この1年。「どのぐらいの被曝まで大丈夫なの?」ということが、さまざまなことで報道され、多くの人が迷いました。でも、この問題は「医学」でもなんでもないのです。被曝の知識が何もなくても、正しいことが判るという練習をしてみたいと思います。
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解説者:「基本的には放射線の被曝はそれほど危険じゃないんだね。これまでの研究では、1年100ミリシーベルトまで大丈夫というデータもあるんだ。」
視聴者:「そうですか?! でも、今まで放射線はとても怖いって聞いていたのですが?」
解説者:「世の中にはバカもいるからね。特に反原発の人なんかはなにも判らないのに、危険だ、危険だと騒いでいるんだ。」
視聴者:「なにか、1年1ミリとか聞いたことがあるのですが? 日本では国民を被曝からまもる法律もあるとか?」
解説者:「人体と健康の関係はね、LNT仮説、閾値仮説、ホルミシス効果など多くの学説がある。LNT仮説を採れば1年1ミリもあるが、閾値仮説なら1年100ミリもあるし、ホルミシス効果から言えば被曝した方がよいということになる」
視聴者:「世界的にも被曝量で合意した量があると聞いていますが?」
解説者:「その通りだ。ICRPという機関が合ってね、国債放射線防護委員会という公的な委員会なのだが、そこで1990年に国際的に合意している。原発の事故が起こったときには、1年100ミリまで認めようという機運もある。」
視聴者:「なんだか判らなくなってきたので、最初の質問に戻らせていただくと、日本の法律で決まっている量はあるのですか?」
解説者:「ある。原子炉の作業員は1年20ミリだし、医療に携わる人の場合はそれぞれ決まりがあって、厳格に守られている。」
視聴者:「私はどのぐらいですか?」
解説者:「えっ?あなた?あなたは関係がない。放射線の法律は放射線を出す人は機関を規制するものだから、放射線を出さない普通の人の規定はないよ。車だって運転している人には最高速度の規定はあるけれど、歩行者にはないのと同じだ。」
視聴者:「なるほど??判ったようでどうも判らないのですが、そうすると、私たちは被曝から守られていないということですか?」
解説者:「そんなことはないよ。最高速度の制限があるように、守られているんだ・・・(困ったな。ついに言わなければならないか・・・でも、時間かせぎをしている間に、放射性ヨウ素は半減期が8日だからもう無くなっているから、ごまかせたかもしれないな)・・・1年1ミリだね。法律では。」
視聴者:「えっ!1年1ミリなんですか? 法律?! 被曝量は法律で決まっているのですか?」
K:「当然じゃないか。日本は法治国家だよ。それに50発以上の原発はあるし、医療関係でも放射線をずいぶん使うのだから、国民を被曝から守る法律はあるよ。決まってるじゃないか。」
S:「その法律を決める人は誰ですか?」
K:「最後に決めるのは国会だけれど、最初は医者や被曝の専門家が委員会で決めて、それを官僚が法律の形にするんだ。もちろん、委員会の医師や専門家は大きな機関の長や責任者が多いね。その意味では当たり前だけれど法律の数値を決めるのだから「権威ある専門家が決めた」と言っても良いんだ。」
S:「その人たちが決めたのは1年何ミリシーベルトですか?」
K:「ん? 1年1ミリだよ」
S:「えっ! 1年1ミリ?! さっき、1年100ミリと教えていただいたと思うのですが?」
K:「それは君。そういうデータもあるという意味だ。学問だからね。いろいろな学説があるんだよ。」
S:「福島の原発事故の後、NHKを見ていても「法律で1年1ミリと決まっている」ということはまったく聞いたことがないのですが」
K:「福島の原発事故は非常時だからね。法律より学問の方が大切と思ったんだろう」
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1年1ミリ問題の場合は、政府、自治体、マスコミ、専門家は国民に真実を知らせることをできるだけ先に延ばし、放射線が減少してきたところで正しいことに移るという作戦でした。
それは放射線が高いときに被曝させることになったのです。専門家のごまかしの一つにこのように「ポイントになることを言わずに、その周辺を解説する」というのも常套手段のようです。でも、論理的に少しずつ追い詰めることはできます。
この場合は「法律はあるのですか?」の一発です。なお、政府が盛んに「従わなければならない上司」のように口にしていたICRPという組織はグリーンピースやシーシェパードなどと同じようなNPO(任意団体)です。政府がICRPに従うなら、シーシェパードに従って捕鯨を中止する必要があります(実にバカらしい!)。
(平成24年2月22日)
武田邦彦