メインイメージ

 

 東京電力福島第1原発から南南西に約60キロ。福島県いわき市の郊外にある住民憩いの運動場は、がれきの山と化していた。東日本大震災で壊れた家屋から市が運び入れた木くずなど約9万トン。こうした仮置きか、未回収のがれきは県内で340万トンに上る。岩手、宮城の被災2県とは似て非なる"汚染がれき"は、汚泥とともに福島県復興の足かせになっている。

負の遺産

 「突然降って湧いた話。数十年後に安全とは言い切れず、子や孫の代まで負の遺産を引き継ぐわけにはいかない」

 いわき市が2011年7月4日、最終処分場の近隣住民に埋め立て容認を求めて開いた説明会。農業の男性(79)は出席した後、そう吐き捨てるように話した。

 市は廃棄物を市内17カ所に分けて保管しているが、うち5カ所は既に満杯状態。"迷惑施設"を受け入れた近隣住民への負い目もあり、「いつまでも置きっぱなしは困る。安全な方法で早く処分してほしい」と望む住民との間で身動きが取れない。
 (※いわき市によると、持ち込まれているのは市内のがれきだけで、放射線検査でも一般の家庭ゴミと同程度だという)

 原発20キロ圏内の警戒区域は、さらに深刻だ。第1原発がある大熊町によると、放射性物質を含んだがれきは自衛隊が集め、農地などに仮置きされたままだという。

押し付け

 環境省は11年6月、福島県沿岸部と中央部では警戒区域や計画的避難区域を除き、放射性セシウム濃度が1キログラム当たり8千ベクレル以下の不燃物や焼却灰は最終処分場に埋め立てることが可能とする方針を示した。

 同省は「福島県の廃棄物は県内で処理するのが適切」との姿勢を崩さないが、佐藤雄平(さとう・ゆうへい)知事は「あり得ない」と不快感を表明。内堀雅雄(うちぼり・まさお)副知事も「今後、最終処分場の議論が県内でなされることは一パーセントもない」とけん制している。

 県の担当者は「原発事故の被害者がなぜ汚染されたごみまで押し付けられるのか、という県民感情が背景にある」と代弁する。

 県民の同意は得られるのか。「埋め立て処分場周辺の継続的なモニタリング調査は最低限必要だ。国と県、市町村が住民の安心感を担保するしかない」と話すのは県一般廃棄物課の上野隆司(うえの・たかし)課長。「数字で示すことができる安全とは違い、安心は住民一人一人の気持ちの問題だ」

たまる不信

 民主党は、環境相が指定した地域の汚染廃棄物を国の責任で処理するための特別措置法案の今国会提出に意欲を示している。環境省も処理方針を示していない警戒区域内のがれきなどについて、放射線量の詳細調査を8月下旬にも実施したいとの考えだ。

 汚染がれきの処理は前進したかのように見えるが、肝心の具体的な最終処分場の設置場所や放射性物質の濃度基準などは、政府内で調整などに一定の時間がかかるとして、法整備から切り離して議論される可能性も出ている。

 「制度づくりと具体的な課題への対処は別次元。処理計画や基準策定はそうやすやすとは進まない」と環境省幹部。福島県内のある自治体の担当者は「国が処理施設を持っているわけではなく、現実は各自治体が対応するしか方法がない」とこぼす。汚染がれきは、国への不信と一緒に日々たまっていく。(中尾聡一郎、岩村賢人)

facebook

日本を創る 連載企画原発編 復興への道

①原発と国家

第1部「安全幻影」
第2部「『立地』の迷路」

②復興への道

第1部「漂う人びと」
番外編・専門家に聞く
第2部「再建のハードル」

③インタビュー

震災と文明