背徳の戦記
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第1章 01
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しかし、ショッキングなニュースが大陸全土を駆け抜けた。 王国の辺境の山脈の麓にある小さな村、その村の山麓の麓にある洞窟で、偶然にも素晴らしく純度の高いミスリル銀が発見されたのだ。ミスリル銀の価値は、純度の低いものでも純金の数百倍である。王国の専門家による調査によれば、埋蔵量も大陸随一とのことだ。王国にとっては嬉しいニュースだった。さしたる特産品もない王国にとってそれは、帝国や他の大陸の国々との貿易で、絶大な利益を生むことだろう。 しかしそれを黙って見ているほど、帝国は寛大な心は持ち合わせていなかった。皇帝は王国に使者を送り、二つの選択肢を提示した。 一つは帝国への完全な服従。 もう一つはミスリル銀の村を帝国に差し出すこと。 王国の若く美しい皇女ティエル・ド・ブランドーには、そのどちらも無茶な要求に思えた。皇女はまだ若い。十六になったばかりだ。先王が病気により崩御した為、彼女がこの国の支配者となった。清純、清楚、可憐とカリスマ性に満ちている美しき皇女だが、まだ若い彼女には政治的手腕はなく、それは宰相であり軍師でもあるディスティングイッシュ・ワン・カンフォウ卿に一任されていた。カンフォウ卿は王家の血を引く家に生まれ、若くして天才の名を欲しいがままにした、まだ三十に満たない青年である。 彼の意見によって、皇女ティエルは使者にこういう提案をした。 「採掘権の三割を帝国に譲りましょう」 この提案で譲歩してくれ、というのだ。採掘権の三割でも、この鉱脈のミスリル銀の純度ならば十分以上の利益を生むだろう。 使者は一度、皇帝にお伺いを立てると返し、会談の席を立った。 しかし、これで済まないとカンフォウ卿は読んでいた。欲深い帝国があの提案で納得するはずがない。この稀代の天才軍師は、短期間による戦力の強化を即座に実行に移した。今回の会見は、短いが時間を稼げれば十分だったのだ。 まずは他の大陸の国々とミスリル銀により貿易を行い、多大な利益を手に入れると、大陸、他の大陸で名を馳せた傭兵団を雇い入れたのだ。その数は五つ。総勢三千の大軍団である。と同時に、他大陸の最新の兵器を輸入した。 元々領土の小さい王国では騎士の数は二百に満たない。そして、末端の兵士まで入れても千に満たないのだ。
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