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【キサト…ってゆーか、葛西数李短編:[侍]】 なぜ三日月が好きなのかと、ふ、と考える瞬間があります。 月には様々な顔がある。 そのどれを好きになっても良いのに。僕は三日月がいちばん好きだ。 剣閃が描く型に似ている ああ 僕は サムライだったのですよね。侍だった…… 「おまえは掴めない子だね、数李(しゅり)。 さながら手のひらをすり抜けてゆく風のようだ」 兄はそう言って、優しく僕の髪を撫でてくれました。家を出。[葛西]の名を棄てる僕の頭をただ、撫でてくださった。 「私は少しだけ、おまえが羨ましいよ数李」 「羨ましい…?」 「葛西という家。これがどれほどの価値ある家かを、知っているか」 「知ってます。富を財産を。果てしなく築く家訓を掲げし、東北の長だ」 「……それだけではない」 兄は、僕の両肩を力強く掴み僕を見据え 「侍だよ。火焔不動神を奉る、侍の家なんだ数李」 「……………」 「そして、おまえには……剣への天武の才がある。いや、剣だけではない、頭脳も何もかもが――この私など遥かに超えた力をおまえは……」 僕は静かに人差し指を伸ばし、兄の言葉を制しました。 「だけど僕は。葛西という名前を棄てます」 「…………数李…」 「大丈夫。エンペラー。あなたが危地に陥ったなら、僕はどんな場所からも貴方を救うために駆けつけます」 もう竹刀も振らない日々では、闘う力などなくなっていようけれど 「剣道…ですか?…いちおうたしなんでいますが」 話しかけてきたのは舎弟でした。ユージ、という愛称の舎弟です。 「そうなんすか、剣道! あれ、カッコいいすよね総長!!」 [総長]とは、ただいま現在の僕の肩書きです。 東京のバイク集団の統括をしています。いい年をして道楽を、とは思いはしますが、風を斬り走る瞬間は堪らなく愛しい。 (…刀だ。……剣で斬る瞬間に似ているんです、走る瞬間は………) 物思いに浸ると、舎弟の彼が僕の傍らに温めた酒を置きます。 「あったまりますよ総長」 「ありがとうございます」 「ねえ、キサトさん」 [キサト]というのも。 愛称というやつです。 いちおう漢字で表記をすると[酒里]です。 これ、読み方を変えると『しゅり』って読めたりするんですよ。 「キサトさん、剣道やってんなら葛西善一郎ってやつ、知ってます?」 「え……」 「こないだ会ったんだ。旅行かなんかで東京まで来てたらしくて! 茶髪にタレ目で、真っ白なスーツ姿でさぁ、竹刀を抜いて凄んできたんだ」 「ど、どういうシチュエーションか知りませんが、彼と喧嘩をしたのですかユージ」 「いや、してねえっす……でも、スゲーなぁって思った。たったひとりで俺たち雷砲党に挑んでくるだなんて」 「……………」 “あれが本物のサムライってやつかぁ”と素直に感心しきる舎弟に。僕は微かに歯軋りをした。 (僕は。サムライを棄ててしまったのに……) 「………? キサトさん、どうしたんすか、顔色が悪いっすよ」 「………大丈夫です…」 「時間、ある時に教えてくれませんか? 剣道」 「えっ」 「いつまた逢えるかわからないけど……善一郎に今度会ったら。あいつの友達になりたくて」 「………ユージ…」 「友達になるんならさ、とりあえず剣道の基本は覚えておかなきゃって」 僕の脳裏に、天啓が轟く。 そうか。僕が遥か遠みの東京に来たのは。葛西の名を棄てたのは。 (だが僕は、刀を棄てたわけではなかったのだ) 刀は、武器は。この頭脳と張り巡らした人脈だ。 (王兄。善一郎くん……) 葛西の名は、日の本の旗を護るために存在する。 日本の旗を護るんだ。 四肢が砕け、刀身が砕けようとも衛るべきものの為に走る。侍。 (そのためには、…名前すら棄ててしまっていいのですよ) 僕は、やはり侍だ。 葛西という偉大な名すら棄ててでも、僕は僕の刀を磨き、来るべき敵へと立ち向かいたいのだ。 「酒、進まないすね」 いぶかしむ舎弟に僕は、酷笑みを返す。 「血筋ですかね。お酒には弱いんですよ」 ----------------------- マジに即興で書きました。挿し絵とかは後で付けて、文章も整理してどっかに転載しようかなー。 22:36:38 コメント(0) [コメントを書く] ブログ[編集][作成] Chip!!ブログ作成/ホムペ/メルボ |