タレント島田紳助さんの引退騒動でクローズアップされたヤクザ(暴力団)の世界。暴力団排除条例の施行が相次いだことに反発するかのように、各地で発砲事件も起きています。彼らはなぜ存在し、どこへ行くのでしょうか。
■丸善丸の内本店 小松原俊博さんのおすすめ
(1)山口組三代目 田岡一雄自伝 [著]田岡一雄
(2)近代ヤクザ肯定論 [著]宮崎学
(3)イスラム社会のヤクザ [著]佐藤次高ほか
▽記者のお薦め
(4)裏社会「闇」の構図 ヤクザとカタギの黒い関係 [著]礒野正勝
そもそもヤクザとはどんな人間なのか。小松原さんが最初に薦めるのは(1)『山口組三代目 田岡一雄自伝』。「自伝なのでうのみにできない部分もあるが、著者の仁侠(にんきょう)やヤクザへの思いが伝わってくる」
著者は山口組の3代目組長。各地で激しい抗争を繰り広げる一方、港湾荷役、興行などの実業に進出。武力と経済力を握り、神戸に本拠を置いていた山口組を日本最大のヤクザ組織に発展させた。美空ひばりの後見人としても有名だった。
その力の源泉はどこから来ていたのか。ヤクザの出自は差別や貧困の問題と関わっていると言われる。著者も幼少時に両親と死別、愛情とは無縁の不遇な青少年時代を送った。序文には、こんな趣旨の一文を寄せている。「社会からはみでるしかなかった人間の心情にも少し理解の目を開いてもらえたら……」
次に小松原さんが「脱近代社会を考えるために近代ヤクザに学ぶという視点が新鮮」と推した(2)『近代ヤクザ肯定論』は、山口組の100年近い歴史を振り返りながらヤクザの社会的存在について考察する。
日本のヤクザは地下組織である欧米のマフィアとは違うと言われてきた。ヤクザの事務所は街中にあり、組の看板を掲げる。なぜか。ヤクザの世界は一般社会の「需要」から成り立っているからだ。バクチ、取り立て、風俗……最近では原発の労働者派遣への関与が指摘されるなど、近代社会が生んだ鬼子であるヤクザは、法では支配できない「負のサービス業」を担っていた。
だが、経済成長とともに暗躍の軸足を企業社会に置くようになり、転換期を迎えているという。経済活動が優先になり、その存在も組織も「変質」、単なる社会の下部でうごめく勢力ではなくなった。「経済ヤクザ」となった彼らの「マフィア化」はさらに進んでいくのだろう。
一方、どんな社会にもアウトローはいる。(3)『イスラム社会のヤクザ』は「アジアの西のアウトローと日本のヤクザを比較すると興味深い。ユニークな『比較仁侠学』の試み」(小松原さん)。イラン、アラブ社会のヤクザの歴史は9世紀半ばまでさかのぼる。イスラム独自の「仁侠精神」や文化を持っていたという。
記者が薦めるのは(4)『裏社会「闇」の構図 ヤクザとカタギの黒い関係』。元週刊誌記者のジャーナリストが30年以上にわたる取材経験から見聞きしたヤクザと社会の関係を、スポーツや芸能、政治、経済、そして警察、マスコミなど各界ごとにふりかえる。ヤクザの問題は古くて新しい。それは社会が光と闇の二つの世界で構成されているからだろう。
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■〈見るなら〉沖縄やくざ戦争
サニー千葉(千葉真一)イン沖縄といえば「キル・ビル」である。
サーターアンダギーのにぎりが出てきそうな沖縄のすし屋に身をやつす刀鍛冶(かじ)の服部半蔵を演じた千葉ちゃんは、ノンストップの目まいを引き起こした。
だが、タランティーノのオマージュからさかのぼること27年。東映実録やくざ映画路線にあだ花のように咲いたこの映画でも沖縄の千葉ちゃんが、おなかいっぱい堪能できる。しかも狂気にとりつかれたキレキレの千葉ちゃんだ。
千葉ちゃん演じる国頭(くにがみ)は旧コザ市を根城にする暴力団組長だが、ヤマトンチュを敵視するあまり、本土系組織の幹部を惨殺。その事件が果てなき抗争へともつれる。
憎悪の感情しかない千葉ちゃんは、射殺される瞬間までスーパーハイテンションの権化と化している。そんな千葉ちゃんを僕たちは愛さずにはいられない。(龍)
DVDの販売元は東映、発売元は東映ビデオ、4725円。