<sui-setsu>
欧州の国々が今後、脱原発で行くのか原発維持か、対応が異なるのは周知の通り。しかし、バラバラに見えるがグループ分けができる。
つまり、脱原発を選んだ国は「国土が日本より小さく観光が重要産業である国」である。ドイツ、スイス、イタリア、オーストリア。国土の広い国は模様眺めだ。(念のため申し添えると、ドイツはちょっとだけ、2万平方キロばかり日本より狭い)
これは、福島原発事故独立検証委員会(いわゆる民間事故調)の北澤宏一・委員長の説である。
なぜそうなるかは、言わずもがなである。日本のような原発先進国で事故が起きるのだから、どの国でも起こりうる。万一、事故が起きれば国土の小さい国の観光は壊滅する。スイスなど原発に電源の4割を依存しているから、脱原発は容易でないが、観光立国の国是を優先した。
言われてみればもっともである。健全なリスク感覚であり適切な選択だと思う。なかでもスイス。「安全」への努力(というか偏執というべきか)には、かねがね学ぶべきものがあると思ってきた。
スイスに駐在中の産業技術総合研究所の大久保泰邦さんによれば、スイスは第一次世界大戦で穀物不足になったのに懲りて、農政の重点を酪農から穀類生産に転換した。
「農用地の義務的耕作、買い取り保証、価格助成、輸入制限そして輸出補助金」とすべてやった。結果、パン用小麦は自給率25%が全量自給できるようになった。ただし、食料全体では50~60%。
そこで82年、パン用小麦・米・砂糖・食用油・コーヒー・お茶・飼料・肥料・種子等の国家備蓄を開始した。家庭でも2カ月分の備蓄が奨励されている。
しかし、備蓄の入れ替えのため古い小麦粉は市中に放出される。それでパンを焼くからスイスのパンはまずい。国境を越えてフランスのパンを買うと格段にうまいそうだ。古米で炊いたご飯がまずいのといっしょですね。
日本政府は食糧安保を国策とし、カロリーベースの自給率を現状の40%から50%にするという。だが、それにしては埼玉県の面積に匹敵する耕地を減反で草ぼうぼうにし、コメを作らない人にカネを渡している。スイス人が聞けば卒倒するであろう。
真面目に食糧安保が必要だと考えるなら、休耕地をゼロにし、併せて穀物を大量に国家備蓄すべきであろう。それをやらないで、かけ声だけ食糧安保を言っている人たちは、いったい何を考えているのだろう。何も考えていないのだ。(専門編集委員)
毎日新聞 2012年2月22日 東京朝刊
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