「韓国は日本に対して、いつも大幅な貿易赤字でして…」。仕事柄、たまに引き受ける講演でこんな事実を紹介すると、「?」という反応が多い。超円高で日本企業が苦しむ時節柄、報道で目につくのは、現代自動車やサムスン電子といった韓国勢の調子のよさ。それが「赤字」とはピンとこないようだ。
韓国は歴史的に、工業製品を作るための設備や電子部品、化学製品などを手近な日本から輸入している。だから韓国が生産を増やせば、その分、日本からの輸入が増えてしまう。
昨年は震災の影響で、韓国の対日赤字は減った。トヨタなど自動車メーカーも、円高対策として輸入部品使用に本腰を入れ始めた。すわ「空洞化」「韓国脅威論」という議論になりがちだが、韓国の年間2兆円超の対日赤字が簡単に消えるわけではない。
日本の製造業は分厚い。米アップルの製品も、日本の部品なしで成り立たない。輸入部品に門戸を開くことは、他国との貿易摩擦を和らげる機会といえる。
ただ、日本のものづくりに進化がなければ、新興国の追撃でやがてむしばまれる。製造業が先に進めるようなお金の回し方ができるか。日本の金融の力も問われている。 (阿部伸哉)
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