2011年12月20日 20時5分 更新:12月20日 23時14分
ファイル共有ソフト「Winny(ウィニー)」を開発・公開し、インターネット上で映画などの違法コピーを手助けしたとして、著作権法違反ほう助罪に問われた元東京大助手のプログラマー、金子勇被告(41)に対し、最高裁第3小法廷(岡部喜代子裁判長)は19日付で、検察の上告を棄却する決定を出した。裁判官5人のうち4人の多数意見。罰金150万円を言い渡した1審を破棄し、逆転無罪とした2審・大阪高裁判決(09年10月)が確定する。
ネット上のソフト提供行為に刑事罰を適用することに対し、開発者は「萎縮効果を生む」などと反論してきたが、今回の決定は捜査当局に一定の制限をかけたといえそうだ。
金子被告は02年からウィニーを公開。入手した2人の男性=いずれも有罪確定=がゲームソフトなどを無許可で公開する著作権法違反行為を可能にしたとして、ほう助罪で起訴された。1審・京都地裁判決(06年12月)は「著作権侵害に利用されると認容して公開した」と有罪。2審は「被告は違法使用を勧めて提供はしていない」として無罪とした。
小法廷は、ほう助の罪成立を限定的に解釈した2審判決について「法解釈を誤っている」と指摘。適法にも違法にも利用できるウィニーを中立価値のソフトだとした上で、「入手者のうち例外的といえない範囲の人が著作権侵害に使う可能性を認容して、提供した場合に限ってほう助に当たる」との初判断を示した。
その上で、金子被告については、ウィニーが著作権侵害に利用される可能性が増えてきたことを認識しつつも、利用者の4割程度にまで拡大するとは認識していなかったとして、ほう助の故意はなかったと結論付けた。違法なファイルのやり取りをしないよう注意書きを付記していた点なども考慮した。
大谷剛彦裁判官(裁判官出身)は「ほう助犯が成立する」との反対意見を述べた。【石川淳一】
金子さんは20日夜、東京・霞が関の司法記者クラブで記者会見し、「開発をちゅうちょする多くの技術者のため公判活動してきた。私の開発態度が正しく認められたことをありがたいと思う。ウィニーを悪用することのないよう改めてお願いする」と笑顔を見せた。
現在も開発者の一人として、後進のプログラマーの指導に当たっているという。「(ウィニーが)悪用しかできないと勘違いされて広まってしまったが、悪用を考えて開発する人はいない」と強調した。会見に同席した弁護人は「事件はウィニーの技術や価値を検討せず、偏見で捜査を進めた」と批判した。
一方、最高検の岩橋義明公判部長は「主張が認められなかったことは誠に遺憾」とのコメントを出した。
利用者が各自のパソコンに所有する映像や音楽などのファイルデータをインターネットを通じて共有、交換するソフト。送信者を特定しにくい「匿名性」と、不特定多数へのデータ拡散を可能にする「効率性」が大きな特徴で、映画などの著作物の違法流通を容易にしたほか、暴露ウイルスの出現で警察や原発などの機密情報の流出の問題も生じた。