光市母子殺害事件で死刑確定へ 遺族の本村 洋さん、21日に妻子の墓前に報告へ
山口・光市の母子殺害事件で、殺人などの罪に問われている元少年について、最高裁判所は、犯行時、少年であったことを十分考慮しても死刑はやむを得ないなどとして、上告を退けた。
死刑が確定することになる判決のあと、遺族は厳しい表情で、苦悩との闘いの13年間を振り返った。
判決後、込み上げる感情を必死に抑える本村 洋さんの目には、光るものがあった。
判決後の会見で、本村さんは「遺族としては、大変満足しております。ただ決して、うれしいとか、喜びとか、そういった感情は一切ありません。厳粛な気持ちで受け止めなければならないというふうに思っております」と語った。
事件から13年、長かった孤独な戦いが、ようやく終わりを迎えた。
20日午後3時、2回目の最高裁判決が言い渡された。
裁判長は「何ら落ち度のない被害者らの尊厳を踏みにじり、生命を奪い去った犯行は、冷酷・残虐な犯行で、遺族の被害者感情はしゅん烈を極めている。被告に真摯(しんし)な反省は見られず、犯行時、少年であったことなどを十分考慮しても、死刑はやむを得ない」として、事件当時18歳の元少年・大月孝行(旧姓・福田孝行)被告(30)の上告を退けた。
これにより、死刑が確定することとなった。
当時18歳だった元少年は30歳となり、同じ月日を重ねた本村さんも35歳となった。
本村さんは「あらためて自分が犯した罪、自らの死を通して感じる恐怖から、自ら犯してしまった罪の重さを悔いる、かみ締める日々が来るのだろうと思っています。それは、本当に大変な日々だと思いますけれども、そこを乗り越えて、胸を張って、わたしは死刑という刑罰を受け入れてもらいたい。大変、酷なことを言っているかもしれませんけれども、切に願います」と語った。
1999年、山口県で起きた光市母子殺害事件。
配管工を装って、本村さん宅に上がり込んだ元少年は、妻・弥生さん(当時23)を絞殺後に乱暴し、さらに当時、生後11カ月だった夕夏ちゃんも首を絞め殺害した。
裁判では、犯行当時、18歳1カ月だった被告に、死刑を適用すべきかどうかが焦点となった。
20日の最高裁の判決では、裁判官の1人から「18歳に達した少年としては、精神的成熟度が相当程度に低い可能性があり、死刑回避の事情に該当しうる」と、異例となる再度差し戻しを求める反対意見が出た。
本村さんは「事件からずっと、死刑を科すということについて考え、悩んできたこの13年間でした。20歳に満たない少年が、人をあやめてしまった時に、もう1度、社会でやり直すチャンスを与えてあげることが社会正義なのか、命をもって罪の償いをさせることが社会正義なのか、どちらが正しいことなのか、とても悩みました」などと話した。
悩みながらの13年を過ごしてきたという本村さん。
2000年3月、無期懲役の1審判決後、本村さんは「遺族だって、回復しないといけないんです、被害から。人を恨む、憎む、そういう気持ちを乗り越えて、また優しさを取り戻すためには、死ぬほど努力しないといけないんです」と語り、やり場のない怒りをあらわにしていた。
このあと、被告が友人に書いた手紙には「被害者さんのことですやろ? 知ってま。ありゃ調子づいとると僕もね、思うとりました。犬がある日かわいい犬と出会った。そのままやっちゃった。これは罪でしょうか」などと書かれていた。
2審の広島高裁は、この手紙について「犯行の重大性や遺族らの心情などを真に理解しているものか、疑問を抱かざるを得ない」としながらも、1審と同じく無期懲役の判決を下した。
上告審で被告は、一転して殺意を否認した。
最高裁は「特に酌量すべき事情がないかぎり、死刑を選択するほかない」と、審理を差し戻した。
死刑の可能性も浮上した差し戻し審では、弥生さんを殺害後に暴行したことを「復活の儀式」などと供述し、さらに「押し入れに入れたら、ドラえもんが何とかしてくれると思っていた」などと供述した。
2007年6月、本村さんは「亡くなった者に対する尊厳が、かけらも見られないというところに対しては、遺族として憤りを隠せません」と語っていた。
広島高裁は「被害者を生き返らせるために暴行したという供述は、到底信用できない」と死刑の判決を下した。
それからおよそ4年、20日の判決を前に17日、FNNの記者の取材に対し、30歳になった元少年は「素直な思いとしては、怖いと思います。命がなくなってしまう刑罰、今まで怖いということを表に出さなかったのは、亡くなった人の方が怖かったと思うと想像できるから。僕自身が軽々と『怖い』と言うのは、どうかと思いました」などと話していた。
弁護団は20日の判決後、「死刑判決は、全員一致でなければならないとする、最高裁の不文律を変更するものであって、強く非難されなければならない」とコメントしている。
事件から13年、21日、弥生さんと夕夏ちゃんの墓前に報告に行くと話した本村さんは「今回の判決も、勝者なんていないと思うんですよね。犯罪が起こった時点で、たぶん、みんな敗者なんだと思います」と語った。
FNNではこれまで、犯行当時、被告が少年だったため、少年法の趣旨に沿って、更生の可能性や社会復帰に配慮し、匿名で報道してきました。
しかし、死刑が確定することで、社会復帰後の更生の可能性が事実上なくなったことや、死刑執行は重大な国家権力の行使であること、事件の重大性などを総合的に判断し、今回、実名での報道に切り替えました。
(02/21 00:12)