちょろく聞こえますが、元はフランス革命のスローガン「自由・平等・博愛」の博愛のことであり、全体主義との戦いの中で出てきた革命的な精神です。インドネシアやベトナムなど海外へ行くと「鳩山のユウアイに賛成だ」と共感してくれる方も結構いらっしゃる。
(96年、「友愛」を理念に旧民主党の構想を掲げた時)中曽根大勲位(康弘元首相)から「ソフトクリームみたい」というお言葉をいただきましたが、その後、「アイスキャンディー」まで昇格したんですよ。「しんはある。でも細い」って。
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--野田佳彦首相が「不退転の覚悟」で実行しようとしている消費増税に反対の立場ということですが、そもそも野田首相をどう評価しているのですか。
鳩山さん 野田首相は強い意志で政治的メッセージを出し、包容力もお持ちの方だと思います。それだけに、まずは党全体を一つにまとめるような包容力を示していただきたい。そうすることで政策課題も実現できる。
税と社会保障の一体改革は大変重要な議論です。ただ、「何年後に増税します」というのを先に出してしまうと、それまでに無駄遣いをなくす努力がなおざりにされかねない。今の経済状況も考えなきゃいけない。野田首相は財務相もされており、いろんな知恵もおありなんでしょうけど、前のめりになり過ぎている。非常に懸念しています。
--ご自身、首相時代に党内の反対勢力に苦労をさせられたはず。民主党が送り出した3人目の首相を全力で支えようという気はない?
鳩山さん 野田首相が、例えば小沢一郎元代表の意見をちゃんと聞かれたらよろしいかと思うんです。意見が合わないと、どうしても遠ざけてしまう。ここはじっくり話をして、「党運営のために協力してほしい」とお願いし、自分も改めるところは改めてお互いに歩み寄ればいいんです。
--こういう時こそ「友愛精神」を発揮して、間を取り持たれたらいかがですか。
鳩山さん 私の役回りはそういうところにあるのかなと思っています。
--小沢元代表とは考え方が近いのですか。
鳩山さん 全ての政策が同じということではありませんが、消費税に関するスタンスは基本的には同じです。小沢さんは「おっかないおっさん」みたいに思われているかもしれませんが、懐に飛びこめば共感を持つ人が多い。今はまさに国難。強引すぎるところはあっても、力を持った、決断力のある政治家が求められていると思います。
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--首相在任中に「最低でも県外」と唱えながら挫折した沖縄の基地問題。米軍普天間飛行場の移設を切り離し、在沖縄海兵隊のグアム移転などを先行実施することで日米両政府が合意するなど、新たな局面を迎えています。
鳩山さん 「最低でも県外」は民主党の中で決めた話であり、それで政権を取ったわけで、当然、時の首相として主張すべきことでした。沖縄の皆さんの期待に応えたいという思いからとはいえ、期待を与え過ぎてしまったことが逆に迷惑をかける結果となった。防衛省や外務省からすると、俺たちが苦労して決めたことをひっくり返すなんてとんでもないという思いが根底にあったようです。私自身の未熟さゆえに官僚の壁を打ち破れなかった。
退陣後は沖縄にうかがっていませんので、県民の皆さんに「十分力を尽くせなくて申し訳なかった」と、謝りに行きたい思いはあります。
--外交担当の党最高顧問として、沖縄のためにできることはありますか。
鳩山さん 今は「普天間の固定化」にならないことを一番に願っています。沖縄の皆さんの気持ちを学ばせていただきながら、米国に対して言うべきことはしっかり伝えていきたい。新たな道って開かれるような気がするんですよね。
--ところで、いつから「友紀夫」になるのですか?
鳩山さん 今、一気に戸籍名まで変えなきゃならんとは思っていません。次の衆院選は新しい名前でやりたいけれど、事務所のスタッフとも相談したい。改名は政治活動のためというより、自分自身の心の問題なんです。だから無理のない範囲で変えていければと考えています。
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■人物略歴
1947年、東京都生まれ。東京大工学部卒。米スタンフォード大博士課程修了。専修大助教授を経て、86年の衆院選で初当選(旧北海道4区=現9区)。当選8回。09年9月から10年6月まで第93代首相。
毎日新聞 2012年2月20日 東京夕刊