英検とCEFRとの関連性について
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| 財団法人日本英語検定協会 主任研究員 Jamie Dunlea |
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■英検−CEFRの研究プロジェクト当協会では、2007年度に英検CEFRに関する研究プロジェクトを発足させ、2年間、調査を進めてきました。まず、プロジェクトの目標を明確にしておきます。この報告の前半部分でも述べたように、日本の教育環境にCEFRそのものを反映できるかどうかということは、慎重に考えるべきです。もちろん、反映できるかどうかを探ることは、プロジェクトの大切な目標の一つです。ただし、英検とCEFRの研究プロジェクトの第一の目標は、英検とCEFRとの関連性を探りながら、海外では幅広く知られているCEFRを、一つのコミュニケーションツールとして使用して英検のレベル制の意味を説明したり、海外の教育者とのコミュニケーションを促進したりすることです。実際、CEFRはヨーロッパをはじめ、ヨーロッパ以外でも語学検定機関や教育団体、行政官庁などに注目されていますし、根拠のある、歴史が長いものとして幅広く使用されていると言えます。一方、英検は日本の社会や教育現場において非常に歴史が長く、日本のEFL環境の現況や日本人の学習者のニーズを反映している試験であると言えます。また、当協会は、21世紀を担うテスト団体として言語教育や測定に関する国際的な学会や、海外の教育機関と活発に交流をしています。ただ、英検の活動は日本では広く理解されていますが、海外の研究者と交流する場合は、国内と同レベルの理解を受けることは期待できません。そこで、CEFRのような、広く認められている規準を説明の道具として使用すれば、いろいろな交流を円滑に行うことが期待できるでしょう。 CEFRは、2001年に公表されてから急速に普及し、それに伴って多くの検定機関がCEFRとの関連性を主張し始めましたが、中には根拠がないケースもあったそうです。そのような状況が背景となり、Council of Europeは2003年にCEFRとの関連性を検証するための研究マニュアル(Manual for Linking Exams to the CEFR)を発表しました。当協会では、マニュアルが求めている、精度が高い検証プロセスを取り入れるため、マニュアルの作成者やその他ヨーロッパでのCEFRに対する研究者と連絡を取りながら、調査や研究を進めてきました。マニュアルではいくつかの方法を提唱しています(表4)が、どれか一つが決め手になるわけではなく、最終的にすべての観点から関連性を検証する資料を集める必要があります。 表4
表5は、Specificationというプロセスを経て、英検各級の内容とCEFRの各レベルを比較した結果、英検とCEFRとの対応表を表示したものです。対応表を検証するために、試験の内容以外にもいろいろな資料を検討しました。英検のCan-doリストでは、各級の合格者の、英語使用に関する実生活での自信の度合いを示していますが、能力記述文、つまりdescriptorで構成されていますので、これも参考材料とされています。その他、英検の各級が実際にどう使用されているかなどの点も考慮しています。例えば、英検は上位級が海外の大学の入学資格として認定されていますので、同じく大学認定などに使用されている他検定に対応するCEFRレベルを検討すれば、対応表と実際の使用の一貫性を検証できます。 表5
表5において、A1のレベルに英検の3・4・5級という3つの級が相当していることに疑問を持たれる方も多いかと思いますので、説明します。CEFRのレベル制について説明している第3章では、レベルの再分割についても説明されています。前半で述べたように、CEFRは1つの考え方や教育方針を規制していません。ヨーロッパの中でも、文化や言語、教育制度や経済状況など、条件が異なるさまざまな国や地域が対象となるため、特に柔軟性が大切です。従って、最初に設定されている6つのレベルは、どの教育環境にも反映できるように、あえて幅広く設定されたそうです(Council of Europe, 2001, 第3章を参照)。ただし、学校教育や初期段階の言語教育のような、身近な目標が必要な場合、CEFRの6つの広いレベルは採用しにくく、動機付けなどにも混乱をきたす可能性があります。その可能性を考慮し、CEFRではさらに幅が狭い、学校教育などで活用できるレベル制が必要だと認めています。そこで、CEFRでは、レベルに関して柔軟性を持たせ、さまざまな教育の目標に応えるために、表6のように、大きなレベルの分類をさらに細かいレベルに分けたものを提案しています。英検の5・4・3級までは、中学校の指導要領や教室での活動などを考慮しながら、初級段階の学習者に対して実用性がある目標として設定されていますので、3つとも、幅が広いA1レベルの中に位置づけられています。Finland National Core Curricula for Basic Educationのように、A1をさらに3つのレベルに分けるという、ヨーロッパでの実例もあります(http://www.oph.fi/english/publications/2009/national_core_curriculaを参照)。 現段階ではこの対応表は一つの仮説に過ぎません。多くの資料に基づき、英国内務省にも認められているとはいえ、今後、Manual(2003)が示しているように、さらに検証する必要があります。その検証プロセスが進行中ですが、経過報告という形で、現段階で出ている結果を紹介します。 2007 年の夏に、European Association of Language Testing and Assessment (EALTA)という学会がCouncil of Europeと共同の主催団体として、CEFRとの関連性を検証する研修会を開きました。当協会の代表として、著者が参加しました。ヨーロッパにおいてCEFRとの関連性を測るプロジェクトを進めている団体が多く参加し、ヨーロッパで採用されているstandard settingの方法などが紹介されました。この経験を元に、2007年の12月に、日本の大学で教えている教育者や、テストの専門家が参加するstandard settingのパネルを構成し、ワークショップを実施しました。検討の対象となったのは、英検1級と準1級の一次試験です。3日間のワークショップ形式で、Council of Europeが行なうトレーニングの資料などを利用して、英検の1級と準1級の一次試験に対するCEFRとの関連性を検証するために、規準設定の分析データを収集しました。前述したように、specificationの方法で行われた調査の結果、英検では1級がC1に相当し、準1級がB2に相当すると考えられるに至りました。Standard settingの分析の結果では、1級の資格を持っている学習者は、“Strong C1”のレベルに相当し、準1級の資格を持っている学習者は“Strong B2“に相当することが考えられます。つまり、ぎりぎりのC1程度の力を持っている(C1とB2の境界線に近い)学習者は、1級に合格するには求められる力がまだ足りないし、合格点まで達成しない可能性が高いと考えられます。英検1級に合格する点数を取得できる学習者が、安定したC1レベルの力を持つと考えられます。準1級とB2との関係も同じです。 以上の研究の結果を、2008年6月にEALTAとCouncil of Europe,及びCITO(オランダ政府が設立した教育測定の研究機関)の3団体の主催によりギリシアで開催された、CEFRに関するResearch Colloquium(専門研究大会)で発表しました。上記の3つの団体によって、2009年にResearch Colloquiumの実践実例集が出版されており、ここに当協会の発表リポートも含まれています(Dunlea & Matsudaira, 2009)。この書籍はEALTAのホームページからダウンロードが出来ます(http://www.ealta.eu.org/resources.htmを参照)。 言うまでもなく、上記の研究は英検の上位級、つまり1級と準1級の一次試験に対する結果に過ぎないので、英検とCEFRとの対応表を検証するために、現在も作業が続いています。さらに、上位級の二次試験に対するStandard Settingと、2級以下に対するStandard Settingも必要ですし、Manualが勧めているEmpirical Validationも視野に入れるべきです。Manualでは、Standard Settingが検証のために欠かせないプロセスとして強調されていますので(Kaftandjieva, 2004)、プロジェクトを担当している当協会の研究開発課で、まずは各級に対するStandard Settingのデータを集めることに焦点を当てて研究計画を実践しています。上位級の結果は、既にヨーロッパの学会大会で専門家の厳しい目で見てもらうことにより、当協会が行おうとしている研究計画や採用している研究方法について確認することができましたし、プロジェクトの方針に関してはある程度支持が得られたと考えています。早いうちに新しい結果を報告できるように調査を進めております。日本でもCEFRに関心を持つ教育関係者が増えていますし、今後、さらにCEFRが注目されると予測しています。当協会では、日本の言語教育に貢献する可能性がある大切なツールとして、CEFRをさらに検討し、できるかぎり、皆さんに役に立つ情報を今後も提供したいと思っております。
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