人 WEBオリジナル記事
萩庭桂太 YOUR EYES ONLY

常盤貴子

#1永遠の風

PHOTO萩庭 桂太 プロフィール

はぎにわ けいた/1966年1月29日生まれ、東京都出身。
1986年東京写真専門学校卒業。同年よりフリーランス・カメラマンとして活動開始。雑誌、広告、CDジャケット、カレンダー、WEB、等幅広いメディアで活動中。ポートレート撮影を中心に仕事のジャンルは多岐にわたる。「写真家」ではなく「写真屋」、作家ではなく職人であることをポリシーとしている。と、ここまではいいのだが、最近、説教オヤジ癖が強くなり、若い編集者が敬遠していることを、どういうわけか、本人だけは知らない。

 美しい人がスッピンに近い顔で、嬉しそうに笑っている。

 よく見れば常盤貴子じゃないの。大女優の彼女が、なぜここに、にっこり笑って?
しかもこれから来週の金曜日まで(土日はお休み)、この週刊文春web「萩庭桂太のYour eyes only」というところをクリックすると、毎日違う彼女の写真がアップされることになっているという。そしてそこにはある人の詩が流れるんだという。いったいどういうことなのか。

 …その謎については、最終日の3月2日に、彼女自身の言葉によって解いてもらうこととして……。

 いきなり第1回から、この連載は異例のものとなった。

 だいたい私はこの連載でインタビューをやれと言われたにもかかわらず、第1回の撮影にはまったく立ち会っていない。どうやら何か企てがあって「今回はインタビューはいらない」とのことであった。2回目以降もどういう形になるのかわからないし、インタビューといったって、どこでどんなスタイルになるのか、まったく決まってもいない。

 事は、ある夜、赤坂のはずれにあるきわめて庶民的な中華料理店に、この連載の担当のN局長と萩庭桂太に呼び出されたことに端を発する。
N局長は、今から10年前、まだ駆け出しのただの目立ちたがりのライターだった若い私を関西人の会と称する飲み会に誘ってくれた、口は悪いが心優しい紳士である。

 萩庭桂太とは17年くらい前から女性誌の巻頭インタビューなどで組むことが多かった。たとえばKeikoの結婚だ、釈由美子が痩せた、神田うのにピラティスをやらせよう、黒木瞳の帰郷…そんな8ページくらいある企画をご一緒した。下手すると1時間半くらいの制限時間で撮影とインタビューを完成させなくてはならない。そういうときに、カメラマンによっては、なんとか自分の撮影時間を確保しようとヒステリックになる人もいる。しかし萩庭桂太というカメラマンは今風の言葉でいう「サクサクと」しかも完璧に美しい写真を撮って、当たり前のようにたっぷりインタビューの時間をくれた。私はそのとき古い言葉でいう「ご恩」を感じた。

 その二人の丸い背中をキレイとは言えないカウンターに見つけたとき、関西女の私はすでに「こら、なんとかせなあかんな」とつい思ってしまったのだった。

「ま、餃子でも食べえな」

 N局長にすすめられるがまま、餃子を食べた私は、次の提案をのむしかなかったのである。

「萩庭の写真の連載をやるんだけど、記事を担当してくれないかな。ギャラは …ないよ」

 私はすでに餃子を食べてしまったのだった。なんで食べてしまったのだろう、と一瞬激しく後悔したが、面白いな、とも思ってしまった。

 聴けば萩庭桂太とN局長は、さらに深い因縁があるようだ。なんでも萩庭が初めて文春で仕事をもらい、モノクロの写真を自分の部屋で焼いてもっていったとき、N局長は「ふむ」と眉をひそめた。そしてやおらその写真に、黒マジックで影を描き込んだのだった。新人記者がデスクに拙稿を破かれたという話は聴いたことがあるが、焼き上がった写真にマジックで描き込んだという話は前代未聞、これまた異例なことである。「おい、いいか。こういうふうにここを濃く焼いてくるんだ」。ことごとくそういう指導を引き受けての25年後、今現在の萩庭桂太が出来上がったというわけである。

 私は前代未聞とか、異例ということが好きだ。「これまでの例にならい」とか「前例」とかいう、国会答弁に出てきそうな言葉の、反対側にあるからだ。

 今の世の中、タダで異例じゃないと何か面白い、新しいことなんてできないんじゃないだろうか。そして今回の「異例」は「例」をよく知り、それをまた新しく作り直し続けてきた人たちのやる、異例なのである。

「Your eyes only」は、「複製禁止」を意味する本来の英語から「どうしても欲しいでしょ」という俗語にも使われるのだという。今、どうしても欲しいものってなんなんだろう。それが一瞬の閃光のようなものだとしたら、それこそ写真にしかとらえられないものなんじゃないだろうか。

 というわけで、とりあえず異例の、スタートである。

 今日からこのページを毎日クリックしていただきたい。

 歩きたい場所を歩いている常盤貴子が、そこにいる。

(取材・文 : 森 綾)