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最後の“水戸黄門”・里見浩太朗 1

撮影所内をかっ歩する里見浩太朗=東映太秦撮影所
撮影所内をかっ歩する里見浩太朗=東映太秦撮影所

 12月19日の放送で42年の歴史にピリオドを打つ国民的時代劇「水戸黄門」。最後の黄門さまにして、25年の間出演してきた番組の“顔”というべき存在だったのが、俳優・里見浩太朗(74)だ。さまざまな“当たり役”の中でも、とりわけ「水戸黄門」に対する思いは強い。黄門とともに歩いてきた里見浩太朗の“人生の旅路”を語ってもらった。(聞き手=福島大輔)

  ◇  ◇

 ‐水戸黄門という、一つの「時代」とも言える作品の終わりを迎えました。

 「水戸黄門には42年の歴史があって、その中で私は25年ほど、助さんと黄門を通してやらせてもらったんですが、この番組は、何て言うんでしょう、肩のこらない、本当の娯楽時代劇、いわゆる講談を映像にした、最初の20分見れば結末がわかるような。でも、その中に人間の生き方、ものの考え方、修身や道徳を織り込んでいたからこそ、長い歴史を刻んでこられたんだと思うんです。日本人の心の片隅にある、生き方への願望、あこがれを常に見せてきたということが、42年という歴史をつくったのではないかなという気がします。自然に、人が生きていく過程の中での教科書、お手本になってきたのではないかなと。確かに終わることは寂しいんですけど、そういう点では、単なる時代劇をやってきたというより、ちょっと違った意味での一つの充実感があります。だからこそ、終わってしまうことはとても寂しく、日本の文化が一つ消えていくような感じですね」

 ‐最後のカットの声を聞いた瞬間というのは、何かが終わった瞬間でしょうか。

 「終わったという気持ちはあまりないんですよ。何か一つ、やり遂げたというか、歴史を残せたかなと。残念さはあるけど、満足感ということで終わったような気がしますね」

 ‐杉良太郎さんの後を受けて、第3部から助さん役を。

 「僕としては、新しい何かをやるという心境で助さんを引き受けたのではないんです。昭和30年からずっと時代劇をやっていて、映画の世界の中で時代劇の黄金期を迎えて、片岡千恵蔵、市川右太衛門、月形龍之介、大友柳太郎、大川橋蔵、中村錦之助といった大勢の先輩方の中で、自分の作品もいっぱいやらせてもらって、たくさんのいい監督さんについて仕事をやらせてもらって、その集大成というか、勉強期間が終わった後にテレビ時代劇が始まったんです。助さんを通して、自分が10年間勉強してきたことを、茶の間で発揮して見てもらおうという思いでしたね。ただ、水戸黄門が始まって5年ぐらいから本当に視聴率が上がって、国民的番組なんて言われたときに、本当に3000万も4000万もの人が見てくれている番組だと思うと、やりがいが出たというか。役者の里見浩太朗にとっては、助さん時代が青春時代だったような気がしますね」

 ‐助さんが役が定着した後に黄門役を演じられた心境は。

 「最初に黄門役を、と声をかけられたのは、まだ60歳のちょっと前で、西村晃さんが降板されるときに、次の黄門さまにということでした。ただ当時は、まだ若い『長七郎』とかの舞台をやってましたから、テレビで毎週白髪のおじいちゃんを見せちゃうと、舞台のイメージが狂っちゃうから、ちょっと勘弁してくれと。それから後、65歳ごろにもう一回声をかけられたとき、黄門さまが天下の副将軍から隠居したのが62歳で、現実の黄門さまより年も取ったから、もういいだろうと。僕もそろそろ白髪のカツラをかぶったじいさんの役もちょっとやってみたいという心境に変わってきたころでもありましたからね。ただ、まだまだ青くさい黄門さまでね。今でもそう思ってるんですけど、なぜかというと、東野英治郎さんに付いて十何年やってきた、その東野さんの枯れた味というのが目の前にちらついてね。いつああなれるのかなんて、今でも思いながらやってるんですよね」

 ‐700回以上同じ番組に出演されるというのも、偉大なことだと思います。

 「普段、他の仕事をやったり、歌を歌ったり、ゴルフをしたりしているときは、普通の75歳の男だと思ってるんですが、メーキャップして、ヒゲをつけてカツラをかぶって衣装を身に付けたら、何の抵抗もなく、自分の気持ちは光圀というか、越後のちりめん問屋の隠居になれるんですよ。それが楽しくなってきましたね」

 ‐歴代の黄門さまと一緒にやってこられて、それぞれに雰囲気は違いましたか。

 「そうですね。東野さんは、渋くてかわいらしいおじいちゃん。西村さんは、あっけらかんとした優しい感じ。佐野さんは、どちらかといえば堅物で、ユーモアもわからないような感じでしたね。僕としては、強くて優しい、チャンバラも助さん格さんに負けないぞ、というぐらいの強さで、普段はとても優しいおじいちゃんというつもりでやったんですけどね。この間、僕が格さんをやった映画がテレビでやってたんですが、月形竜之介先生の水戸黄門は、すごく強いんですよ。心底に強い、武士道をもった黄門さまでしたので、ああ、これかな、と思いながら見ていたんです」

【2に続く】







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