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社説:光事件元少年死刑 判決が投げかけた意味

 99年に起きた山口県光市の母子殺害事件で、最高裁が殺人や強姦(ごうかん)致死罪などに問われた元少年の上告を棄却し、死刑が確定する。

 排水管検査を装って訪問した家で、母親を殺害後に強姦し、傍らの11カ月の乳児の首を絞めて殺害したとされる事件だ。最高裁は「冷酷、残虐で非人間的だ。死刑は是認せざるを得ない」と結論づけた。

 裁判は大きく変遷した。

 検察側の死刑求刑に対し、1審・山口地裁は無期懲役とし、2審・広島高裁も無期懲役を支持した。しかし、06年の最高裁判決は「無期懲役の量刑は不当で正義に反する」として、審理を広島高裁に差し戻した。

 その後、差し戻し控訴審で08年、広島高裁が死刑を言い渡していた。差し戻し審で元少年は殺意を明確に否定する新供述を展開したが、「不自然不合理」と退けられた。

 事件当時、元少年は18歳になって間がなかった。死刑を回避するか否か--。裁く側がこれほど厳しい判断を迫られる例はあまりない。

 父親の家庭内暴力にさらされたり、母親を自殺で亡くしたりするなど家庭環境も不遇だった。とはいえ、あまりにむごい状況を見れば、死刑は当然と思う人も少なくあるまい。

 今同様の事件が起これば裁判員が裁く。何が極刑選択を左右するのか。判決が投げかけた意味は重大だ。

 結果的に死刑の結論を支持した最高裁判決は、少年事件における厳罰化の流れを決定づけるだろう。

 最高裁は83年、死刑適用の指標として、いわゆる「永山基準」を示した。被害者の人数や殺害方法の残虐性、被告の年齢など9項目を挙げ、総合的に考慮してもやむを得ない場合に死刑の選択が許されるとした。

 特に重視されてきたのが被害者の人数だ。83年以後、少年による「2人殺害」で死刑が確定するのは今回が初めてになる。少年事件では更生可能性にも重きがおかれてきたが、その様相も変わるだろう。

 ただし、最高裁が厳罰化の方向だけを打ち出したと見るべきではない。今回、宮川光治裁判官が反対意見を述べたことに注目したい。死刑の選択に当たって、最高裁の中で意見が割れるのは極めて異例だ。

 宮川裁判官は、差し戻し控訴審で出された2人の専門家の鑑定書などを基に、元少年の精神的な成熟度が18歳を相当程度下回っていた可能性に触れ「その場合、死刑判断を回避する事情が存在するとみるのが相当だ」と主張し、さらなる高裁での審理を求めたのだ。

 凶悪事件を起こした少年に対して社会がどう臨むのか。死刑制度の議論と併せ、国民一人一人が難しい問題に向き合う時代がきている。

毎日新聞 2012年2月21日 2時30分

 

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