岐路の国会が始まる。国の方向性、さらには政党政治そのものの岐路にもなりそうな国会だ。
野田佳彦首相は、税と社会保障の一体改革に「政治生命を懸ける」という。確かに欧州の債務危機は対岸の火事ではない。解決は時間との闘いでもある。国民に増税を求める前提として、当然にも「身を切る改革」が必要だろう。
しかし、その具体策がなぜ衆院比例代表だけの定数80削減なのか。選挙制度の変更は、代議制民主主義の形を変える。つまり国家全体でどんな政治を目指すかという議論を経た上で、議員定数や配分方式が決まるはずなのに、首相や民主党は手っ取り早く身を切る姿勢を見せるのに比例代表を選んでいる。
国会の恒常的な衆参ねじれ、政治の停滞は、90年代の政治改革が参院のあり方を度外視して衆院のみの選挙制度改革に偏ったため、というのが歴史の教訓だろう。衆参の権限はほぼ対等であり、衆院に「政権交代可能」な小選挙区制を導入するなら、参院の改革も一体で実施すべきだった。
衆院に定数180の比例代表があるのは、激変緩和と中小政党への配慮だ。もし、民主案に沿って衆院比例だけの定数削減を実施したら、ねじれによる国政のゆがみは一層深刻になる。
そもそも日本の国会議員数は外国と比べて多いわけではない。国立国会図書館の集計によると、英国の下院議員(定数650)1人当たりの人口は約9万5000人。欧州の下院はほぼ10万人前後で、日本の衆院議員(1人当たり26万4704人)の半分以下だ。
議員歳費や定額経費の合計は1人年間約4000万円だ。公設秘書の給与を合わせると80人削減の財源効果は50億円くらいだろう。一方で共産党を除く各党は国庫から年間約320億円もの交付金を受けている。
吟味不足の定数削減を振りかざして選挙制度をいびつにするよりも、各党が交付金と歳費の1割でも2割でもカットする方が「身を切る」姿勢としてよほど理にかなっている。今国会での制度改革は、衆院小選挙区の「1票の格差」是正にとどめるべきだ。
定数問題がこじれると消費税論議も不健全になる。重要な国会だからこそ、民主主義のルールを安易に取引してはならない。
毎日新聞 2012年1月24日 東京朝刊