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■緊急取材「【2】競争の果て…ニューヨーク教育改革の実情」 2012/02/17 放送

前回に続いて、「教育改革」を考える特集です。

 「大阪維新の会」が提案する教育条例案が、来週から府議会で審議されます。

 この条例をめぐっては、アメリカで10年前に実施された「教育改革」と似ているという声が上がっていますが、実際の学校現場で何が起きたのか緊急取材しました。




 マンハッタンから車で30分ほどのジャマイカ地区。

 アフリカ系アメリカ人や移民が多い、活気溢れる庶民の街だ。

 この街のシンボル・ジャマイカ高校は、映画監督のフランシス・コッポラやノーベル生理学賞の受賞者も卒業した伝統校だ。

 だが、去年12月、閉校が決まった。


       
 生徒や保護者、卒業生は、学校の存続を強く求めていた。

 <教師>
 「(訳)14パーセントも卒業率が上がったんだ。大成功だ!」

 閉校の大きな理由は中退者や落第者の多さだったが、ここ数年は卒業率が9割近くに上がっていたという。

 だが、公立学校を厳しく評価する風潮が強まっていたのだ。

 <ジャマイカ高校教師 エテルノさん>
 「(訳)120年の歴史がある学校を、ブルームバーグ市長は閉鎖しようとしているんだ。不公平だし、間違っている」

 

 ジャマイカ高校は閉鎖するが、校舎は新しい民間の学校が使う。

 すでに、校舎の一部では民間の学校が授業を始めていて、民営化の流れは止まらない。

 ジャマイカの在校生は、肩身の狭い思いをしていた。

 <ジャマイカ高校の男子生徒>
 「(訳)学校で起きていることが、嫌でたまらない」
 <ジャマイカ高校の女子生徒>
 「(訳)長い歴史のある学校が閉鎖されるなんて悲しい」
 <ジャマイカ高校の女子生徒>
 「(訳)新しい学校を作って新しいスタートだというけれど、同時に今あるものを壊していることに気づいていない」


 こうした公立学校閉鎖の背景には、ある法律の存在がある。

 「NO CHILD LEFT BEHIND」

 NCLB、「落ちこぼれゼロ法」だ。

 9・11(2001年)のテロの翌年に、アメリカの公立学校の教育水準を底上げしようとブッシュ大統領が導入、小学4年生と8年生に国語と数学の全米学力テストを実施して、その結果をインターネットで公表し、学校間の競争を促したのだ。

 <男の子>
 「(訳)僕はトップクラスだよ」
 <女の子>
 「(訳)知識をつけるために、テストを受けなきゃならないの」
 <保護者>
 「(訳)学校同士がテストの点を競い合っているよ」

 ところが導入当時、連邦教育省の補佐官だったニューヨーク大学の教授は当初の理念に反し、この法律は失敗だったと断言する。

 <ニューヨーク大学(教育学) ラビッチ教授>
 「(訳)私は『落ちこぼれだらけ法』と呼ぶわ。教師は『学ぶ喜びを忘れろ』『創造性もいらない』『正しい答えを書けばいい』と言うのです。これは21世紀の教育とは思えない」

 「落ちこぼれゼロ法」によって学力テストの結果は州や市町村、学校ごとに公表され、成績を上げるための競争が過熱した。

 その結果、成績がふるわない多くの学校は芸術や体育の授業などを減らし、テスト対策に時間をとられるようになった。

 公立小学校に勤める現役の教員は、苦しい胸の内をこう語る。

 <匿名の小学校女性教員>
 「(訳)過去10年間と比較してもどんどん悪くなっている。ブルームバーグが市長になって以来『あなたは、この科目をこの方法で教えなさい』と言われるようになった。子どもが何が必要としているかは関係なしで。まるで自分がロボットみたいだった」

 自らの解雇や閉校を恐れた教師たちの中には、信じられないような不正をはたらく者もいた。

 【ケース[1]休もう作戦】

 テストの前日、勉強が苦手な生徒たちに教師から電話が。

 「明日は休んでいいよ」
 「これでクラスの平均点が上がる」

 【ケース[2]ご褒美作戦】

 「テスト頑張って!」と、生徒にお菓子やジュースを配る先生。

 しかしそこには、テストの答えというオマケまでついていた。

 【ケース[3]プロジェクター作戦】

 教室にプロジェクターを持ち込んだ先生。

 なんと、天井にテストの答えを写し、生徒はみな上を見ながら答えを書いていたという。

 去年、全米一の教育者との称号を得た女性教育長をトップとするアトランタでは、44校の教員178人(校長を含む)が、組織的に学力テストの点数を改ざんしていたことが発覚、大問題となった。

 現場に大きな混乱をもたらした「落ちこぼれゼロ法」。

 10年前、この法律の導入にもかかわったラビッチ教授は、大阪の「教育基本条例」に「落ちこぼれゼロ法」との共通点が多いと指摘する。

 <ラビッチ教授>
 「(訳)アメリカの二の舞になるわ」

 その共通点、実はただの偶然ではなかった。


 アメリカの「落ちこぼれゼロ法」導入にもかかわったラビッチ教授。

 私たちは、大阪の教育基本条例案を忠実に英訳し、熟読してもらった。


       
 取材の際には、教員の相対評価が絶対評価にあらたまる可能性があることなども伝え、感想を求めた。

 <ラビッチ教授>
 「(訳)『落ちこぼれゼロ法』と大阪の条例の共通点は、懲罰的な態度です。私はそれを『評価と罰』と呼んでいます。とにかく情報を集め、評価を集め、そして教師を処罰する。そして学校を閉鎖する。このやり方では成功しない」

 ラビッチ教授がいう共通点とは、

 【1】学力テストを実施し結果を公開、地域や学校同士で競争させようとしている
 【2】教員の評価を厳しくし、校長の命令に背いた場合は免職処分も課す

 ・・・という点だ。

 共通点は偶然ではない。
 
 「落ちこぼれゼロ法」は、国の学力テストによって学校間の競争を促した、イギリスのサッチャー首相時代の「教育改革」をお手本にしていた。

 大阪の条例案も「この『サッチャー改革』を参考に作られた」と、去年12月、大阪弁護士会主催のシンポジウムで「大阪維新の会」の坂井市議が発言している。

 「サッチャー改革」は、その後、イギリス国内で失敗だったとされ、多くの自治体は国の学力テストをやめた。

 <ラビッチ教授>
 「(訳)せっかく『教育改革』する機会があるのだから、私たちが歩んできた10年の過ちを繰り返してほしくない」


 いま教育の危機に瀕するアメリカでは、テストで合格ラインに達しない公立の学校はダメ学校の烙印を押され、閉校が相次いでいる。

 とくに所得の低い地域での閉校が多く、行き場のない子どもも増えているという。

 <閉校が決まった学校の生徒たち>
 「テストの成績が悪いから、学校がなくなるんでしょう」
 「国にお金がないから、学校が閉鎖するんでしょう」
 「どんどん学校がなくなって、行くところがなくなるわ」

 一方で、同じニューヨークには行き場のない生徒にこそ、居場所を与えて学力を伸ばすことに成功した小さな公立高校もある。


 
 州や市の方針にも、抵抗し続けてきた。

 <教師>
 「(訳)勉強の目的がテストで良い点をとるだけならば、楽しいはずがない」

 この学校が独自に編み出した授業のキーワードは、何でも生徒に選ばせ好奇心を引き出すこと。

 <授業中の男子生徒>
「(訳)僕の今日の単語は、テレビで見て意味がわからなかったコレです」

そして、テーマごとに必ず議論する。

 <男子生徒>
 「(訳)ふつうの学校だったら生徒は言われた通りにするものだけど、ここでは楽しいと思える瞬間がある」
 <女子生徒>
 「(訳)学ぶということに前向きになれる。自分の意見も言えるし」
 <男子生徒>
 「(訳)自分にここまでできるとは思わなかった。このクラスが終わってエベレストに登った気分だよ」

 生徒150人に対して、教員は14人。

 経済的に厳しい家庭の生徒がほとんどだが、多くは高い学力を身につけ大学に進学していく。

 <クック副校長>
 「(訳)わたしたちが目標としているのは、生徒が巣立っていくとき、意味のある選択肢をもっていること」

 大阪の条例案を読んでもらうと・・・

 <クック副校長>
 「(訳)アメリカは失敗したんです。ですから、日本がその過ちを繰り返すのは悲しいです」

 「落ちこぼれゼロ法」の失敗を認め、徐々に軌道修正に乗り出したアメリカ。

 一方、同じような目標を掲げ、「教育改革」を急ぐ大阪では、学力テストで生徒のレベルをはかり、学校や教員を熾烈な競争に追いやろうとする狙いが窺える。

 当初の理念から外れ、結果的に公教育の委縮を招いたアメリカの二の舞になる恐れはないのか?

 <大阪府 中西正人教育長・15日>
 「(教員の)現在の下位評価について、甘くなっているのではないか、という指摘については受け止めなければならない。
 (Q.^厳しくなると?)
 「そういう意味ではそうですね」

 <大阪市 橋下徹市長・18日>
 「学力調査テストの学校別の成績開示については、これから教育委員会としっかり議論していきます。(学校別の)情報についても基本的には保護者が求めれば開示をせざるをえないと思う」

 アメリカの改革から10年、まさに今、大阪は教育の未来図を決める歴史の転換点にある。




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