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西條 本当に恐ろしいことなんですが、一度大失敗してしまうと、取り返しがつかない、ということもあります。長期的に成功し続ける、ということは“奇跡”といってもいいくらい難しいことなんです。

 たとえば、これまでありとあらゆる経営論、経営方法に関する書籍が公刊されていますが、方法を巡る一つのパラドクスがあるんです。

――パラドクス?

西條 経営が大失敗する条件に、実は「成功体験の積み重ね」があるんです。成功させるためには成功体験を積み重ねなければなりませんが、それがいつの間にか大失敗する条件になっている、ということです。

――なるほど、それは、パラドクスですね。

西條 たとえば、ある経営手法に基づいて経営が成功すればするほど、それは正しい方法であるという確信が深まっていきます。また、組織としては、手段であるはずの方法を遵守すること自体が自己目的化してしまう、「方法の自己目的化」に陥ることもめずらしくないんです。

 ここで、厄介なのは、方法が有効で汎用性が高いほど、「方法の呪い」ともいうべき失敗の構造に引き込まれてしまうところにあります。

 ただ、これは人ごとじゃないんです。実は、人間としてとても自然なことなのです。人間は意識することなく、自らの経験の積み重ねによって何かを確信しながら生きていきますから、過去の経験上うまくいっている場合や、スムーズに進んでいる場合には、その前提にある事柄が正しいことは、自明すぎて疑いの対象にすらならないんです。

 たとえば、みんな廊下を何の疑いもなく歩いているのは、いままで床が抜け落ちたことがないという経験の積み重ねから、そのような自覚もないほど無自覚に確信されていますよね?

――確かに、言われてみればそうですね。

西條 それと同じような具合に、これまで間違いなく成果をあげてきたやり方というのは、疑いの余地もなく正しいものとして確信されてしまうんです。
「私はずっとこれで成功してきたのだ!」という台詞とともに、どれだけ多くのワンマン経営者が会社を潰してきたかを考えれば、この「方法の呪い」がいかに恐ろしいものかわかると思います。

――いや、本当ですね。大失敗する構造が少しわかった気がします。

西條 こういうことが「方法の呪い」と呼ばれるのは、そうした自覚すら生じないため、対策の立てようがないからです。むしろ、個々の経営手法を先鋭化させて成功を重ねれば重ねるほど、その呪縛も強くなってしまいます。

――どうすればよいのでしょうか?

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次なる経済大国

次なる経済大国

ジム・オニール 著

定価(税込):1,890円   発行年月:2012年2月

<内容紹介>
もはや日米欧が世界経済の中心となる時代は完全に終わった。中国をはじめとするBRICsなど8つの成長国の躍進は、世界の経済秩序を一変させるだろう。世界中の情報を分析した著者が、20年後の世界経済の勢力図を描く。2001年にBRICsを提唱し、新たな経済圏の台頭を言い当てた世界的エコノミスト、初の著書。

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西條 剛央(さいじょう・たけお)
早稲田大学大学院(MBA)専任講師(専門は、心理学と哲学)。「ふんばろう東日本支援プロジェクト」代表。
1974年、宮城県仙台市生まれ。早稲田大学大学院で博士号(人間科学)取得。「構造構成主義」という独自のメタ理論を創唱。この理論を用い、「ふんばろう東日本支援プロジェクト」を立ち上げ、ボランティア未経験ながら日本最大級のボランティア・プロジェクトへと成長させる。
「物資支援プロジェクト」では、2012年1月時点で3000か所以上の避難所、仮設住宅等に、15万5000品目に及ぶ物資を支援。また、アマゾンの「ほしい物リスト」を援用することで2万4000個以上の支援を実現。さらに岐阜県、愛知県、宮城県、福島県、大分県、大阪市、仙台市、横浜市で行き場をなくした10tトラック40台分以上もの膨大な物資を被災者へマッチング。「家電プロジェクト」では、行政や日本赤十字社の支援が受けられない個人避難宅をはじめ、2万5000世帯以上に家電を送った。その他、自立支援を目的とした「重機免許取得プロジェクト」「ミシンでお仕事プロジェクト」など様々な支援を始動し、継続中。


人を助けるすんごい仕組み

「岩をも動かす理屈はある。~震災の状況だけでなく、あらゆる仕事の場で役に立ってしまう本になったと思う」と評した糸井重里氏。ボランティア経験なしの早大大学院(MBA)専任講師が、日本最大級の支援組織「ふんばろう東日本支援プロジェクト」をどうつくったのか? 行政や日本赤十字社もできない支援から今後の有事に活かす仕組みまで大胆提案!GACKT氏、宮本亜門氏、猪瀬直樹氏、AMAZONなどからも支援の手が!1000人超の組織を無給で運営する秘密、トラブルを減らす7か条まで一挙公開!

「人を助けるすんごい仕組み」

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