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紙上座談会「スマートシティ」を支える中核技術

紙上座談会
「スマートシティ」を支える中核技術

離陸期迎えたスマートシティ
2030年までに累計4000兆円市場に

東日本大震災や原発事故で関心高まる
現状や将来性、課題などで座談会

紙上座談会「スマートシティ」を支える中核技術

 環境や省エネルギーに配慮した次世代型都市「スマートシティ」が、実証実験段階からビジネス展開に向けて離陸期を迎えている。世界市場は2030年までの累計で4000兆円規模に迫るとの予測もあり、その成長性に期待した大手企業は、自治体などと協力して日本各地で実証実験を手がける。東日本大震災と福島第1原子力発電所事故で、エネルギー利用の在り方を見直す機運が高まっていることもあり、国民の関心も高い。一般社団法人共同通信社論説委員の谷口学氏を進行役に、横浜市温暖化対策統括本部長の信時正人氏、富士通スマートシティプロジェクト推進室長の山岸憲一氏、大和ハウス工業総合技術研究所長代行の有吉善則氏が「賢い都市」を意味するスマートシティの現状と将来性、課題などを話し合った。(本文敬称略)

参加者プロフィール
信時 正人

山岸 憲一

有吉 善則

谷口 学

省エネ技術や自然エネルギー活用
  快適な生活おくれる都市目指す

谷口 学 スマートシティは、最新の省エネ技術を活用してエネルギーを賢く使うだけでなく、太陽光発電や風力といった自然エネルギーも有効利用。家庭やオフィスをネットワークでつなぎ、コントロールセンターで電力使用状況を把握して、一部で余った電力を他の場所で使ったり、蓄えて災害時に利用したりする-などと説明されるが、明確な定義はない。具体的なイメージを描くため、まず皆さんが取り組んでいるプロジェクトについてご説明いただきたい。

信時 正人 横浜市では経済産業省の補助を得て、自らを含めて8つの企業をキープレイヤーに、12ほどのプロジェクトが走っているところだ。そうした実証実験の中身を羅列しても、全体像は分かりにくいと思うので、はじめにスマートシティに関する国際会議などで、どのようなことが話し合われているかを紹介する。環境問題とか地球温暖化対策というと、すぐ技術の話になるのは、実は日本だけ。ヨーロッパなどは社会学、哲学の問題だととらえている。「スマートシティを通してどういう社会をつくるのか」といった議論が中心だ。これはアプローチの問題で、どちらが良いか悪いかではないが、市民の方々を抱える自治体の立場からすると、技術的アプローチはやはりセカンドプライオリティーになる。我々もまず、どういう社会をつくるかということを考えるところからスタートした。

 そういう視点でスマートシティを目指す理由を挙げると、一つは地球温暖化対策だ。南アフリカで昨年開かれた気候変動枠組み条約第17回締約国会議(COP17)は、先進国の温室効果ガス削減義務を定めた京都議定書を2013年以降も継続し、2020年には米国や中国を含む全ての国が参加する新たな法的枠組みを始めるとの工程表を採択した。日本も温暖化対策を強化せざるを得ない。もう一つは超高齢化という問題。公共交通網や道路、上下水道といった社会的インフラの効率的運用が必要になる。高齢化の問題は中国などでも今後、大きな課題となってくるのは必至。この2大課題の解決策としてスマートシティ構想が浮上した。

 COを下げるためにどうするか。工場を減らせばよいというのは単純すぎる。第2、第3の産業革命というか、環境に配慮した次世代型の社会に適応するような技術を持った企業を生み育てていくことが必要だ。その意味では「インキュベーション」というのは、都市にとってものすごく必要なことだと思う。超高齢化の方だが、横浜市では65歳以上の人口が、2025年には100万人に増えるとの予測がある。375万人中100万人が65歳以上。65歳以上だけで政令指定都市が1つできるという状態になる。そんな社会は今までだれも経験していない。

 それと、あまり話題になっていないが、単身世帯数の増加も深刻な問題だ。横浜市で約3割、東京都は約半分。温暖化対策的に言うと、1人でぽつぽつ住むというのはとても非効率なので、「集住」していくという住まい方も検討しなければならない。住宅問題も重要なテーマになってくる。自治体としてどう関与していけばよいのか、企業の知恵も借りたい。さらにエネルギーも含めて社会インフラをうまくコントロールし、低炭素社会にするために、情報通信を活用したコミュニケーション技術(ICT)等も重要なポジションになっていくと思う。インフラから、それを支える技術、あるいはライフスタイルまで、全てを有機的、総合的に変えていかなければならない。

 環境先進都市として知られるコペンハーゲンの市長が「COを下げることだけが我々の目的ではない。快適な住まいを提供して、市民に選ばれるまちにするのが目的だ」と話していた。その通りだと思う。横浜市もスマートシティ化を1つのツールとして、エネルギーを最小化しながらも、快適な生活をおくれる都市の実現を目指している。

ネットワークで都市を一元管理
場所を選ばずICT利用可能に

山岸 憲一 スマートシティというのは、確かに立場や視点によってかなり定義が変わってくると思う。ICT企業としては、生活者を中心にした生活インフラをいかに効率的に活用していくかという、技術的なアプローチが中心になる。例えば震災以降、需要に近いところに中小規模の分散電源を多数配置しようとの考え方が台頭した。それを町とか市とかという単位で需給調整していくことが、これからは必要になっていくだろう。その意味で日本の場合は、小さな単位の「スマートグリッド」(賢い送配電網)が多分、スマートシティの基本的なインフラになるのではないかと考えている。

 本題に入る前に、ICTをめぐる近年の動向について簡単に説明する。一つはインターネットへの接続端末の多様化だ。ネットブックやスマートフォンはもちろんのこと、いろんなセンサー系や血圧計、自動車、家電とったところも端末に登場した。二つ目はネットワークが広帯域化・無線化していること。そして最後は、大容量サーバーに預けた必要なデータをネットワーク経由で呼び出して使う「クラウドコンピューティング」(ネットワークを雲に見立て、英語で雲を意味する「クラウド」から名付けられた)化がどんどん進んでいることだ。その結果、場所を選ばずにICTを利用できるようになってきた。

 そうなると、これまでは事業所をつなぐネットワークだったものが、直接現場のヒトだとかモノに常時接続されるような環境が整っていく。「現場」から、かなり膨大なイベントデータを直接収集、蓄積できる。イベントデータ1個1個は特に意味を持たなくても、蓄積していろんな状態の変化と関連づけることによって意味や価値が出てくる。個々の家庭やオフィスの電力使用量の季節別や昼夜別などの「クセ」が分かれば、都市全体の電力需給計画を細かく立てることが可能になる。膨大な車の走行状況がリアルタイムで把握できれば交通量管理もやりやすい。今まで見えなかったことや、現地に行かなければ分からなかったことが、ネットワークを通して一元管理できるようになる。

 そこでスマートグリッドだが、電力の供給側が多様化してきたのが最近の特徴だ。各家庭での太陽光発電に加えて、メガソーラーや洋上風力発電など大規模なものもできるようになる。日本の電力会社は世界一安定的なシステムを誇るが、不安定な再生可能エネルギーによる電力が増えることで、安定制御というのが新しい技術課題となる。一方で需要側にも変化がみられる。電気自動車(EV)を大型蓄電池代わりに使い、これと太陽光パネルや家電、給湯器などを無線でつないで家庭内のエネルギーの使い方を管理するホーム・エネルギー・マネジメント・システム(HEMS)が急速に普及しそうだ。そうなると、供給と需要の相互調整、いわゆる協調制御のために、次世代型の「スマートネットワーク」が重要になる。

 中心的な役割を果たすのはスマートメーター(次世代電力計)を結ぶネットワークだろう。東京電力管内だけで2700万もの家庭に電力計が設置されている。これを全てスマートメーターに替えて管理するには、膨大なデータをリアルタイムで処理するネットワークシステムを構築しなければならない。しかし従来の技術では、一気に2700万ものスマートメーターを結ぶシステム構築は不可能だ。当社が開発した「アドホック通信技術」なら、1基地局で1000台ぐらいまでのメーターをカバーできる。メーター同士がお互いに通信し合いながら、最適の経路を選択して自律的にシステムを構築することも可能だ。しかも、お互いの通信を学習し合っており、変化に自動的に対応する。一部の電力会社で採用され、実証実験などを行っているところだ。

 またメッシュの天気予報の情報をインプットして発電予測をするとか、翌日の地域のイベント情報なんかを見ながら需要を予測するといったことも、スマートネットワークを通じて行うことができる。需要予測と発電予測をマッチングさせながら、最適の供給計画を立てていくという需給計画系のシステムを兼ねることになるだろう。生活情報などの新たなサービスや介護・福祉などの社会コストの最適化もインフラ上で実現できるようになる。これからいろんなところで実験しながらビジネスモデルをつくっていきたい。

最終目標は「エネルギー自給住宅」
契機は米グリーン・ニューディール政策

有吉 善則 弊社ではスマートシティの重要な構成単位となるスマートハウスを中心に取り組んでいる。ただ最初はスマートシティを念頭に始めたわけではなく、「将来の住宅はどうあるべきか」を「ホームオートメーション」や「ユビキタス」をひとつの側面として考えてきた。さらに米国のオバマ政権が「グリーン・ニューディール」政策でスマートグリッドを打ち出したのを契機に、スマートハウスの取り組みが加速した。もちろん京都議定書のCO削減目標値に対して、住宅メーカーとして何ができるかも検討していた。そこにちょうど経産省がスマートハウスの実証試験を始めるというので、参画させてもらい現在に至っている。

 我々は蓄電池製造のベンチャー企業に出資するなど、いろんな事業を手がけているが、住宅メーカーとしてお客様に一番近いところにいるのが特色だ。そこでスマートシティ構想が住まいとか生活、特に人に対してどういう恩恵をもたらすかを考えていくために2010年、「SMA×Eco HOUSE(スマ・エコハウス)」という実験棟をつくった。日本列島の西、中、東の総合展示場に1棟ずつ建て、リチウムイオン蓄電池や太陽光パネルを備えて「創エネ」「蓄エネ」を来訪者に実際に体験してもらい、生の声を集めている。

 HEMSの画面では、創エネ、蓄エネから出てくる電力と、電力会社から供給されている電力を、一目で区別できるよう分かりやすく色を変えて表示。さらに「お財布モード」と「エコモード」の2つのモードを搭載した。というのも、新しい技術がどんどん住宅に入ってくることによって、どうしてもコストが上がってしまう。イニシャルコストが若干高くなる部分は、新しい機能を有効活用することで電気料金を抑えるなどして元が取れるということを伝えていかないと、なかなか導入意欲に結びつかない。お財布モードというのは、今世の中にあるいろんな仕組みを最大限に使って、できるだけ経済的にメリットが出るような方法。エコモードというのは、そういう立ち上がり時期の支援策がなくなっても、本来の機能をフル活用して最も効率的にCO排出抑制とかエネルギー消費抑制というところへ導くもの。これである程度の期間を通して考えると、スマートハウスにメリットがあることが分かってもらえる。

 それから、外気温や風向きなどのセンサーも入れて、夏場の夕方、外気温が下がってきたりしたときに、窓をあけたりするようなことを促すこともアプリケーションとして考えている。太陽光パネル設置促進のための補助制度がどうなるかにもよるが、電力会社との電力の売買を維持しながら、最終的には「エネルギー自給住宅」というものが成り立つような技術を2020年ごろには完成させたい。

 平常時は、昼間は太陽光で発電し余った電力は売電する。蓄電池に深夜電力をためて昼間放電することで、太陽光発電で発電した電力をできるだけ多く売る方法もあるだろう。そして停電時には、瞬時に蓄電池から放電を開始する。太陽光で発電したものを充電しながら放電もできる。電気が停まる時間は瞬時なので、我々が実験したところではパソコンのデータの破損といった問題は生じなかった。新しい技術だけにリチウムイオン蓄電池の安全性を最も重要視し第三者認証を受けた上で、通信機能を持たせて遠隔監視している。

 これからの超高齢社会がさらに進めば、社会的弱者が増える。ネットワークサービスを使いながら、セキュリティーサービスとか、介護やホームヘルスケアにも幅広く対応していきたい。ICTにそれなりに慣れ親しんでいる高齢者の方々がこれからどんどん増えていくから、元気な高齢者にはサービスを提供する側にも回ってもらうことも可能で、新たな雇用創出にもつなぐことができる。スマートハウスを中心に新たなビジネスが生まれれば、産業空洞化の問題の解決策の一つになるはずだ。少子高齢化をはじめとして「課題先進国」である日本が、率先して解決策を見出し「課題解決先進国」となり、海外に打って出る道も開くことも重要。住宅メーカーとしていろいろな業種の企業と協力しながら、快適性や安心安全などを確保するとともに、世界に誇れる新たなビジネスモデルを育てていければと考えている。

マスタープラン作りに問題点
日本勢は高品質だが価格も高い

谷口  皆さんの熱心な取り組みをお聞きしていると、スマートシティ構想が実証実験段階から離陸して、新たなビジネスチャンスとなる時機も近いように思える。しかし世界でもスマートシティ市場は拡大しているのに、日本勢が大きな成果をあげたという話は聞かない。本当に日本勢は世界で戦える実力を備えているのか。

信時  多分技術的には、日本の企業は最先端を走っていると思う。では何が遅れているのかというと、我々自治体とか、制度が遅れているのではないか。米国は自分の国の国土を他国の企業に提供してまで実験を加速させようとしている。ヨーロッパ各国も国をあげて力を入れているし、新興国では中国なども日本よりはるかに巨額をスマートシティ建設のために投資している。背景には、国としてのエネルギーへの危機感に差があるのではないか。世界では今「石油依存型をもうやめようじゃないか」という大きな流れがあるように思える。だからスマートシティ建設と並行して、LNG(液化天然ガス)なり、海洋を使った新しいエネルギー源だとか風力といった自然エネルギーなりを活用するケースは今後、もっと出てくるだろう。今までみたいに石油をじゃぶじゃぶ使える時代じゃなくなった。それを理解して、時代の変化に機敏に対応できる国が優位に立つ。スマートシティ構想が急浮上しているのは、地球のことを考えているということもあるのかもしれないが、エネルギー源としての石油の先が見えたということが1つ大きな要因だと思う。

 もう一つ、日本の問題点をあげるとすれば、電力にしろ、上下水道にしろ、世界の都市に比べれば、ものすごくクオリティーが高いことだ。それはメリットでもあるが、クオリティーが高過ぎて、料金も高い。そこを何とかしなくては海外に売れないだろう。新興国が欲する価格で、クオリティーもそこそこに保った商品・サービスを提供することを考えないと、世界では戦えない。

 横浜市の場合、特徴としてスマートシティ推進で重視しているのは文化芸術だ。産業の育成も大切だが、住んでいて楽しくないと住民が集まる都市にはならない。世界で重視されるのも、技術もさることながら、どのような都市にするかという「マスタープラン」だ。そこで中心的役割を果たすのは自治体なのだが、コンサルタントに任せてしまったり、役所内での縦割りの弊害もあったりして、十分に役割を果たしていない。だからだろうか、日本企業も専ら技術の売り込みに走り、マスタープラン作りにあまり関心を示さない傾向がある。しかし世界市場では、マスタープランの優劣が勝敗を決めることが少なくない。

 産官学と市民、この連携をやらなければいけない。キーワードは全てにおいて連携だ。自治体としても、そういうことを念頭に置いて、いろいろ考えていこうと思っている。少なくとも横浜市は、部局室の横の連携を図りながら、愉快で楽しくて、それでビジネス的にもいいことを目指すという方向で、スマートシティ構想をとらえている。

日本の取り組みは最先端
先進国にも通用するビジネスモデルを

山岸  高品質だがコストも高いというのは、確かに日本勢の特徴かもしれない。例えば日本の電力は、遠隔地で原子力発電を中心にして大規模集中発電を行い、超高圧送電網を使って都市部に電気を配っていくという垂直モデルでやってきた。これは非常に優れた超安定システムで、企業や家庭がどれだけ電気を使おうと、きちんと安定的に供給される。しかし震災以降、その裏で実はすごくコストがかかっていたことが分かった。大規模集中発電の欠点が浮き彫りになり、スマートシティ構想のように、新しい分散電源態勢に移ろうという話になってきたのだと思う。

 これに対し例えば米国は、もともと電力会社も配電会社、発電会社も分散していて、3000社ぐらいある。送電系統もかなり脆弱で、その部分を強化するためにお金を投資する予定があった。だが、かなり大きなお金と時間がかかるというので、需要をコントロールすることを考え始めたと聞く。米国で「デマンドレスポンス」が進んでいる背景には、そういう事情がある。

 一方、日本は、震災以前は安定供給が実現されており、需要のコントロールまで考えていなかったのでその部分では遅れているのが実情だ。震災以降は、エネルギー事情が大きく変化したので、需要のコントロールについても考えなければならないと思う。それに加えて、分散電源を導入し、比較的小さなエリアで需給調整をするといった取り組みは、実は世界でもかなり例外的かつ先進的なものだ。あえてやろうというのだから、あまりコストをかけたくない。すべてを蓄電池などの「箱物」で制御すると、何十兆円という膨大な資金が必要となるので、ICTをフル活用して、それこそかなりスマートに、分散電源の調整からデマンドレスポンスを含めて安く上げたい。それが結果的に、これからの海外展開に向けて国際競争力を強化することにもつながると考えている。

 新興国でスマートシティを建設する場合は、もともと電気がなかったり、社会インフラをつくる必要があったりするので、価格競争力が重要になるだろう。しかし先進国には既に日本と同様の電力供給システムがあるわけだから、新しいビジネスモデルや、新しい分散電源の制御システムなどを提供しなければならない。その意味で、日本国内で頑張れば、十分海外に通用するものができるという気がしている。ICTを活用してコントロールする分野では、日本勢は強い。繰り返しになるが、小さなエリアで、比較的小さな分散電源が需要の近くにあって、需要側と供給側をリアルタイムで付き合わせながらきめ細かな予測を立てていくという世界は、多分まだどこも手掛けていない。日本では現在、震災以降のエネルギー需要見直しもあって、急遽取り組むことになった。これは日本勢にとってチャンスだと思う。

 
紙上座談会「スマートシティ」を支える中核技術

自動制御も過ぎれば弊害
理想の住まい方は自分で考えるべき

有吉  家庭でエネルギーをマネジメントするというのは、物理的に画面を通じてエネルギーを操作する、もしくは需給調整するということに加えて、住まい方の中で理想的な省エネ生活を促すということも必要だと考えている。エネルギーを使う、使わないというところは、やはり人為的なものがかなり大きく出てくるはずだ。機械だけで自動制御するということになると、人間は意識しなくなる。国際競争力を高めるか否かの次元とは別に、お客様にHEMSの画面を見てエネルギー状況を把握してもらい、どうすべきかを自分で考え、自ら行動していただくことが重要だと考える。

 10年ほど前にエネルギー・モニタリング・システムという取り組みがあって、住宅ではどの部分でエネルギーをどれぐらい使っているかを「見える化」した。それで何年かは電力使用を削減していけるのだが、そのうち限界に突き当たる。もう電力削減につながらないと分かると、関心が急速に下がってしまった。見える化だけではだめで、継続にはそこに魅力の「魅」の「魅せる化」を加えることが必要だ。そういう意味でスマートハウスには、いろんなアプリケーションを提供し、情報を伝えていかないといけないと思っている。

 例えば高齢社会がどんどん進んで、バリアフリーといって、住宅全部をフラットにする動きがある。しかし一方で、高齢者の体力を維持するため負荷をちょっとかける方がいいのではないかという考え方がある。快適、利便、安全を全部入れ込もうとすると、場合によって人間の思考や体力などを衰えさせることも懸念される。HEMSにはエネルギーのモニタリングとかマネジメントだけではなく、いろいろなサービスが入ってくるだろう。これを活用して、うまく人間を活性化させ、人間のポテンシャルをできるだけ維持向上させながら、生活快適性を高めることが理想的だ。

 まだ「スマートハウス、スマートグリッドなんて知らない」という人が少なくない。なぜこういう取り組みが必要かという背景やそのメリットを、お客様にきっちりお知らせする必要があるだろう。ただ理解してもらっても、イニシャルコストが上がるのは避けられない部分もある。住宅メーカーとしては、ある程度の時間軸を持って普及を考えざるを得ないので、製造の立ち上がりの部分はコストがかかる。戦略的に価格をできるだけ安く提供していくためには、国や自治体の協力・支援が不可欠だ。

離陸には採算性がネックに
民間資金の積極活用図るべき

谷口  スマートシティがビジネスに結びつくには、国や自治体の支援・協力、取り組み強化が不可欠のようだ。他にもネックになりそうなことはあるか。

信時  実は今の実証実験は、国の補助がなくなると同時に終わってしまうのではないかという恐れを抱いている。実証実験が終わった後、どう続けていくか、難しい問題が山積しているからだ。端的に言えば資金の問題。国の補助金は汎用性や拡販のためには使われない。実証実験は国の資金と民間企業の開発資金。きっかけとなる資金は、横浜市がなけなしの財政から支出している。スマートシティ構想の持続性を考えると、補助金がこけたら皆こけたにならないような経済システム、採算性がとれる仕組みを、産官学が一緒になってつくっていかないといけないと思う。

 今はどの都市も、どんどん施設整備費というのを削っている。そのうち道路に穴ぼこができてもメンテナンスできないような時代が、すぐ目の前に来ているといえる。ちょうど1年ぐらい前にスイスのバーゼルで、インフラストラクチャー向けにインベストメントをどうするかを話し合う国際シンポジウムがあって参加した。世界の先進都市のほか、目立ったのが金融機関。日本の場合、インフラは全部、公共の金で何とかするみたいに皆が考えている。しかし世界の大勢は違う。マッチングファンドというのか、民間の資金がどんどん入っている。日本はむしろ特殊。上下水道は市民が必ず使うインフラだから、ビジネスとしての投資リスクは低い。そういう投資を民間のファンドとしてもやりたいという面があるようだ。日本の自治体も胸襟を開いて、これからつくるインフラを担保に民間資金を活用していくことを考えるべきだろう。キーワードは民だと私は思う。

規制緩和などで行政の協力が必要
持続的発展に必要な要素を全て包含

山岸  マスタープラン全体を仕切るのは、多分自治体になるのではないかと思う。その自治体と協力し合って全体を運用するようなことを考えたときに、この指とまれではないが、参加する企業はそれぞれのケースで異なる。組み合わせはケース・バイ・ケースで違ってくるだろう。例えば大都市では大手企業が中心になる。しかし地方に行くと、地場の企業を入れてくれとの要望が出てくる。まだ実証実験のレベルだと、参加企業間であまりいざこざは起きないが、ビジネスとしてさらに持続的に運用していくとなれば、各企業の採算性の問題が浮上する。みんなが損をするようなビジネスは、企業としては取り組めないので、ある程度は儲からないといけない。

 スマートシティを考えたときに、インフラのエネルギーのところは、全量買い取り制度などいろいろあるので、大体は想定できる。ただインフラを使いながら、新しい付加サービスでどの程度お金が回るのかが予測しにくい。高齢化とか、福祉とか、介護などに、かなり社会コストをかけているので、その部分を効率化し、付加サービスで儲かる人たちと合わせて、全体でお金が回るようなことを考えていかないといけない。

 いろんな地域で実証実験をしながら課題を抽出して、それをクリアしていかいといけない。当然その中には規制の問題も出てくるので、国や自治体との協議も必要だ。私どもはクラウド事業などで、自治体や企業とのつながりがある。そういったところをうまく使いながら、地域ごとに事情が違う中で、対応策を考えていきたいと思っている。

 スマートシティの地産地消モデルというのは、多分日本の地域活性化の1つのキーになるのではないか。ただ、お金が回らないことや持続性という問題が、非常に気になっている。自治体の社会コストを落とした中で、そこからという考えもあるが、地域の金融機関のファイナンスやファンドみたいなところも、もっと活用できないだろうか。もともと地域金融機関は、地場の企業を育てるとか、温泉事業や観光事業を活性化するとか、そういうミッションがあると思う。だから、そういうミッションとの関連で、スマートシティの地産地消モデルへの投資を考えていただければ、資金面での解決に大きな力となるだろう。

有吉  弊社には「あすふかけつの」という考え方がある。明日のために不可欠の要素は何かを、ごろ合わせで考えたものだ。「あ」は安心安全、「す」はスピード、ストック、「ふ」は福祉、「か」は環境、「け」は健康、「つ」は通信、「の」は農業で要は食料の話。これらは日本経済が持続的に発展していくために不可欠な要素と考えている。

 この部分が、家電業界のように海外勢に追い込まれるようだと、日本の将来は厳しい。スマートハウスは、今はまだごくごく狭い範囲の中で論ぜられているが、これらの要素をすべて含んだプロジェクトだ。その点をエンドユーザーだけでなく、社会全体にも理解してもらって、一つ一つの取り組みを着実に前に進めていければ有り難いと考えている。

 スマートシティ構想を活性化するには、企業間の競争も大事だろうが、ある部分については、きちっと共に働くという「協働」を考えるべきではないか。そうでないと国際競争にスピードで遅れてしまうし、無駄も発生する。競争しながらも、オールジャパンとしての共通認識をうまくマネジメントというかコントロールできたら、将来に向けて明るい展望が開けるのではないかと思う。

谷口  スマートシティ構想は、日本の将来に深くかかわる問題であることが分かりました。示唆に富む話を本日はありがとうございました。