2011年12月22日 21時50分 更新:12月22日 23時28分
前田武志国土交通相は22日の記者会見で、八ッ場ダム(群馬県)の本体工事経費を12年度予算案に計上し、建設を再開すると正式に表明した。民主党の前原誠司政調会長は同日の記者会見で予算計上に反対を明言したが、野田佳彦首相は国交相の決定を追認する見通し。八ッ場ダムの建設中止は民主党が09年衆院選マニフェストに明記し、民主党政権の初代国交相に就任した前原氏が中止を表明した政権交代を象徴する政策だが、2年間の迷走を経て、民主党は公約撤回に追い込まれた。
前田国交相は22日の同省政務三役会議で建設再開を決め、閣議後の閣僚懇談会で野田首相に報告した。国交相は会見で「マニフェスト通りの結果が得られず残念だが、苦渋の決断だ。代替案がないまま事業を中断するのはよくない」と説明。地元自治体や住民に対しては「3代、4代にわたり地域の生活、人生に犠牲を強いてきたことは誠に申し訳ない」と陳謝し、事業は「全体の8割程度まで進捗(しんちょく)しており、あと6~7年で完成する」との見通しを示した。
これに対し前原氏は「予算案に計上するなら党として反対する。閣議決定させることはできない」と述べ、23日の政府・民主三役会議で野田首相に直接伝える考えを示した。
前原氏が建設再開に慎重姿勢を示してきたことから、藤村修官房長官が21日夜、前原氏が求めていた(1)利根川水系の河川整備計画を策定(2)建設予定地の生活再建法案の次期通常国会への提出を目指す--の2点を踏まえて判断するとの裁定案を提示していた。
前原氏は22日の会見で「(河川整備計画に基づく)検証が終わっていないのに、本体工事に着工するのは論理矛盾だ」と反発したが、首相官邸は「双方が裁定を一言一句受け入れた」(藤村長官)として国交省の決定を追認する構え。建設再開の方針が覆る可能性は低いとみられる。【松尾良、樋岡徹也】
政府が八ッ場ダムの「建設再開」を決めたことを受け、事業の推進を求めてきた群馬県の大沢正明知事は「突然の中止表明から2年経過した。地元にとっては苦渋の2年だった。国は一日でも早く、地元の生活再建と本体工事着工に取り組んでほしい」と述べた。
ダムが建設される同県長野原町の高山欣也町長は「民主党内で建設反対の意見が多い中、よく決断してくれた。感謝したい」と話し政府の判断を評価した。【鳥井真平、奥山はるな】
【ことば】八ッ場ダム
国が群馬県長野原町の利根川水系・吾妻川で建設を計画する多目的ダム。総貯水量は1億750万立方メートル。1947年のカスリーン台風で多くの死者・行方不明者を出したのをきっかけに、旧建設省が52年、現地調査に着手した。地元の住民は反対運動を繰り広げたが、生活再建を前提に85年、建設を受け入れた。しかし民主党への政権交代直後の09年9月、前原誠司国土交通相(当時)は建設の中止を表明。地元自治体などの反発で、後任の馬淵澄夫国交相は中止方針を棚上げした。国交省関東地方整備局は事業の適否を検証し今年11月、「継続が妥当」との結論をまとめていた。