全国高校駅伝で男女合わせて9度の優勝を誇る仙台育英高(宮城)陸上部の部員計10人が昨年を含めて女子で3度優勝の豊川高(愛知)に一斉に転校することが20日分かった。関係者によると、「成績不振」を理由に清野純一監督(27)が3月末で退任する上に、東日本大震災の影響もあるといい、主力選手の大半が競技に専念できる環境を求めて転校を希望したという。有力選手の大量転校という異例の事態に、全国高体連は「両県の高体連を通じて事実確認を求めたい」としている。
10人は1、2年生で男子7人、女子3人。昨年の全国高校駅伝に出場した1、2年生のうち留学生を除く男子3人、女子2人がすべて含まれる。仙台育英高は昨年の大会では女子は3位と健闘したが、男子は12位に終わり、監督の責任を問う声が上がった。転校は3月1日付になる見通し。
全国高校総体、全国高校駅伝では実施要項で転校後6カ月未満の選手の出場は天災などの特別の理由を除いて認めていない。今回の転校について全国高体連関係者は「(高校総体の)愛知県予選のある5月までには判断する必要がある」と話す。
仙台育英高では卓球部のスポーツ特待生制度を廃止したことをきっかけに、08年に系列中学校を含め8人の選手が山口県の私立高に転校している。
仙台育英から豊川へ。全国でも屈指の駅伝強豪私立校の間で、多くの主力選手が移ることになった。仙台育英の指導者の退任という事情があるにせよ、このようなことが起きる背景には主力選手の多くが県外出身者という実態がある。
高校駅伝は男子が7人、女子は5人でチーム編成される。ある強豪校の監督が「野球は4番を9人集めても勝てないが、駅伝はエースをそろえれば勝てる」と語るように、選手個々の能力の総和が勝負に大きく作用する競技だ。
このため、選手獲得に力を入れる一部の強豪校は県外、さらには海外から潜在能力の高いケニア人留学生まで手を伸ばし、論議を呼んできた。
仙台育英の部員たちは指導者を含めた高い競技環境を求めて、同校を選んだ。それぞれが出身地に戻るという選択肢はなかったのだろう。チーム単位に近い規模となれば、受け入れ先は現実的には限られてくる。
関係者は「震災という事情もあり、助けるということで豊川高には受け入れてもらった」と話すが、全国高体連は「震災が理由とも聞いているが、監督問題という事情もある。慎重に判断すべき問題」と話す。
ただ、今回の出来事は高校駅伝が二極化に陥っていることを物語っている。
高校駅伝を支えているのは、都大路とは無縁で人数集めにも苦労するような高校の選手や指導者らだ。彼らの目に、今回の転校劇は別世界の出来事に映るに違いない。【田原和宏】
毎日新聞 2012年2月21日 2時32分(最終更新 2月21日 3時58分)