背徳の戦記
|
第1章 01
|
大臣達には言葉もなかった。 王都に五つの傭兵団がついたのは、間もなくだった。 鋼鉄の団、赤き旅団、死神のクリス、イーシスの団、最後に暗黒旅団。 どの傭兵団もその数五百人を超え、数多くの戦いでその名を馳せた歴戦の傭兵達である。 特に今回、王国にとって幸運だったのは、最強の呼び名も高き鋼鉄の団を迎え入れることができたことだ。鋼鉄の団は「鋼鉄の男」と称されるアースという男が率いる常勝無敗の傭兵団である。 赤き旅団は戦術的に奇襲を好む軍団だ。御印である旗が赤一色であるところからその名で呼ばれている。 死神のクリスは「死神」と称されるクリスという男が率いる軍団だ。その呼び名の通り、相手に一切の情けはかけない。徹底した虐殺を好む死神の軍団だ。 対照的なのがイーシスの団だ。「傭兵騎士」を自称するイーシスという男を中心として、騎馬戦を得意とし、正々堂々を旨とする軍団だ。 最後の暗黒旅団は死神のクリスよりも性質が悪い。攻め落とした村や街の女を陵辱するのなど当たり前。略奪も当然のように行う、世界一汚い軍団の一つだ。ただ、それでも傭兵としての実力は折り紙つきだ。カンフォウ卿にしても身中に狼を飼う様な心境だったが、背に腹は替えられない。 この五つの傭兵団にこの国の命運は掛かっていると言っても過言ではない。 間もなくして、帝国より使者が来た。要求は前回と同じ。服従か、村を差し出すか―― カンフォウ卿は、その場で使者を斬って捨てた。 事実上の宣戦布告である。 帝国とて王国の行動をただ見ていた訳ではない。実際のところカンフォウ卿が雇い入れようとした傭兵団は五つではない。十近くの傭兵団に誘いをかけたのだ。それを阻止したのはまぎれもなく帝国である。 貿易に関しても、他国に圧力を掛け、カンフォウ卿が考えていた額よりもかなり低い額で取引をさせていた。それでも莫大な利益を生んだことには変わりないのだが。 カンフォウ卿が皇女ティエルの御前で、使者を斬って捨てたというニュースは大陸全土を駆け巡った。その上でカンフォウ卿は皇女ティエルの宣言として帝国に、正式に宣戦布告した。
|
||||||
|
|
|