|
きょうの社説 2012年2月20日
◎「能登棚田米」 担い手と景観守る起爆剤に
奥能登の棚田で生産されたコメの統一ブランド「能登棚田米」が今秋から売り出される
ことになった。生産者の確保と世界農業遺産に認定された「能登の里山里海」の景観を守る起爆剤としての期待がかかる。奥能登2市2町にある棚田は、県内の棚田の約7割を占めるが、生産者の高齢化と平た ん地に比べての作業効率の悪さなどから保全が難しくなっており、生産活動の維持が大きな課題となっている。里山の景観は人の営みを通して形成され、棚田も耕作されてこそ世界農業遺産としての価値がある。JAや地元、行政が連携して、「能登棚田米」のブランド化を推進してもらいたい。 統一ブランド化に向けてスクラムを組む、おおぞら、すずし、町野町、内浦町の4JA は、コメの基準などを協議する場を年度内にも設ける。県も技術支援や販路開拓に向けた企画立案で後押しすることにしている。 食のブランド化はどの分野も決して容易ではないが、棚田は寒暖の差など、おいしいコ メが育つ条件に恵まれているといわれる。これまでも羽咋市神子原(みこはら)町や輪島市町野町金蔵(かなくら)などのように、棚田のコメのブランド化を進めている地域もある。世界農業遺産の能登で収穫されたという希少性は、市場の注目を集めるセールスポイントになる。里山の恵みの価値を広く発信するとともに、ブランド米にふさわしい品質の確保が求められる。 「能登棚田米」の取り組みが軌道に乗れば、地域おこしと担い手の確保にもつながって いく。売り上げの一部を棚田の保全活動に活用することも検討されており、棚田を守る仕組みの一つになる。波及効果の大きい里山ビジネスといえる。 棚田の保全に関しては、輪島市の千枚田などでボランティアやオーナー制度が活用され ているが、耕作放棄地がさらに増えれば、「能登の里山里海」の景観に深刻な影響を及ぼす。能登各地で取り組んでいる食関連の振興策の中でも、「能登棚田米」のブランド化は、景観保全と密接につながっている。着実に能登の里山ビジネスの柱の一つに育ててほしい。
◎東電国有化論 官僚主導で再建できるか
東京電力への公的資金注入の条件として、国が経営権を握るべきとする政府方針には疑
問がある。官僚主導で東電の再建がスピードアップし、電力のコストダウンや安定供給が進むとは、とても思えない。東電に対し、1兆円規模の公的資金を注入した段階で、国の監督責任はさらに重くなる 。東電が一時的に実質国有化されるのはむしろ当然だろう。実際、2003年に政府による公的資金注入を受け、事実上国有化されて経営再建に取り組む「りそな銀行」はじめ、多くの銀行が公的資金の注入を受けている。だが、注入された公的資金は先々返してもらえばよいのであって、民間企業を国有化し、経営権まで取得するという発想は理解しがたい。官から民への流れにも逆行する。 福島第1原発事故の対応のまずさから、東電の信用は地に落ちているとはいえ、政府の 対応も東電に負けず劣らずひどかった。東電を悪役に見立てて攻撃すれば、国民の支持が得られると考えているなら大きな間違いだ。 一時的に国有化しても、経営のノウハウもない国が銀行経営などできないのと同様、電 力会社をうまく経営できるとは思えない。下手をすれば経産官僚の天下りポストが増えるだけではないか。 東電は4月から企業などの大口向け電気料金を17%、秋から家庭など小口向け料金を 10%値上げする方針を示した。自治体や企業はこれに強く反発している。国は資産売却やコスト削減などのリストラが徹底的に行われたのかどうか点検する必要がある。 だが、国は東電を厳しく監督し、指導すればよいのであって、経営に乗り出す必然性は まったくない。国が経営にまで関与してしまうと、経営する側と監視する側が同じになり、かえってマイナスだ。経営監視の目が甘くなり、むしろ国民負担が増える可能性がある。 国有化により、発送電分離などの電力制度改革がやりやすくなる側面は否定しない。が 、今は東電の経営を立て直し、電力不足対策や原発の危険性除去に取り組ませることを優先すべきだ。
|