リハビリ後。
だいじょぶ? クオリティ大丈夫? ねぇ大丈夫?
参った、だなんて。
僕の負けだよ、だなんて。
そんな事を球磨川が何の意味も無く言うはずがないというか。
負けたなんて、相手をぬか喜びさせてからが球磨川の本領発揮であるというのに。
「……さて」
私の出番はすぐそこだ。
準備せねばなるまい。守りたいモノがあるのなら。
第伍拾柒記憶目
簡潔に述べよう。
球磨川は確かに降参した。
そして確かに、長者原融通はそれによって生徒会側の勝利であると判決した。
……だが、それだけだ。
その後に降りかかるのは、輝かしい勝利なんかではなく最凶の未来だ。
この天宮熾音からすれば、球磨川を知ってるにもかかわらず油断した善吉にも非はあるのだが、そう言ってしまうのは流石に酷だろう。なにせ彼のそういった平凡さこそが貴重と言っても過言ではないのだから。
……ただまぁやはり、球磨川自信が言っている通り。
球磨川とスポーツでもやっている気分で、相手が降参したからといって、その相手が突然いい事を言い始めたからといって。
私がされたように全身に巨大螺子をぶっ刺されてしまうのはどうかと思う。
しかもおまけに……
「あぁ、これはまずいな」
「……言えよ熾音くん」
「視力を、『なかったこと』にされたようだね」
せっかく勝利は得たというのに、ここに来て作戦を切り替えるとは。
もしくは初めからそのつもりだったのか。
おそらくはそうに違いない。元から負けることなど折込済みで、それよりも相手の心を折ってしまう事の方がこいつにとっては重要なのだろう。それだけ、後の勝負で勝ちやすくなるのだから。
……しかし。
傷をなかった事にしてしまうのはわかっていた事にしても、善吉の視力をなかった事にするとは。
なるほど、『大嘘憑き』というだけはある。
私が予知した未来さえ、このスキルの前では正確ではなくなってしまうのか。
だからあの時も――
「うっ、うわああああああああああああっ!」
「まずい……これはまずいぜ」
「お姉さま! マイナス無効化システムとやらはもう品切れなのですか!」
「黙れ黒神、名瀬ちゃんがそれくらい準備していないわけがないだろう」
「そうさ、システムは13まで用意してある……してあるが。目を瞑るってのを代表例としてみりゃわかるだろうが、俺の対策は基本的に自己暗示みてーなもんだからな。人吉がああして球磨川の恐怖を思い出しちまった以上、システムは反転してマイナスにしか働かねぇ」
せっかく痛めつけた球磨川が全快し、おまけに視力もなかったことにされ。
しかし目の前に迫る、どうしても感じてしまう『嫌な感じ』に、善吉は恐怖を感じてしまったのだ。
『見ない』と『見えない』とは、球磨川もよく言ったものである。
目を開けば見ることができる、という選択肢を無くしてしまった事は、善吉にとってもかなり大きな精神的ダメージとなってしまったのだろう。
「つーか聞いてねえんだよ。なんだよ、『すべてをなかったことにする「大嘘憑き」』って!」
「熾音くんは気付かなかったの? 戦ったんでしょう?」
「残念ながら人吉瞳、私は万能ではない。そして、わかったのは普通にやっても倒せないという事だけだ。回復能力以外は見ていないよ」
少なくとも、私はそれを見るに至れなかった。
気持ち悪くて触れたくもない相手に、ただただ機械的に予知を使って攻撃を行っていただけだ。
治癒のようなナニカとしか報告できなかったが、思えばそれで予知にノイズが発生するはずがなかったのだ。スキルを複数所持していて、回復能力の他にスキルを持っているのではくらいしか予想できなかったのだ。
こればかりは、私も名瀬ちゃんに謝罪したい。
こうしている間にも善吉と球磨川の戦いにすらならない戦いは続く。
恐怖を思い出した善吉は、目に頼らずとも戦えるようになったというのに、恐怖のために攻撃を当てることができず。
球磨川も別に畳み掛けるように攻撃を仕掛けるなんて事はしない。ただただ善吉の攻撃をすかして、言葉によって精神的に攻め立てていくだけだ。
名瀬ちゃんの善吉を奮い立たせようとする言葉にも、更に不安になるようなことを言ってくる。
本当に嫌な奴だ。名瀬ちゃんに対してそういう事言うな本当に。
しかも球磨川は、『善吉の視力をなかった事にした』事をなかった事にするなんていう事まで言っている。それについ希望を抱いてしまった善吉を嘲ったり、今度は仲直りなんて事を持ちかけていい友達になれる、だなんて。
やはりこいつは、話し合うだけ無駄という奴だ。
しかしだ。
さすが名瀬ちゃんも認め、私も少しは認めている善吉。あの化物な黒神めだかと共にいる善吉である。
「……球磨川。俺はお前が嫌いだ。だから、友達にはなれない」
善吉は、キッパリと拒絶の言葉を言ってみせた。
あの球磨川に心を折られてしまっても尚、そこに伸ばされた手を拒絶できたのだ。
異常である私のような者から見ても、賞賛に値する精神であると言っていいだろう。
そして、立ち上がった善吉は言った。
「めだかちゃん! 楽しい高校生活だったなあ!
――入学式! 新入生代表の挨拶でお前はいきなりぶちかましてくれたなよなあ! 日之影先輩とも実は最初はモメてたしな!
――そうそうたる先輩方を向こうに回しての生徒会選挙! ありゃあ燃えたぜ懐かしい!
――目安箱を設置してからは休む暇もなかった! 一学期だけで百件以上は悩みを解決したか? 花の世話を全部俺に押しつけやがって!
――阿久根先輩との柔道対決! 喜界島との水泳対決! 敵だったあいつらが今じゃ一番頼れる仲間だ!
――風紀委員会との抗争! 時計台地下の視察! 忘れようもないほど大変だった!
いろいろあったけど、今となっては全部いい思い出だ」
「何を言っておるのだ善吉……やめろ。言うな。そんな今わの際みたいなこと、言うなぁっ!!」
死亡フラグめいたそれらの台詞は、果たして問う必要もないほどに意図は見えている。
それに最後の言葉は、私にとっても琴線に触れる。
「好きだぜ。めだかちゃん」
そんな事を言っている善吉に、球磨川がいつまでも時間をやるはずもなく。
そして螺子を持って躍りかかった球磨川へと、善吉がカウンターの拳を食らわせた。
一時的に、決意によって恐怖を取り除いたか。
しかし根付いている恐怖はそうそう消え去るものではない。見る間に震えを取り戻す。
「『嘘……』『見えないはずなのに……』」
「見えなくても戦えるよう一週間――名瀬先輩たちと一緒にがんばったんだ。お前は俺の努力まで! なかったことにはできねぇよ!」
そうとも。
せっかく私と名瀬ちゃんが貴重な時間を使ってやったんだ。
それまでなかった事になんて、さすがにできはしないだろう?
「とはいえ身体はまだお前にビビってる! 心底お前にブルってる。だがそれならそれで戦いようはあるぜ。マイナス無効化システムその13!」
最後、13番目のマイナス無効化システム。
それはまさに相手がマイナスだからこそのシステム。
震えるほどに嫌な相手でなければそうそう意味なんてないシステム。
「身体の震えが止まらないなら! もっと激しく震えるまでだ!」
「『!?』『震脚っ……!?』」
私はそれを見たことがある。
確かに記憶しているぞ。宗像との戦いでお前が見せた震脚を。
天井にまで伝わり、そこに突き刺さった武器を落として見せるほどの威力だったそれを、そんな振動を与えれば下に落ちていく足場で使えばどうなるか。
まぁ、全ては覚悟の上だろうけど。
「『……! 震脚の影響でっ』『リングが……一気に底まで……』」
ギャリギャリと音を立てて底へと落ちた善吉と球磨川。
当然底に落ちてしまえば、溜まっていた大量のハブが二人へと襲いかかる。
流石の球磨川も、ハブの出血毒が大量に注入されればひとたまりもないだろうが……しかし。
「『そうしかし!』『僕には「大嘘憑き」という欠点がある!』」
両手に螺子を持った球磨川はそんな事を言った。
おそらくは大嘘憑きで噛まれた事もなかった事もしようという事だろう。
「その欠点なら、俺がカバーしよう」
そんな球磨川を止めるべく、善吉が球磨川の腕を掴んだ。
大嘘憑きを使わせないように、とそう考えての行動だろう。
「友達にはなれないけど、せめて一緒に死んでやるよ。一緒に地獄を見に行こうぜ球磨川先輩!」
「『…………』『嫌だよ』『死にたくない』『謝るから離して』『僕が悪かった』」
「ははっ。お前の口からそんな言葉を聞くとはな。とてもじゃねえが、信じられねえよ」
二人は蛇に噛まれながら埋もれていった。
アレでは両者共に、生きていることは困難だろう。
かくして生徒会戦挙第一回戦、庶務戦の幕は下りた。
===
決着後。
黒神めだかの暴走やら、球磨川の復活やら、何故か視力を取り戻した状態での善吉の復活等。
色々あったが、後々響く問題が残っていないあたり、勝利を収められたというのは大きいだろう。
……ふむ。
「どうしたの熾音くん?」
「いや、羨ましいと思っただけだ」
「羨ましい?」
少し考えるような素振りをして、熾音は言った。
その顔には明るすぎるほどの笑顔が浮かんでいる。
「あの目。面白い力があるみたいだからね。名瀬ちゃんと視界を共有できるだなんて全く持って羨ましい。まぁ名瀬ちゃんに使ったらコロスけどね」
「ぶ、物騒だよ、熾音くん? というか、共有?」
「……そのうちわかるよ」
しかしどうやら。
球磨川という男が、というかマイナスという奴らが。
我々にそう安々と勝利なんてものをくれるはずがなかったわけだ。
「痛い一勝になったものだな」
「ま、これくらいなら予想の範囲内だろ」
「二人とも冷静過ぎじゃない?」
「これくらいが普通だろう。なにせ――」
「俺たちは生徒会役員じゃねーんだしな」
3人で、生徒会室から出た道すがら会話する。
……あぁ、未来を見なければならない状況というのは嫌なものだ。
せめて、あと少しくらいは会話というものを楽しみたいのに。
「どうした、熾音くん?」
「……ううん。なんでもないさ。それより、前を見たほうがいい」
できれば見たくも無い相手が、きっとそこには立っている。
あとがき
小難しい言葉を使っても面倒なので簡単に書きなおす。
進むべき道筋が未来だとすると、大嘘憑きのせいで未来が変わって面倒になことになる。
とりあえずこの二次創作ではそういう設定で。
熾音「え? 委員長はパンツ一丁だって? 仕方ないなぁ。でも私は名瀬ちゃんにパンツを見せることになんら恥ずかしさを感じない!」
古賀「いや、才媛なんだから女の子だけだろうし、まずパンツだけになれなんて誰も言ってないし、だいたいにしてまだそこまで話が進んでないよね?」
アニメ化の暁には伝統と実績のガイナ立ちが存分に見れそうですね。めだかちゃんだし。
ランキングの方も頼むよ。名瀬ちゃんのために!
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