米議会の上下院は17日、給与税減税を今年末まで延長する総額1500億ドル(約11兆9000億円)の法案をそれぞれ賛成多数で可決した。オバマ大統領の署名を経て成立する。同法案が成立すれば、失業保険給付も再延長される。
労働者の給与税減税措置(税率を6.2%から4.2%に引き下げ)は今月末で終了する予定だったが、今年末までの延長が確保される。また、メディケア(高齢者向け医療保険)による医師に対する報酬の大幅削減も回避される。
数週間におよぶ交渉を経て、下院は賛成293、反対132で、上院は賛成60、反対36で可決した。上院では、マコネル院内総務(ケンタッキー州)を含む14人の共和党議員が民主党の多数派に同調し、賛成票を投じた。
共和党議員はこれまで、給与税減税や失業保険給付の延長は費用がかかりすぎるとして批判的だったが、国民から反発を回避するために法案への賛成を受け入れた。共和党のマケイン上院議員(アリゾナ州)は「(延長に反対して国民の反発を受けた)昨年12月の失敗を繰り返したくなかった」と述べた。
オバマ大統領はシアトル郊外で行った演説で、同法案は非常に重要だと指摘、ワシントンに戻り次第、直ちに法案に署名すると述べた。
同法案の支持者は、法案の第一の目的は国民の手取り賃金を増やして景気を浮揚させることだとしている。しかし、あまり知られてはいないが、この法案には米国の失業保険制度を長期的に変更することになる条項も含まれている。
同法案によると、「ワークシェアリング」と呼ばれるプログラムが拡充される。このプログラムは失業保険の資金を利用して、企業の経費削減の一環として労働時間が短縮されている従業員の給与を補てんするものだ。この制度はロードアイランド州を含むいくつかの州で採用されており、企業が解雇(レイオフ)の手段を使わずにパートタイム勤務で雇用を維持することができる制度として評価を受けている。
オバマ大政権で労働省の主任エコノミストを務めたプリンストン大学客員教授のベッツィー・スティーブンソン氏は「米国は現在、労働時間の削減よりもレイオフに偏った制度を採用している」と述べた。スティーブンソン氏は制度の変更によって、「痛みを分散させるだけでなく、痛みを最小限に抑えることができる。失業期間が長引けば、長期的にわたって影響が出ることが分かっている」と述べた。
また、労働者が失業保険を受け取りながら企業の研修を受けられるプログラムや、職業相談サービスにもさらに多くの資金が投じられる。起業家など自営業者も他の労働者と同様の失業給付が受けられるようになる。
民主党議員と一部の共和党議員は、失業保険制度を失業者に給与を支払うだけではなく、労働者が職を維持したり新しい職に就いたりする上で役立つものにするために、このような変更が必要だと主張してきた。
法案によると、各州は失業保険給付の申請者に対して、薬物検査を実施することができるようになる。検査の対象となるのは、薬物テストに合格しなかったために失業した労働者、薬物テストが必要な職を求めている労働者だ。
政府の失業保険給付を受けている国民は現在350万人に上るが、同法案の成立によって、今秋にもこのうちの一部が失業保険給付から切り離されることになる。失業保険の給付期間の上限は各州の失業率次第で、現在の99週間から削減されて最終的に73週とされる。失業率の高い州に住む長期失業者は削減措置の対象外となる。
それでも、失業保険の給付期間は通常の26週と比較するとはるかに長い。給付期間の削減の影響を受ける労働者の数は現段階でははっきりしていないが、労働者の権利擁護団体は同法案について、ゆっくりと段階的に給付を終了するよう設計されているとの見方を示した。