■社会のセーフティーネットが不十分、自殺予防システムもまひ状態
専門家たちは「ほかの国でも、社会の急激な西欧化に伴って自殺率が上昇したが、韓国ではあまりにも早く上昇したという点が問題だ」とし、その主な原因として、貧富の格差の拡大や競争の激化、社会のセーフティーネットが不十分な点、自殺予防システムがまひしている点などを挙げている。
ソウル大附属病院神経精神科の趙孟済(チョ・メンジェ)教授は「韓国が過去60年間、高度経済成長を成し遂げる中で、社会的に脆弱(ぜいじゃく)な階層が大幅に増加したが、この階層のための社会的なセーフティーネットが不十分な状況だ。自殺率を引き下げるためには、貧困層や高齢者など、社会から疎外されがちな階層をフォローするための社会的な取り組みが必要だ」と指摘した。
嘉泉医科学大予防医学科のイム・ジョンス教授は「特に現在の高齢者は、年金を受け取っているケースが少なく、介護や保険などの疾病管理システムもまひしているため、生活苦の末に自殺するケースが多い」と語った。
韓国社会が、落ちぶれた人たちを見捨て、「勝ち組」だけがいい思いをする冷酷な競争社会へと変ぼうしていることも、自殺が増加する原因の一つとして挙げられる。小・中・高校生は激しい受験競争や学業をめぐるストレスに苦しみ、大学生や大卒者たちは就職をめぐって激しい競争を、さらに就職しても職場で容赦ない競争を繰り広げている。こうした中、ひとたび競争で後れを取ると「負け組」になり、再起のチャンスが与えられないため、自殺に追い込まれるという冷たい社会が形成されているというわけだ。
「自殺共和国」という言葉が登場するほど、韓国の自殺問題が深刻化しているにもかかわらず、これを防ぐためのシステムは不十分だ。自殺予防のため、政府レベルで取り組んでいる日本では昨年、自殺予防のための予算として、基金を含め234億円を計上したが、韓国の今年の自殺予防のための予算は23億ウォン(約1億6200万円)にすぎない。保健福祉部の関係者は「自殺が社会的な問題だという認識がいまだに低く、予算審議で後回しにされている」と語った。