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山口・光の母子殺害:死刑確定へ 道内2人に聞く /北海道

 99年に山口県光市で母子を殺害したとして殺人や強姦(ごうかん)致死罪に問われた当時18歳の元少年(30)の上告が20日棄却され、元少年の死刑が確定することになった。死刑の適用基準、犯罪被害者支援や少年更生のあり方など、幅広い議論を呼んだこの事件に関わった道内の2人に、判決の受け止めや今後の課題を聞いた。【聞き手・伊藤直孝】

 ◇被害者支援に勇気与えた--北海道被害者相談室長・善養寺(ぜんようじ)圭子さん(68)

 光市事件で妻子を殺害された本村洋さん(35)とは7年前、道警が招いた講演会でお会いしてから親交がある。テレビでは激しい口調の場面がよく流れるが、実際に話すと、そういう雰囲気はない。「天国で妻と子に『お前たちの死を無駄にしなかった』と言うために動いています」と語る姿が印象的だった。

 講演会後の懇親会で、02年に米国で同世代の黒人死刑囚と面会した体験を話してくれた。「死刑がいいのか、何とも言えない気持ちがある」とこぼしていたが、それに合わせて弁護士らが死刑廃止論を持ち出すと「明らかに死刑となるべき人間を弁護する時はどういう気持ちか」と、きつい口調で問い返した。被害者の心情には、推し量れない複雑さがあると感じた。

 事件後、会社に辞表を出したけれど、上司に「社会人として税金を納めて、言いたいことを言うべきだ」と止められたという。本村さんは「お礼を言いたい」と感謝していた。被害者の心の回復は、どんな人と出会ったかで違ってくることに、私も気付かされた。

 この十数年で被害者支援は大きく変わった。05年に犯罪被害者等基本法が施行され、08年には刑事裁判の被害者参加制度もできた。本村さんの活動は関係者に勇気を与え、流れを後押しした。

 99年は217件だった道家庭生活総合カウンセリングセンター内の相談室への犯罪被害相談件数も、ここ数年は約500件に増え、被害者が声を上げやすい環境になった。事件後の被害者の居住確保など残された課題を前進させるため、今後も支援に取り組みたい。

 ◇真相未解明、冷静に議論を--札幌弁護士会・北潟谷仁(きたがたや・ひとし)弁護士(64)

 刑事事件の法医学や精神鑑定を長く研究してきた縁で、旧知の安田好弘弁護士(主任弁護人)に請われて07年から道内でただ一人、元少年の弁護団に加わった。弁護人から見ると、事件は未解明で、判決には問題が多い。再審を訴え、死刑回避に取り組みたい。

 この事件で元少年への判決が出るのは、今回が5回目。無期懲役判決だった最初の1、2審で弁護人は事実関係を争わず、審理を広島高裁に差し戻した06年6月の最高裁判決も「事実関係は揺るぎない」としてしまった。しかし被害者の遺体の首に残った傷跡は「絞め殺した」という供述と矛盾しており、事実関係の審理が尽くされたとは言い難い。

 また、元少年は父親に暴力を振るわれ、自殺した母親からは性的虐待を受けていた形跡もある。ゆがんだ環境で育ったためか、拘置所で面会した際も非常に幼い印象だった。弁護団の中には死刑存続論者もいるが「当時18歳1カ月だった元少年を死刑にするのは問題がある」との点で一致している。

 この事件では橋下徹弁護士(現大阪市長)がテレビで弁護団への懲戒請求を呼び掛け、私に対しても約300件の申し立てがあった。全て退けられたが、これほどの激しい抗議は初めてだった。

 犯罪被害者の支援は極めて重要だが、それと被告の厳罰化を混同すべきではない。米国などでは殺人事件の被害者遺族が加害者やその家族と対話することで心のケアを図る「修復的司法」の試みが進んでいる。冷静で幅広い議論を求めたい。

毎日新聞 2012年2月21日 地方版

 

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