原発の被ばく労働が原因で心筋梗塞(こうそく)を発症したとして労災申請し、退けられた福岡市の梅田隆亮(りゅうすけ)さん(76)が17日、国を相手に処分の取り消しを求める訴えを福岡地裁に起こした。これまでがん以外の疾病と被ばくとの因果関係が認められたことはないが、福島第1原発事故処理で多くの労働者が被ばくし、今後同様の労災申請が予想されるため、弁護団は「原発労働の実態を明らかにし、認定基準自体がおかしいことを主張したい」としている。
訴状などによると、梅田さんは1979年に日本原子力発電敦賀原発(福井県敦賀市)、中国電力島根原発(松江市)で配管工事などに携わったが、放射線に関する十分な教育がなく、作業効率を上げるため曇るマスクやアラームが鳴る線量計を外して作業。まもなく突然鼻血が出たり全身倦怠(けんたい)に襲われ、00年に心筋梗塞を発症した。
08年に松江労働基準監督署に労災申請し、梅田さんを診察した長崎大学病院医師が「原因の一部に放射線が関与した可能性を否定できない」とする意見書を提出した。だが同労基署は、梅田さんの外部被ばく線量が8・6ミリシーベルトと記録されていることから「100ミリシーベルトを下回る放射線量による影響に非がん疾患を含めない」とする国際放射線防護委員会の勧告を引用して退けた。
梅田さんは「線量計を外しており、数値は実態を反映していない」と主張。原爆症認定の国の指針にも放射線起因の疾病として心筋梗塞が挙げられていることから、因果関係は認められるとしている。国側は「訴状が届いていないのでコメントできない」と話している。【関谷俊介】
毎日新聞 2012年2月18日 西部朝刊