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鎌田實の「がんばらない&あきらめない」対談
脳機能科学者・苫米地英人さん VS
「がんばらない」の医師 鎌田實

撮影:板橋雄一
(2010年01月号)

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心と身体を一体のものとして考える医療――そこに新たな地平が開かれる
治ったあとに自分が活躍している世界、それをゴールにする

心と身体は別ではなく同じものである

写真:苫米地さんと鎌田さん

鎌田 わかった。あいつバカだな、とてつもない夢持って、というほうがいいんだ。

苫米地 そのほうが長生きします。

鎌田 がんが治るのが当たり前で、がんが治ってとてつもないゴールを実現しているリアルな身体的なイメージを持つことが、がんを克服する。心と身体はつながっているから、脳がそういう訓練をしていると、身体もそうなっていく。

苫米地 最新の脳科学では、心と身体はつながっているのではなく、同じものだということになっています。

鎌田 二元論ではないんだ。

苫米地 脳と心は同じ、心と身体も同じです。

鎌田 日本人はもともと一元論的な考え方をしていますよね。

苫米地 アメリカでは気功を医療に採り入れる研究も行われていますが、ここ20〜30年前から言われ始めた代替統合医療というのは、まさに一元論的な発想から生まれたものです。最近のホリスティック(包括的)医療もそれです。

鎌田 イメージ療法もその流れから生まれたものですね。

苫米地 イメージ療法は、がんが消えていくイメージではなく、がんが消えたイメージをすることが大事です。自分はがんが治ってパイロットになっている。それをリアルにイメージすることです。

鎌田 気功にしても、イメージ療法にしても、たしかに効くこともあると思いますが、治らない人もいますよね。それはどう考えればいいの。

苫米地 私たちの立場から言えば、情報空間の臨場感が足りなかったということです。生体レベルの臨場感に負けちゃったということです。臨場感が本当に高ければ、100パーセント治るはずです。同じ外科医でも、患者さんの情報空間の書き換えができる人と、できない人とでは、患者さんの治癒率は大きく違います。

鎌田 メスの腕前は同じでも、患者さんにかける言葉で違ってくる。

苫米地 全然違ってきます。外科医のメスは臨場感を上げるツールだと思ったほうがいいですよ。

患者さんが待っている医師の「大丈夫」という言葉

鎌田 私は今、『ことばで治療する』(朝日新聞社 09年11月初旬発売)という本を書いています。医師からこんなことを言われて元気になった、こんなことを言われて早死にした、もう少し医師の言葉が違っていたら、といった患者さんサイドの声を背景にした本です。医師の言葉は大事ですね。

苫米地 先ほど少し触れましたが、医師は五感と第六感である言葉を駆使して患者さんに接する必要があります。私は、五感と言葉を含めた総体を第六感と言うべきかもしれないと思っています。第六感は情報空間に関するものです。

鎌田 そうか。医師はメスの技術を高めるだけでなく、心身から醸し出すムードを高めることが大事ですね。

苫米地 物理的空間においては、メスを持っていることは臨場感を高めるのに圧倒的に有利です。しかし、相手は細胞にがんを持っている患者さんです。メスで触ることができなければ、それ以外の六感をフル回転して接するしかないじゃないですか。

鎌田 福島孝徳さんというアメリカを拠点に活躍する脳外科医がいます。奇跡的な手術を行うので、マスコミでは「神の手」と呼ばれています。私の病院でも手術をしていただいたことがありますが、患者さんに対して猛烈に語りかけますね。手術が終わっても励まし続ける。患者さんは福島さんのメスだけでなく、全人格的な影響も受けて治っていくわけです。

苫米地 医師から「私だったら治る」と自信を持って言ってもらわないと、治るものも治りませんよ。日本では、真面目な医師ほど自信がなく、そういうことは言いたがりませんが、堂々と「私が来たから、もう治りました」ぐらい言ったほうがいいんです(笑)。

鎌田 90パーセント以上自信があっても、数パーセント不安があると、訴訟のことも考えて、その数パーセントを患者さんに伝えるわけです。患者さんはその数パーセントを気にするから、治るものも治らなくなる。

苫米地 執刀医は「100パーセント治る」と言ったほうがいいですよ。

鎌田 私は内科医だから、大雑把に楽観的なことを言って励ましますけれどね(笑)。患者さんは「大丈夫」と言ってもらいたいんだよね。

苫米地 「安楽に亡くなっていきましょう」などと言う人がいますが、それはダメです。また、この病院へ入院すると死を待つのみ、というような病院へ入るのもダメです。

鎌田 もう治らないとわかっていても……。

苫米地 少なくとも偉い先生は最後まで「大丈夫」と言い続けることが大事です。また、祈りも治癒率を上げますね。いずれにしても、医師は必要な告知をした上で、自信を持って「治る」と言い続けることです。

医師が元気でなければ患者さんは元気になれない

鎌田 きょうお話をうかがって、苫米地さんの、情報空間にゴールを設定し、それに向けたリアルな臨場感を持つことによって、病気を克服していくという手法は、医療や健康増進など、いろんな分野に使えると思いました。もう少し広がっていくといい。

苫米地 大学病院からたまにレクチャーを頼まれるようになりましたが、まだまだです。

鎌田 洗脳・脱洗脳ということに関して、変な先入観があるんでしょうか。

苫米地 日本人は、本当に健康になりたいと思っていないんじゃないですか(笑)。病院がコンフォートゾーンだと考えている人が多いとしたら、その考え方を正すよう洗脳していく必要がありますね(笑)。

鎌田 苫米地さんの考え方を内科医だけでも理解していれば、医療現場は変わってくるでしょうね。

苫米地 全然違うと思います。最近、各地の病院で医師不足が起き、1日に数多くの患者さんの診察に追われて、医師が疲れていると聞きます。過労が高じて鬱病になる医師もいるそうです。医師が疲れて元気をなくしていては、患者さんが元気になれるはずはありません。医師と患者さんの間には、同調現象が起きるのです。最後に重ねて強調しておきたいことは、人の心と身体は一元論で考えるべきである、という点です。日本はもともと一元論で考えてきた国ですから、心と身体を一体のものとして考える医療は、これから広がっていくと思います。がんの治療も、そこに新たな地平が開かれていくと思います。

鎌田 目から鱗が落ちるようなお話、読者も大いに参考になったと思います。どうもありがとうございました。

(構成/江口敏)


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