ソニー、ユッケ社長……なぜ、トラブル謝罪で失敗したか

2011年 7月20日 (水)

著者
田中 辰巳 たなか・たつみ
リスク・ヘッジ代表取締役

1953年生まれ。慶應義塾大学法学部卒業後、アイシン精機入社。83年リクルートに転じ、秘書課長、広報課長、業務部部長などを歴任。ノエビアを経て97年に危機管理のコンサルタント業務を手がけるリスク・ヘッジを設立。『そんな謝罪では会社が危ない』など著書多数。

リスク・ヘッジ代表取締役 田中辰巳 構成=宮内 健
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ソニーの1億件を超える顧客情報流出事件、焼肉酒家えびすの食中毒事件では、その後の対応によってさらに消費者の信頼を失う結果となった。トラブルが起きてしまったとき、企業はどんなメッセージを消費者に届ければよいのだろうか。

被害者と加害者が混合する事件

企業が不祥事を起こしたとき、事業継続が可能になるか否かは消費者にどんなメッセージを発するかによって決まる。適切なメッセージを発するには、人間と人間社会に対する深い洞察力が必要である。

とりわけ昨今生じている事例は複雑な案件が多い。「焼肉酒家えびす」のフーズ・フォーラスは、現時点で報じられている内容からすると卸業者である大和屋の被害者であるが、食中毒を発症した客や亡くなった客の遺族から見れば明らかな加害者である。

ハッカーの攻撃を受けゲームや映画のインターネット配信サービス「プレイステーション・ネットワーク(PSN)」利用者の個人情報流出を招いたソニーは不正侵入を受けた被害者ではあるが、サービス利用者に対する加害者でもある。

このような案件を「加被害混合案件」という。たとえば暴力団から攻撃を受ければ明らかな被害者で、食品偽装に手を染めれば明らかな加害者である。これらの対応はそれほど難しくはない。ところが加被害混合案件で企業はよく失敗する。なぜなら「自分たちは被害者」という意識が抜けきらないまま対応を行い、情報開示や謝罪、処分が中途半端になるからだ。

フーズ・フォーラスの社長は被害者が4人も亡くなっているのに、未だ辞任していない。そこから類推されるのは、本当に自分が悪いとは思っていないということである。

ソニーはハッカーの攻撃がわかってから発表するまでに1週間も時間がかかった。遅れが生じた理由について「膨大なデータを解析する作業に時間がかかった」と説明しているが、即座に開示すべきであった。すぐに第一報を出さないと、予想されうる不正に対して利用者が防御できないからである。

また、ソニーはお詫びとしてゲームコンテンツの無料提供を発表したが、「こんなセキュリティならもうソニーのゲームはやらない」というユーザーもいるだろう。そういう人にとってはゲームの無料提供はなんの賠償にもならない。このようなお詫びを思いつくのは、被害者の心理をよく理解できていないからである。

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