「その表現だけはちょとお止めいただきたい」(野田佳彦首相)「事実に基づかない御発言は、こういう公の場所ですので、(止めるよう)強くお願いを申し上げたい」(細野豪志環境相兼原発事故担当相)---。2月15日に開いた予算委員会の席上、日頃は穏やかな首相と環境相が色めき立つ場面があった。
政府が4月1日に設置する方針を掲げている「原子力規制庁」に、自民党の塩崎恭久・元官房長官が噛み付いた時のことだ。塩崎議員が繰り返し「菅直人リスク」という言葉を使ったことに両氏が苦言を呈したのである。
原発にからむ「菅直人リスク」と聞けば、多くの国民が思い当たる節があるに違いない。塩崎議員の質問を要約すればこうだ。
原子力災害本部長になった菅首相は、東京電力福島第一原子力発電所で事故が起きた翌朝、現場に飛んで行って大混乱をもたらした。また、SPEEDI(文部科学省の緊急時迅速放射能影響予測ネットワークシステム)の情報を公開せず、避難指示に活用しなかったために、多くの福島県民・子供たちを放射能に晒す結果になった。
事故対応でも「ベントをしろ」「海水注入をとめろ」と指示、メルトダウンが起きていたにもかかわらず、それを認めず、2ヵ月も隠蔽した。原発に素人である政治家の誤った対応の結果、国民の不安をあおり、原子力政策に大きな信用失墜を招いた、と指摘している。
さらに、中部電力浜岡原子力発電所の停止や、九州電力玄海原子力発電所の再起動撤回、事故後3ヵ月たってから突然ストレステストをやれと指示したことなど、支持率アップを狙った政治パフォーマンスではなかったのか、というのだ。そうした政治家が身勝手な行動をとることを「菅直人リスク」としたわけだ。
そうした指摘を細野大臣が、「事実でない」として菅・前首相を庇ったのだ。事故直後から菅首相補佐官として事故対応に当たった細野氏からすれば、自らの対応の問題点を指摘されたに等しい。もっとも、震災後の原子力災害対策本部などの議事録が残っていない現状では、何が事実かは水掛け論だろう。
政府が設立を目指している「原子力規制庁」とこの"菅直人リスク"はどう関係するのか。要は独立性の問題なのだ。
これまでの日本の原子力規制は、経済産業省の原子力安全・保安院が原発を運用する電力会社を規制することになっていた。さらに内閣府に置かれた原子力安全委員会がダブルチェックする体制だったが、東電の原発事故に直面して、保安院も安全委員会も十分に機能していないことが白日の下に晒される結果になったのは周知の通りだ。
とくに、安全規制行う保安院が、原発事業を推進する経産省の傘下にあり、人事も独立していないことから、事業推進優先で安全が後回しになったのではないか、と批判された。これに対して政府は規制見直しの全面的な見直しを表明、その結果出てきたのが「原子力規制庁」なのだ。
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