放射線の体内被曝は避けようのないものだという話を以前にした。特に遺伝子を形成する部分の元素に、放射性同位元素が組み込まれていた場合、その部分の遺伝子というのは、いつか必ずβ崩壊を起して、別の元素に変わり、遺伝子としての機能を失う。これが生命の進化を形成する一つの要素として働いているということはあるだろう。 近年ガンの増加が顕著であって、その原因は自動車の排気ガスによるものだとか、原子力発電によるものだとか、いろいろといわれている。ガンを惹起するものとして、放射線の中で最も人体に有害であると指摘されているものに中性子があるが、日常的に人間が中性子を大量に被曝する場所は上空10キロくらいの空の上である。カスケード反応というのがあって、陽子の場合の図がある。 もともと普通の人が暮らしている場合、空気からの放射線被曝が全自然放射線被曝のうちでもっとも大きな割合を占めていて、少なく見積もっても、半分程度を占めるそうだ。後は食物、土壌、宇宙線といったものだ。地上で暮らしていて、空から中性子を受けるようなこともまずおこらない。空全体から受ける放射線量の程度は、平均すると普通の人の場合、大気からのものと宇宙線からのものを加えた60〜65%になる。医療機関からの被曝はこの全自然放射線量と同じくらいになるが、ほとんどX線ばかりなので、それほど重大な危険性はないだろう。前にもいったが、紫外線よりもエネルギーの大きな光であって、物質ではない。γ線も同じだ。危険だとはいっても、たぶん鏡で反射されるのではないかと思う性質のものだ。実際のところ、胃壁のパラボラ面に近い球状になっている部分がX線を反射して、患部を透視できないことや正常部位に悪影響を与える場合があるそうだから、どの程度の波長のX線かわからない(どこからどこまでがX線だという明確な定義というのはないらしい)が、それだとかなり波長の短いX線まで鏡で反射されそうである。ただし、ネットでは「普通の鏡ではX線やγ線は反射されない」と書いてあったから、ガンマ線に近い波長のX線は反射されないようだ。病院で使用しているX線というものが、ほとんど紫外線といってもいいくらいの波長の長いものである場合が多いことが推測される。 さて、地球に降り注いでいる宇宙放射線というのは太陽から来るものと、銀河から来ているものに大別される。このうち、太陽から飛来する放射線粒子(ほとんどが陽子だといわれる)は低エネルギーのため、9〜12キロ上空までしか届かないとされる。特に赤道付近では、バンアレン帯という地球表面のおよそ1億倍以上もの放射線量をもつ放射線帯が厚く地球を取り巻いているので、電荷を有している陽子はほとんど侵入を拒まれる。バンアレン放射線帯はほぼ太陽に面した方向にあることもあって、太陽からの有害な放射線はほぼここでカットされ、残りの部分も大気に吸収されてなくなる。もう一つの銀河宇宙線は、高エネルギーであって、しかも飛来する方向に区別がないため、航空機の飛行する高度まで大量に押し寄せている。 銀河宇宙線も太陽放射線と同様、ほとんどが陽子であり、2%ほどが電子であるに過ぎない。しかし高エネルギーであるので、地球大気と反応して、中性子などを2次的に発生する。この中性子が航空機で飛行する人体が浴びる最大の被曝元となる。他に地上には到達することのない陽子などによる被曝もかなり受ける。地上まで到達するミューオンや電子についても、航空機高度ではかなり強度の強いものを受けるので、総じて国際線の航空機の乗客が受ける線量は地上の10〜100倍に達するとみられている。しかも中性子など、被曝した人体の原子そのものが、2次被害のように放射能化してしまうという危険性も大いにある放射線が多く存在するのが、国際線高度なのだ。たとえば高度1万メートル付近では、地上の150倍もの被曝を受けるそうだが、被曝する放射線の種類が悪いので、とてもからだによいとはいえそうもない。何度もくり返すが、同じ放射線量というあらわし方をされていても、X線やガンマ線という重さのない光と、原子核の崩壊により発生する重さのある中性子や陽子という物質の性質は異なるものと考えるべきであろう。 そこで、いろいろと調べてみたが、個人的に「国際線パイロットの平均寿命は56歳」だとか「定年後5年くらい」だとかいうサイトはあったものの、正式に統計を取っていたというサイトは5件ほど連続して何れも削除されていた。ただ坊さんだとか、女子大の大学教授が長生きだとかいうのがあったくらいであった。わざわざ女子大などと限定するところがおかしい、教授まで行けばまずマイペースで生活できるので、短命であるほうがおかしな話だ、などと思ったし、学者などというものは世間でいうほど女好きとも限らないだろう。むしろ、学問の探求には異性の存在はわずらわしいものだろうと思う。逆に短命なほうは会社の経営者だとか役員らしいが、どうも胡散臭い。そういう具合で、信頼できそうなデータは見つからなかった。 あまり確かなこととはいえないが、地上で国際線パイロットと同程度の被曝線量を受けていると推定される高濃度自然放射線地域に暮らしている住人というのは、平均的な人よりもむしろ長命であるそうだ。これと比べて飛行機乗りのほうが短命であるというのは、果たして放射線による悪影響なのかどうなのかが問題である。放射線のせいであるということがはっきり分かれば、海外旅行などは国際線を使用せずに、のんびり船旅でやったほうが好ましいということにもなる。 原爆の場合だと、寿命に与える影響は、高高度飛行で浴びる放射線などよりはるかに強烈だろうから、比較にならないほど寿命が縮まっているだろうなどと思うと、これが統計のマジックみたいなもので、被爆者というものを平均化すると、平均的日本人の寿命を上回るそうだ。被爆量というものは、大体距離の2乗に比例して減少する。住民というのは爆心地からの距離の2乗に比例して増える。だから、被爆者といっても、全員がひどい原爆症を呈するわけではない。ガンの罹患率だけは平均的な日本人よりも高いらしいが、リューマチだとか各種成人病の類は明らかに少ないそうだ。それが欧米人が原爆の悲惨さを認めない一つの理由でもある。平均すれば長命にしてやったというのが彼らの言い分でもある。これは前にも言ったが、あらゆる逆療法にいえることだと思う。「死者の出ない軍事訓練など意味がない」というロンメル将軍の言葉にも似ている。・・・それで国際線パイロットの寿命の短いのが放射線の影響だとしたら、それは原爆より恐ろしいものとなりかねない。それは直感的に非常におかしなことだと思うのである。確かに戦時中の航空パイロットに原因不明の奇病にかかってなぞの死を遂げたものがいないとはいえないと思う(*)が、それが原爆症のようなものだとは断定できない。それにも増して、国際線のパイロットに原爆病の症状らしいものを起したという報告の無いようなのもおかしなはなしで、全くどういうわけだか分からない。航空機の搭乗員は毎年厳格な健康チェックを受けているので、原爆症に似た病状があれば、とっくに報告されているはずだ。 *「最強の零戦パイロット」といわれ、第2次世界大戦において、撃墜数200機超えを達成したという岩本徹三(1916−1955)はなぞの奇病でなくなったが、長時間飛行で蓄積した被曝が原因だとも考えられる。 まあ、ちょっといえそうなことは、原爆で生じた中性子よりも、国際線パイロットの浴びる中性子のほうが年を取っているものだろうということだ。誕生して間もないものと、時間のたった中性子とでは、なにか異なる点があるのかもしれない。(それで中性子の寿命のことが気になって、去年の5月に書いたものを読んだところ「半減期は1000分の1秒」などという間違ったことが書かれていたので「半減期は約10分」と訂正した。なぜこんなまちがいをしたのか分からない。半年もたって100人以上訪問客が尋ねているところであるから、誰か指摘してくれてもよさそうなものだなどとも思ったが、書き込みがあればあったで今度は応答が面倒にもなる。) ・・・・・・・・・・・・・・・ ・・・・・・・・・・・・ 先日テレビのニュースで、二重被爆者のことをイギリスのBBCが笑いものにしたというので被爆者友の会のようなものが問題にしているという風なことを聞いたが、BBCのほうは無反応のようだ。たぶん双方の文化の違いというものだろう。イギリスにしてみれば、「なんと日本の被爆者は狭量なことだろう!」と思っているだろう。問題というのは、BBCのジョーク番組で、「世界一運の悪い男」という話をして「この人(先日93歳で他界した二重被爆者の山口彊(つとむ)(1916−2010.1.4))は原爆で被爆した後電車で長崎に戻ってきてまた被爆したんだって」というところで、視聴者が爆笑したというだけの話だ。視聴者が爆笑したというだけでBBCとは全く関係がない。それにもかかわらず、BBCは手紙を出して日本大使館に謝罪したらしいが、お笑い番組であるにもかかわらず、司会者のほうはまったく厳かな態度で話しただけのようだ。まあ、これはイギリス流のマナーでは合格の範囲内なのであろう。出来れば放送日がエイプリルフール日であればなおよかった。4月馬鹿なら市民を爆撃しても問題はないらしい。チャーチル以来そういう国であった。原爆投下を強くアメリカに勧めたのもチャーチルだった。それにもかかわらず、アメリカが原爆を落としたということになってしまっている(実際アメリカが落としたのだが)。かなり日本とは常識が異なるようだが、コモンセンスに関して世界的に通用するのは、紳士の国のほうだ。 日本の常識のほうが間違っているのであろう。それに、日本には何人か二重被爆者がいるらしいが(ウィキペディアには165名とある)、元巨人軍の張本勲氏もその一人らしい。しかし、彼が韓国籍だから無視されているようなのも気に入らない。それで、この問題に関しては、多分韓国も日本の味方はしないと思う。 何かにつけ、中国はおかしい、韓国はおかしい、アメリカはおかしい、イギリスはおかしい、フランスはおかしい、・・・というよりも、日本はおかしいと考えたほうが非常にすっきりする。 |
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