2011年12月21日 12時47分 更新:12月21日 23時41分
日銀は21日の金融政策決定会合で金融政策を現状維持とする一方、景気の現状判断を「持ち直しの動きが一服している」に下方修正した。欧州債務危機が世界経済の減速や円高などを通じて日本経済に悪影響を及ぼしており、景気が足踏み状態に陥る「踊り場入り」との認識を示した格好だ。日銀は年明け以降も欧州情勢を注視する構えで、必要に応じて追加の金融緩和を検討する「警戒モード」が続きそうだ。【谷川貴史、大久保渉】
「最大のリスク要因は引き続き欧州問題。今後も世界経済、日本経済の下振れをもたらす可能性に注意が必要だ」。今年最後となる政策決定会合後の会見で、白川方明総裁は改めて欧州危機への懸念を強調した。
欧州危機は世界的な株安や歴史的な円高を招き、日本の消費者や企業心理を冷え込ませる一方、欧州への輸出低迷で新興国や日本の経済を下押ししている。11月の日本の輸出額は2カ月連続で前年水準を下回った。
日銀は景気の現状認識を従来の「(持ち直しの)ペースは緩やか」から「一服」に変更し、2カ月連続で下方修正した。欧州危機を背景に輸出や生産が従来の「増加」から「横ばい圏内の動き」に弱含んだのが主因だ。
欧州連合(EU)は12月上旬の首脳会議で財政規律を高める仕組みの導入で一致したが、その後もイタリア国債の利回りが一時、自力での資金調達が困難になる7%台に高騰(価格は下落)するなど「緊張感が高い状況」(白川総裁)が続いている。
欧州危機などを背景とした円高などに対応するため、政府・日銀は8月と10月、国債買い入れなどを行う「基金」を計15兆円増額する金融緩和と円売り・ドル買いの為替介入を実施。ただ、日銀が「強力な緩和策」で金融機関に巨額資金を供給しても、少子高齢化などを背景に日本の資金需要は低迷しており、「(個人や企業の)支出が本格的に増えていない」(白川総裁)のが実態だ。
日銀は日本経済の先行きについて「当面、横ばい圏内の動き」と見込む一方、その後は東日本大震災の復興需要に加え、新興国向け輸出の回復をテコに「緩やかな回復経路に戻る」と予測する。しかし、欧州危機拡大で回復シナリオが崩れれば一段の追加緩和など難しい対応を迫られるのは必至だ。
世界経済の減速を受け、金融緩和の動きは日米欧の先進国だけでなく新興国にも広がっている。
欧州では、欧州中央銀行(ECB)が11、12月と2カ月連続で利下げを決定。政策金利はユーロ導入後最低水準の1.0%となった。金融機関に対する低利融資も貸出期間を従来の13カ月から3年に拡大。資金を十分に供給し、民間への貸し渋りを減らし、景気が悪くなるのを防ぐ狙いだ。米連邦準備制度理事会(FRB)は事実上のゼロ金利政策を13年半ばまで続ける方針で、国債などの買い入れを増やす量的緩和の拡大観測も根強い。
一方、新興国は高成長に伴うインフレや不動産バブルの抑制のため金融引き締め策を採用してきたが、欧州向け輸出が減少したり、欧米からの投資資金が流出したことなどを受け、今秋以降、緩和方向にかじを切った。ブラジル中央銀行が9月以降3回にわたり政策金利を引き下げ、中国人民銀行も12月、預金の一部を強制的に預かる資金比率を示す預金準備率を約3年ぶりに引き下げた。インドネシア、タイなども相次いで緩和策を採用した。
ただ、金融緩和策には副作用もある。昨年、米国が大規模な金融緩和を行った際には、余剰資金が商品市場に流れ込み、原油や大豆などの価格が急騰した。第一生命経済研究所の西浜徹主任エコノミストは「欧州危機への警戒感が和らげば、再び商品市場に資金が流れ込みインフレを引き起こす可能性がある」と指摘する。