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視覚障害者が街を歩くときの支えとなる点字ブロック。点字ブロックの持つ意味は「誘導」と「警告」の2つです。しかし、街中には40種類以上もの点字ブロックがあふれ、視覚障害者が戸惑うという事態が起きています。私たちの身近にある点字ブロック。点字ブロックはどうして生まれ、増えてきたのか。あなたの知らない点字ブロックの話をご紹介します。
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点字ブロック
(正式名称:視覚障害者誘導用ブロック) |
・誘導ブロック…
この線をたどれば安全ですよと誘導する。
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・警告ブロック…
段差、ホームの端など、危険や注意を喚起する。
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東京都新宿区高田馬場。この街には、点字図書館や盲人福祉センターなど、視覚障害者の施設が集中しています。
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しかし、この街の点字図書館に勤める視覚障害者の甲賀桂子さんは、「駅から400m先にある勤務先まで、さまざまな点字ブロックが混在している」と言います。
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・駅前広場…線は4本。端は丸くなっている。
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・角を曲がると…線は同じ4本。しかし、かなりすり減っている。
道路と点字ブロックの高さの差がほとんどないので、区別が明らかではありません。(甲賀さん)
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駅から200m…色鮮やかな点字ブロック。
見た感じ、新しくないですか? 最近張り替えたばかりで、「1列目」「2列目」とわかるくらいすごくはっきりしています。(甲賀さん)
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路地を入ると…長い線と短い線が互い違いに並んでいる。
曲がり角や危険な所の「警告」のブロックと区別が…。コントラストがなくなってしまうのでね。(甲賀さん)
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駅から図書館までの400mの中に、線ブロックだけでも5種類が混在していました。なぜこのようなことになってしまったのでしょうか。
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混在の理由 |
1 管理者が違う
JR、西武鉄道、地下鉄東京メトロの3社が乗り入れしている高田馬場駅。鉄道会社が違うと、使用している点字ブロックも違います。 |
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新宿区と東京都。土地の管轄が異なると、点字ブロックも切り替わっています。
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通常、都道と区道が互いに接している部分は協議を取り交わして工事をしますがが、点字ブロックの種類という細かいところまでは統一がされていなかったということです。(新宿区環境土木部 土木部長 柏木直行さん)
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2.工事業者が違う
管轄が同じでも、傷んだ歩道を補修したり、水道やガス工事で掘り起こしたり、そのたびに工事業者が思い思いの点字ブロックを取り付けてきました。
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好みと言ったら大げさですけれども、人の感覚、感性の良し悪しで、現場にいろいろなタイプの点字ブロックが出てしまったということはあると思います。(東京都建設局 安全施設課長 萩原松博さん)
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3.景観への配慮
点字ブロックは、弱視の人にも見えやすいように、黄色などの目立つ色が望ましいとされています。ところが最近は、街の景観を考えて歩道と同じような色の点字ブロックが使われるようになってきました。
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私たちの歩行が安心して行われるためには、「ここはこの点字ブロック、あそこはあの点字ブロック」というのではなく、誰でもわかる約束事で統一された点字ブロックを敷いていただきたいと思います。(視覚障害者 甲賀桂子さん)
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ゲスト:
徳島大学大学院工学研究科教授 末田統さん |
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末田統さん |
視覚障害者のための器機設備などを研究開発されています。
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‐‐点字ブロックは日本で生まれたものだそうですね。
末田さん: そうです。約40年前に日本で発明されました。日本は今、「点字ブロック大国」を言ってもいいほど普及しており、これは世界に類を見ないものだと思います。
‐‐街中に普及したということが、結果として混在へとつながってしまったのでしょうか。
末田さん: 40年という歴史の中で、いろいろなものが考案され、いろいろな所に敷設されました。それが残っているということだと思います。
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‐‐都道と区道で規格が別々になってしまったというのは?
末田さん: 地方自治体、鉄道会社、そういう横の連携がうまくいかなかったということでしょうね。一生懸命「敷設しよう」とはしていたのでしょうけれども、種類といった細かい部分は業者任せになっていたということが、現在のような不連続性を生んでいる原因だと思います。
‐‐メーカーによっても普及させるためにいろいろな製品を作ったのですね。
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末田さん: それぞれの会社が「自分のものを売り込もう」と、商品としての価値をつけるために少しずつ改良し、意匠登録していったのが種類を増やす原因になったと思われます。しかし、それによって、いろいろ研究され、進歩したということも言えるのですが。
‐‐これは誘導用のブロックですけれども、この凹凸にもいろいろなものがあるようですね。
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末田さん: 「わかりやすさ」という面では、凸凹をはっきりさせたほうがいい。ところが、「歩きやすさ」という面では、それは少ないほうがいい。こういった違った特性の中で、どうするかということが研究の大きな課題になっています。
‐‐このような、小判型の誘導用ブロックもあります。
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末田さん: 車いすが横断するとき、あるいは、歩いて横切るときもそうですが、このように表面積を大きくしたほうがガタガタしないということで考案されました。ところがこれは、点ブロックとの切り替わりがわかりにくいという欠点もあります。
40年間の過程の中で、普及を目指しいろいろな工夫が凝らされただけに、種類も増えてしまった点字ブロック。3年前、ようやくJIS規格により統一されました。 |
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■点字ブロック 第1号誕生
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世界初の点字ブロック第1号が誕生したのは、昭和40年。コンクリートブロックの表面に、高さ5mmの丸い突起を縦横に並べたものでした。発明したのは岡山県に住む三宅精一さん。「失明した友人が、安全に街を歩ける方法はないか」と考え、「交差点など危険な場所に凹凸をつければ、目が見えなくても足の裏でわかるはずだ」とひらめきました。私財を投げ打ち、アイデアを実現化した三宅さん。試作品をつくっては県や市に寄贈し、普及を図ろうとしていました。
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■点字ブロック 普及の転機
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点字ブロックが誕生して8年後の昭和48年。2月に国鉄高田馬場駅で、半年後には大阪の福島駅で視覚障害者がホームから転落、死亡や両足切断という悲惨な事故が相次ぎました。なぜ国鉄は点字ブロックの設置を怠ったのか。裁判で安全対策の不備が問われました。
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事故直後、国鉄は「どのような点字ブロックを駅に設置したらよいか」という研究を、日本大学工学部に依頼していました。大学の空き地には、線の太さや数、点の大きさなどを少しずつ変えた20種類以上の点字ブロックが試作品としてつくられ、歩きやすさなどを調べる大掛かりな実験が行われました。
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車いすの人も、視覚障害者も聴覚障害者も、そして松葉づえの人も、すべての障害者が使いやすいものでなかったら困るわけです。実験には、そういういろいろな人に参加してもらいました。
(日本大学工学部 教授 佐藤平さん)
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実験の結果、通行の邪魔にならず、視覚障害者もわかりやすいという点ブロックと、歩きやすく、車いすの人も通りやすいという小判型のブロックが選ばれました。佐藤さんの2種類の点字ブロックは、国鉄の駅を中心に全国へと広がっていきます。そして、点字ブロックの重要性が認められるにつれ、次々と新たな種類が生み出されていきました。
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・わかりやすさの実験
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縦、横、斜め、いろいろな角度からブロックの上を歩いてもらい、どのタイプのものが識別しやすいが調べます。線ブロックの場合、「線が細くて本数が少ないほうがわかりやすい」ということが明らかになりました。 |
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・歩きやすさの実験 |
わかりやすさとは逆に、「線が太く、本数の多いほうが歩きやすい」ということがわかりました。
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点字ブロック誕生から36年後の平成13年。わかりやすさと歩きやすさ。そのバランスを考え、点字ブロックはようやくJIS規格で制定されました。
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点ブロック…点の数は縦横5列の25個。直径は小さく、メリハリの効いたわかりやすい形。
線ブロック…一本一本の幅を狭くすることでわかりやすさを際立たせ、線を4本にすることで、歩きやすさも兼ね備えています。
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‐‐点字ブロックの統一規格制定には、末田さんも責任者としてかかわったということですが、どのような思いでおつくりになりましたか。
末田さん: JIS規格ができたということは、いろいろな混乱を取り除くという意味では非常に大きな一歩だと思います。また、このために非常に多くの実験を行い、膨大なデータが蓄積できました。これは、今後世界に発信できる大きな財産になったと思います。
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今後の課題 |
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1.色
最近は、いろいろな色の歩道が出てきました。そのため、現在使われている黄色が見えにくい場合もあります。弱視の方にわかりやすいものにするには、どうコントラストをつけたらいいかという課題が残っています。
2.材質
材質としては、ゴムやプラスチックなどがあるのですが、歩道の舗装もいろいろなものが出ています。それぞれの特性に合わせた、わかりやすいパターンを研究する必要があります。
3.施設方法 今までの形、色、材質といったハードウエアなことではなく、ソフトウエアな話ですので、いろいろな方のご意見を聞きながら、科学的な根拠に基づいた結論を出していきたいと思っています。
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‐‐日本で誕生した点字ブロック。今や海外でも注目され、今度はISO(国際標準化機構)で国際基準をつくろうという流れになっています。
末田さん: 日本で生まれた点字ブロックが、ヨーロッパをはじめ、アジア、アメリカなど広く行き渡るようになりました。その際、それぞれの国でいろいろ考えられたものを導入している場合もあれば、日本のものがそのまま導入された所もあります。今、グローバリゼーションという考えのもと、これらを一本化する必要に迫られています。
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‐‐「いいものだ」と、輸出されたのはいいけれども、それがまちまちに使われていると、視覚障害の方がまたそこで戸惑ってしまいますものね。
末田さん: そうです。たとえば、日本では点ブロックと線ブロックの2種類ですが、イギリスでは7種類あって、その使われ方も違っています。このあたりを統一化することが課題です。今まで日本で蓄積してきた40年間のデータがここで世界に発信できるのではないかと思っています。

点字ブロックというのは、「人にやさしい街づくり」の一番身近で、具体的な姿なのかもしれません。末田せんせい、どうもありがとうございました。
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