彼には敵わない
どうしてか、その瞳から逃れられない・・・・・・・・・・・・
また、朝がやってきた。
毎日朝がやって来る度、私は憂鬱な気持ちになる。
理由は分かってるわ。
・・・・・・・怖いのよ。
彼と会うのが。
彼の瞳に捕らえられるのが。
だって彼のその瞳は、私を決して離さないんだもの・・・・・・・・・・・・
「おはよう、ハーマイオニー!」
談話室に下りると、ロンから声を掛けられた。
「おはよう」
それに笑顔で私は応える。
・・・・・・・表面だけの笑顔で。
「今度の日曜さ、暇かな?」
照れたような笑顔を浮かべ聞いてくるロン。
それに、私は少し考えるような仕草をする。
「そうね・・・・・・・課題も特に出ていないし、たぶん大丈夫よ」
その答えに、ロンは嬉しそうに笑う。
つられて私も笑った。
「朝からデートの約束?」
後ろから聞こえてきたその声に、私は一瞬にして表情を固くした。
その独特の低みを帯びた声の持ち主が、私を憂鬱にさせる原因だった。
「ハリー、茶化すなよ!」
ロンが顔を真っ赤にして叫ぶ。
そしてハリーの元に走り寄って行く音が聞こえた。
でも私はハリーの方を見れず、依然としてその場を動けない。
「いや、朝から熱くて羨ましいなってね」
「何言ってんだよ、ハリーの方が何倍もモテルくせに。いい加減彼女つくったらどうなんだ?」
「別に興味ないし」
ロンの言葉をハリーは笑って軽く受け流す。
それに、ロンはもったいないなぁと付け足した。
「おはよう、ハーマイオニー」
ハリーがこっちを見て、笑顔でそう言う。
「お、おはようハリー・・・・・・」
私は彼の方を振り向いて、ぎこちない笑顔で返した。
ロンはいまだハリーの方を向いていて、そのぎこちない笑顔を見られずに済んだ。
「いいね、こんなに君を愛してくれる恋人がいてさ」
「ええ・・・・・・」
笑顔で向けるその瞳に耐えられず、私は視線を逸らした。
でも、彼の方はけして逸らさない。
「ハリー!だから茶化すなってば!!!」
ますます真っ赤にして叫ぶロンに、ハリーは笑いを漏らした。
彼の声が、姿が、存在が。
全てが私を刺激する。
「・・・・・ロン、早く大広間に行きましょ・・・・・・・・」
そう言って歩き始めた私に、ロンは返事をして慌てて追いかけてくる。
「あ、ハリーも来いよ!」
「いや、僕はもう少ししてから行くよ。恋人同志の邪魔しちゃ悪いしね」
それにロンが何かを言い返すやり取りが聞こえた。
既にハリーから私は見えないはずなのに、まだ彼の視線が突き刺さっているように感じる。
・・・・・・いつもこう。
彼の視線が、瞳が、私を捕らえて離さない。
・・・・・・・これじゃ、意味がないのよ。
あなたの視線に捕まったら、私は私でいられなくなると思って。
その瞳の虜になると思って。
だから逃げたのに。
・・・・・・・・・・・・・・・・・・・だから、ロンに逃げたのに・・・・・・・・・・・・・・・
「ハーマイオニー、大丈夫?」
「えっ?」
俯いていた私の視界に、突然ロンが入ってきた。
どうやら食事中にぼうっとしてしまっていたらしい。
「え、えぇ・・・・何でもないわ・・・」
そう言ってにっこり笑うけれども、ロンは訝しげな顔をする。
「とてもそうは見えないよ・・・・・・・顔色も悪いし・・・・」
いつも心配してくれるロン。
その彼に、ハリーの事を考えていたのを心の中で謝罪した。
・・・・・・・・・・ロンが、私の恋人なのよ。
そう自分に言い聞かせる。
ロンが、私の恋人。ハリーはただの親友。
これまで幾度も自分に言いかけてきた。
・・・・・・・・・でも、気が付くと私はあの視線に絡め取られている。
彼の、あの瞳に・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・
「寮に戻って、休んだらどう?今日は午前中自習らしいし・・・・・」
心配気に聞く彼に、私は弱々しく笑顔を返した。
「・・・・・・そうね。そうするわ」
今はロンの顔を見ているのが辛かった。
ロンからも逃げるように、その場を立ち去った。
ゆっくりとした足取りで寮への扉を潜る。
午後の授業まで休もうと、部屋への階段に足を掛けた時だった。
「あれ、もう戻ってきたの?」
その声にビクッと反応し、ゆっくりと振り返る。
そこには、入り口からは死角になる場所でソファに座って足を組んでいるハリーの姿があった。
「ハ・・・リー・・・・・」
それだけを言うのがやっとで、また身動きが取れなくなってしまう。
そんな私の様子を見ながら、彼が近付いてくる。
逃げなきゃいけない。
そう心では思うのに、一向に足は動かなかった。
「・・・・・ねぇ、何で僕から逃げるの?」
そう笑顔で言いながら、私との距離を縮めていく。
ごくん、と喉がなる。
あと1mという所まで来て、彼は止まった。
怯えた瞳を彼に向ける。
それにハリーは笑みをこぼし、不意に指で私の顎を固定して唇を寄せた。
「・・・!」
突然の事に驚きを隠せず、少しの間が空く。
彼は角度を変えて私の唇を貪るかのように何度も口付けた。
「・・・っ・・・・・んん・・・・・っふ・・・」
初めて感じるその気持ちのよさに、瞳がとろんとし始める。
彼のそのキスに流されそうになった時、頭の中にロンの顔が思い浮かんだ。
はっと現実に帰る。
「・・・・・っや!」
渾身の力を込めて彼を引き離した。
乱れた息遣いが二人を包む。
「やめて・・・・・・・・・・・私には、ロンがいるわ・・・・・・・・・・」
制服の胸の部分を掴み、私は呼吸を整えながら言葉を繋いだ。
「・・・・知ってるよ」
全く変わらない口調でハリーが答える。
そして、どこまでも人の心を見透かすようなあの笑顔をする。
「でも、君の心はそこにはないでしょ?」
そっと彼の手が伸ばされ、私の頬に触れた。
ぴくっと私の体が震える。
「もう一度聞くよ。・・・・・・・・・・どうして、逃げるの?」
囁くようなその言葉に、私の心が熱くなった。
・・・・・・・また、あの視線。
「君は、僕の気持ち知ってるんでしょ?」
やめて・・・・・・
その瞳で、私を見ないで・・・・・・・・・・・・
でないと・・・・・・・・・私・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・
「僕も君の気持ち、知ってるけどね・・・・・・・・・・」
これ以上、自分を誤魔化せない・・・・・・・・・・・・・・・・・・
潤んだ瞳で彼を見上げた。
ハリーはあの笑顔を向けて、私に手を差し出す。
そして、甘い声で囁いた。
「・・・・・・・・・おいで」
差し出されたその手を、私は拒めなかった
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そしてこの後裏話に入りつつ話が展開していきます。
ハリハー前提なんですが、ロンを含めて三角関係の暗いお話しです。
続きは本に収録となってます<(_ _)>