立ち読み週刊朝日

火災で死んだ80歳男性 ローンで用意した30万円を木嶋被告に渡す


 "婚カツ詐欺師"とも呼ばれる木嶋佳苗被告(37)。2009年に首都圏で相次いだ男性の不審死事件に関与したとして、裁判が行われている。大出嘉之さん(当時41)、寺田隆夫さん(同53)の死亡事件に続き、千葉県野田市の自宅の火災で亡くなった安藤建三さん(同80)の事件の審理が始まった。以下は、コラムニスト・北原みのり氏が見た裁判の様子だ。

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 佳苗と安藤さんは2008年6月頃、婚活サイトで出会った。トラック運転手だった安藤さんの写真が法廷で紹介された。70代でパソコンを独学で覚え、婚活サイトに登録するほどの行動力と好奇心が全身からにじみ出ている。恰幅がよく、ハンサム。若い頃はさぞかしもてただろう。

 安藤さんはプロフィールに、妻がパーキンソン病で10年前に亡くなったこと。同居している息子とは顔を合わせることもなく、邪魔者扱いされていること。優しい関係を築ける女性と出会いたい、ということを書いていた。

 安藤さんに佳苗はこんなメールをしている。

「建三さん、とお呼びしましょうか。私のことは佳苗と呼んで下さい」「(安藤さんのこと)気に入りました。気取らず、楽しい時間を過ごせると思います」「男性機能が不能ならお付き合いは無理と思っています。肌と肌の触れあいでわかり合えることは、多いです」

 メールをやりとりしてまもなく、まだ会っていない佳苗に安藤さんは50万円を振り込んだ。2人が顔を合わせるのは、安藤さんが送金した後だ。

 安藤さんは年金暮らしで貯金はなかった。佳苗が2度目にお金を要求した時は、ローンで30万円を工面した。そこまでしても安藤さんは、佳苗に会いたかったのだ。

 安藤さんはパソコンのデスクトップを佳苗の顔写真にしていた。肉体関係はなかったと言われているが、医師から性機能改善薬を処方してもらっていた。

 とはいえ、安藤さんが佳苗と会ったのは、約1年間で数回。そのうち4回は意識を失い病院に運ばれ(検察は佳苗が睡眠薬を飲ませたと主張)、最後に佳苗に会った日に亡くなった。

※週刊朝日 2012年2月24日号