水俣病救済特別措置法に基づく未認定患者救済の申請期限について、環境省は「7月31日」までとする方針を決めた。きのう、細野豪志環境相が発表した。
懸念されていた本年度末の申請打ち切りは、とりあえず回避された。しかし、申請期間を7月末まで延長しても、特措法が目指す水俣病問題の「最終解決」が図られるとは思えない。
特措法の趣旨は、救済されるべき水俣病被害者の早期救済と同時に、被害者を可能な限り漏れなく救済することにある。それが、水俣病被害を拡大させた国の加害者としての責務でもある。
救済申請に期限を設けることは、潜在する水俣病被害者を結果的に切り捨てることになる。そうしないためにも、国には申請に期限を設けず、すべての水俣病被害者の救済につながる恒久的な制度への見直しを求めたい。
特措法は、救済措置の開始から「3年以内をめどに対象者を確定する」と定めている。救済措置(申請受け付け)が始まったのは2010年5月である。
「3年以内」の来年4月末までに救済対象者を確定するためには、検診や判定の期間を考慮すれば今年7月に申請を締め切る必要があるというのが、国の言い分なのだろう。
しかし、そこまで「めど」にこだわって、申請期限を設定しなければならない特段の理由でもあるのだろうか。
特措法でうたわれている不知火海沿岸の住民健康調査は、いまだ手が付けられておらず、水俣病被害の全容は把握されていないのが現実だ。
にもかかわらず、7月末で申請を締め切るというのは「救済打ち切り」に等しい。そこには「水俣病」を早く終わらせたいという国の本音が透けて見える。
救済申請者は昨年末までに熊本、鹿児島、新潟3県で約5万人に上る。昨年秋以降も毎月数百人単位の申請が続く。まだまだ埋もれた多くの水俣病被害者がいるとみるべきだろう。
被害者団体が1月に熊本、鹿児島、大阪など6カ所で行った検診では、受診者の約9割に水俣病特有の症状があったという。救済対象地域外の居住者や救済対象年齢未満の世代にも、水俣病の疑いがある人たちがいるという報告もある。
水俣病の症状に苦しみ、救済を受けるべき人々がいる限り、「水俣病は終わっていない」と捉えるべきである。
症状があるのに水俣病と自覚していない人や、差別や偏見を恐れて申請をためらっている被害者が、救済から漏れるようなことがあってはならない。
そう考えるなら、救済に期限を設けるという発想は出てこないはずだ。
救済すべき潜在被害者がいないかどうか、沿岸住民健康調査などで確認もせずに救済申請を締め切れば、目指した「全面解決」に至らず、かえって水俣病問題をこじれさせた17年前の「政治決着」と同じ轍(てつ)を踏むことになるだろう。
=2012/02/04付 西日本新聞朝刊=