背徳の戦記
第1章 01
しかも騎士には数多くの問題点があった。例えば騎士はある一定期間以上は戦いに参加しない。そう国法によって定められていた。これは一重に国を守ると同時に、領地を管理する役割を持つ騎士達の命を守る為の法であった。カンフォウ卿としては忌々しい国法だ。その日数は、何と一年間の内四十日という、非常に短い期間であった。
 しかも長年の平和によって、押し並べて騎士も兵士も錬度は低い。
 それに比べ傭兵は違う。日数など関係無い。金さえ払えば、いや、金の為ならば命がけで危険な戦いに身を投じる。そして、何よりも錬度が違う。常に実戦で戦ってきた彼らは、戦いの趨勢が何によって決せられるのかを熟知していた。
 それらの理由からカンフォウ卿は傭兵団を雇い入れたのだ。
 と、同時に、ミスリル銀の村を城砦化することも忘れなかった。この村が最前線であり、最重要拠点であるということをよく理解した上での行動だ。
 それらは全て皇女ティエルに承諾を受けていたとはいえ、独断に近い行動である。王国を治めている他の大臣達の承諾は取っていない。たったの二ヶ月で行うという極端に強硬な手段だった為、大臣達から猛烈な抗議があったことは言うまでもないが、カンフォウ卿は全く聞く耳を持たなかった。
 カンフォウ卿の頭の中では、既に帝国との戦いが始まっていたのだ。
 カンフォウ卿は言った。
「貴君らは、あの強欲な皇帝が、採掘権の三割で手を引くと、本気で考えているのか」
 ミスリル銀の価値を考えれば、こちらの提案に乗ってくると大臣達は考えていたようだが、カンフォウ卿の次の一言で、大臣達は顔色を変えることになる。
「帝国の提案は、服従か、それとも村を差し出すかの二つしかなかったのだ。我が王国からの提案は皇帝の示した、どの要求にも触れていない。だが皇帝は影にもう一つの提案を提示しているではないか。どちらも飲まないのならば征服する、と」
 カンフォウ卿は言葉を続けた。
「独断に近い行動だったのは認めよう。だがこんなことすら読めない、平和を謳歌してきた貴君らに、この国が守れるのか。我が国が所有する軍団では、帝国の大軍に歯が立たないことは明白だ。事は急を用した。貴君らには不満も残ろうが、了承して頂きたい」

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