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胆道閉鎖症:早期発見へ、母子手帳に便の色見本 手術早いほど予後良好/異変あればすぐ受診を

 妊娠した女性に交付される母子健康手帳に、4月から、赤ちゃんの便の色を7色の見本で示す便カラーカードがとじ込まれる。1万人に1人とされる難病、胆道閉鎖症(たんどうへいさしょう)の早期発見につなげるためだ。見本があれば家庭で判断しやすくなると期待され、専門医は「異変を感じたらすぐに受診を」と呼びかけている。【小島正美、鈴木敦子】

 胆道閉鎖症は、肝臓と十二指腸をつなぐ胆管が詰まって、胆汁が流れなくなる病気。肝臓に胆汁がたまるため、黄だんを起こしたり、おなかがぷくっとふくれたり、肝硬変になったりする。約1万人の赤ちゃんに1人の割合で発生し、発生率は女子が男子の2倍。原因は分かっていない。早期に手術をしないと、2、3歳まで生きられない場合が多いという。

 特徴的な症状は白っぽい色の便だ。一般に薄い黄色やクリーム色、灰白色などと表現されるが、実際はレモン色や薄い緑色、メロンパンのような色もあるという。従来の手帳では、1カ月健診のページの欄外に、便の色が薄い場合は直ちに小児科を受診するようにという記載がある。だが具体的な色覚情報はなく、色のイメージは個人差もあるため、家庭で見極めるのは難しかった。また生後4カ月ごろまでは注意が必要だ。

 厚生労働省は昨年開いた「母子健康手帳に関する検討会」で、国立成育医療研究センター(東京都世田谷区)の松井陽(あきら)病院長が考案した「便カラーカード」を手帳にとじ込むことを決めた。白い便など7色のカラー写真があり、実物と比べやすい。3色が胆道閉鎖症特有の便、4色は正常な便で、3色のいずれかに該当した場合は早急に精密検査を受けた方が良いとされる。

 治療法は、胆管の閉塞(へいそく)部を切除する手術が最も一般的で、手術を受ける時期は10年後生存率と深く関係している。松井医師によると、生後60日までに手術を受けると生存率は72%だが、61~70日では38%に減少。71~90日では27%、91~120日では13%となり、121日を過ぎると0%になるという。手術後も黄だんがとれなかった場合は肝臓移植しか残されていない。

 松井医師は94~03年、栃木県で生まれた赤ちゃんの保護者にカードを配布し、1カ月健診時に提出を求めた。その結果、14万7322人(回収率85%)のうち、後に胆道閉鎖症と分かった赤ちゃんは15人。うち12人は1カ月健診を機に判明し、残り3人はそれ以降に便色に異常が生じ、病院を受診していた。

 松井医師のカラーカードは台湾とスイスが採用している。02年から母子手帳と共にカードの配布を始めた台湾では、胆道閉鎖症の赤ちゃんで生後60日以内に手術を受けた割合が、01年以前の49%から、02年以降は66%に増加。肝臓移植なしでの手術後5年間の生存率は、27%から64%に上昇したことが報告されている。松井医師は「母子手帳に色が載っていれば、日ごろから便の色に関心を持ちやすい。1カ月健診までに受診する可能性も高まる」と指摘する。

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 胆道閉鎖症の子どもがいる母親の会「肝ったママ’s」代表の酒井有理さん(36)=横浜市=は、「生後2週目のころ、便の色が薄い緑色なのでおかしいと思っていた。育児雑誌の写真を見たら、胆道閉鎖症の便は真っ白だったため、うちの子は違うと思ってしまった」と振り返る。

 娘の理名ちゃん(4)に、はっきりと分かる異常が起きたのは生後72日目の朝。いつもは元気に飲んでいた母乳を飲まず、いびきをかくようにうなっている。病院に駆けつけると、胆汁の分泌が不十分なため血液凝固成分のビタミンKが欠乏し、脳出血を起こしていた。緊急手術の後に分かった病名は胆道閉鎖症。胆汁の流れをよくする手術を受け、今も薬を飲んでいるが、右半身まひと知的障害が残った。酒井さんは「生後1カ月の時に親が気づくことが一番大事」と強調する。

 会メンバーの富樫美香さん(36)=東京都大田区=は、娘の由里絵ちゃん(5)が生後1カ月の時、便が白っぽかったため医師に相談した。「黄色が混じっているから大丈夫」と言われ安心していたところ、約1カ月後に脳出血を起こした。手術をしたが黄だんが残り、肝臓の移植手術を受けた。

 多くの医師にとって、胆道閉鎖症の赤ちゃんを診察する機会は少ない。富樫さんは「医師も疑いを持って診てほしい」と訴える。

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 ◇母子健康手帳

 母子保健法は、妊娠を届け出た女性に母子健康手帳を交付することを区市町村に義務づけている。妊産婦や乳幼児の健康管理などの医学的記録のページは厚生労働省が定めた全国一律の省令様式を採用。同省は社会情勢を踏まえ、おおむね10年ごとに様式を改正している。

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 ■胆道閉鎖症のチェックポイント

 ◇第1チェック

(1)生後から黄だんがひかない

(2)便の色が白っぽいか日ごとに薄くなる

(3)尿の色が濃い(濃い黄色、ときには茶色)

(4)目の白い部分が黄色い

 ◇第2チェック

(5)おなかがふくれて、触ると硬い

(6)顔や体をかきやすく、皮膚の湿疹や傷が治りにくい

(7)母乳やミルクをよくもどす

(8)乳をたくさん飲むので一見元気に見える

 (肝ったママ’sの冊子から。ホームページhttp://kimottamama.info/)

毎日新聞 2012年1月15日 東京朝刊

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