アトピー性皮膚炎のステロイド治療について

ALBERT M.KLIGMAN/ステロイド嗜癖(しへき)
藤澤重樹/プロトピクス軟膏0.1%(タムロリムス水和物軟膏)について
安保 徹/アトピー性皮膚炎患者のためのステロイド離脱(1)
安保 徹/アトピー性皮膚炎患者のためのステロイド離脱(2)
安保 徹/アトピー性皮膚炎患者のためのステロイド離脱(3)
佐藤健二/「成人型アトピー性皮膚炎」の治療上の工夫
安保 徹/再び、胃潰瘍、アトピー性皮膚炎、慢性関節リウマチについて(前編)
安保 徹/再び、胃潰瘍、アトピー性皮膚炎、慢性関節リウマチについて(後編)
深谷元継/アトピー性皮膚炎の脱ステロイドは「療法」ではなく、副作用報告である
佐藤健二/成人型アトピー性皮膚炎の治療
安保 徹/くらしの手帖「私たちはこの本に反対です」に対する私の主張




アトピー性皮膚炎患者のためのステロイド離脱(3)


●ステロイド離脱の実際
重傷アトピー性皮膚炎患者の実際のデータを示した(表1)。 新潟県新発田市二王寺温泉病院福田稔氏による。 この89名は、すべて他の病院でステロイド療法を受けステロイド依存を来した症例である。

(表1)健康者とアトピー性皮膚炎患者での白血球分画の比較


ステロイド使用によって激しい免疫抑制状態になっている。つまり、リンパ球の低下と顆粒球増加のパターンになっている。ステロイドを使用した患者はそもそも免疫抑制状態になっているので、免疫抑制剤の外用薬を使うとさらに病状は深刻化していく。  ここでステロイド離脱を始めると、さらにこの免疫系の低下傾向が強くなっているのがこの表でわかる。白血球パターンの悪化がすごい。これがアトピー性皮膚炎の悪化、リバウンド反応(withdrawal syndrome)の実体である。ステロイド切れの状態である。出す症状はすべて交感神経緊張症状といえる。具体的には、皮膚を含めた全身性の顆粒球の炎症と激しい血流障害である。


(図6)


1ヶ月ないし2ヶ月の後に離脱に成功しているが、リンパ球の上昇と顆粒球の減少が来て、健康者と同じような白血球パターンに戻っている。  ステロイドの使用期間が長い患者は、リバウンド反応も強く来るし、離脱期間も長くなる。 濃とともに酸化コレステロールが体外に排出されていく。もっとも、あまりにも免疫系がやられているとリバウンドの力さえ弱ってくる。  ここではリバウンド反応の症状を軽減するために井穴刺絡療法を行っているが、それでもこの悪化には耐えられないといってあきらめる患者が3%くらいはでる。 しかし、いつでも戻ってきてほしい。  ステロイド離脱の後は、乾布マサツや屋外での運動で副交感神経優位の体調にならないようにする。多少、発疹が出てもすぐおさまる。 もう、ステロイド切れのようなひどさはない。(図6)  小さな子どものステロイドを塗ると成長抑制さえくる。 離脱によって、一時的にリバウンドによる細菌感染などもでるが、その後アトピー性皮膚炎がよくなるだけではなく身長もぐんぐん伸びだす。明るい笑顔も戻る。

 『ステロイド依存ーステロイドをやめたいアトピー性皮膚炎患者のために』 という著書を著した深谷元継氏(国立名古屋病院皮膚科)のデータを紹介したい(図7)。 2つの図を出しているが、上図はステロイド離脱に反対するある大学教授の図という。しかし、深谷氏は下図の経過を辿ることが多いと述べている5)。  深谷氏のいうとおりである。離脱に成功したことのない医師はリバウンドの反応に恐れをなし、上図のような経過をとるものと思い込んでいる。先に進めない。悲しいかな、またステロイドを処方してしまう。  しかし、リバウンド反応の間に、酸化したステロイドホルモンは徐々に体外に排出され、ついには下図のような経過をとるのである。 いずれにせよ、リバウンドの苦しみを味わせたのはアトピー性皮膚炎にステロイド外用剤を使うということをしてしまったためなのである。
(図6)

上図はある大学教授による「リバウンドの本体」の説明、実際には下図のような経過を辿ることが多い(「ステロイド依存−ステロイドを止めたいアトピー性皮膚炎患者のために」深谷元継著より)

深谷氏の本から文章の一部を抜粋して(2ヶ所)紹介する。  ・・・アトピー性皮膚炎に関して、皮膚科医は裸の王様になってしまった。多くの患者たちはもはや皮膚科医のもとを訪れない。そして情報不足の中、患者たちは孤独で不安な離脱へと踏み切る。・・・  ・・・「二度目三度目のリバウンド」に見舞われた患者は疲れはて、二度と行くまいと決心していたはずの皮膚科医のもとを訪れる。開業医だけではなく、大学病院とかやや大きな病院のことが多い。時には無理矢理家族にひっぱられて行く。そして「ステロイドを中止すればこうなるのは当然だ」式の型通りのお叱りを受け入院させてもらいステロイドの再投与を受ける。しかし、大抵は心底納得しているわけではないから、少し良くなると脱走同然に退院し、再び離脱を試みる。まあ、そんなことを繰り返しているうちにも、何とか離脱できる人も結構いる。使ったり使わなかったりだから「徐々に離脱」ということになるのだろうか?・・・  ステロイド依存症の行く先を考えればどんなに苦労しても離脱できた人は幸せである。最期は命にかかわるからである。  これまでアトピー性皮膚炎患者をステロイド外用薬で治療してきた多くの医師も好き好んでこの薬を処方してきたわけではないと思う。ステロイドの副作用に対する認識の少なさやステロイド離脱の方法がわからないためにしかたなく処方してきたのが実際だと思う。  ぜひこの論文で上記した2つのことやこの病気の発症の真のメカニズムを理解して、積極的にステロイドを使用しない方向に進んでほしいと思う。  しかし一部であるが次に示すような考えに固執する医師も残るかもしれない。実際、経験している。  「ステロイド外用薬は正しい使い方をすれば問題は起きない」「不安を感じて、民間療法などで離脱などをためすので悪化する。これを支持するマスコミも悪い」  このような医師に会ってみると、まじめで勉強熱心で、問題を起こすこと、問題に巻き込まれることを極度に嫌う人のように思う。  多分、大学や病院で先輩から学んだことに問題点がない場合は、上記した医者は本当によい医療活動を行うであろうし、現在も多くの部分では患者を救っていることであろう。  しかし、医学は未熟で問題点も多い。特に、ステロイドの副作用に関しては、私の説が提示されるまでは多くの点を矛盾なく理解する理論がなかったと思う。  このような時に、あまりにも現代医学に信頼を置いた医師は、現在ある治療に疑問をもつこともなく、現実から目を背けて生きることになるのではないか。


●おわりに
アトピー性皮膚炎にステロイド外用薬を処方する人達に少し過激な言葉を述べたが、理解さえしてもらえれば怒る必要もないし、がっかりする必要もない。偶然この病気の治療法に問題があっただけで、他の病気の治療法まで否定しているわけではないからである。  私の仲間の川田信昭氏(福島県喜多方市有隣病院産婦人科)は3年くらいの猶予期間を置いてこの問題を解決していくことを提案している。つまり、ここ3年間は患者にステロイドを使うか使わないかを選択してもらい、その反応に従って医者の側でも患者の希望に答えることにするというものである。これなら医師の側でも徐々に離脱などの手法を学べるというのである。  多くの医師がアトピー性皮膚炎から患者を救おうといろいろな努力をしているが、ステロイド使用と併行して行ってはすべての努力が無となる。しかし、ステロイドの離脱後に、乾布マサツ、屋外運動、部屋の換気(有機溶剤を出す)、ハウスダストの除去、食事の注意(肥満の改善、甘い物のとり過ぎをなくすなど)などを行うと、その効果が面白いほど表れてくる。


参考文献─────────────────────────────────────────
  1)Kawamura,et al.:Neonatal granulocytosis is a postpartum event which is seen in
    the liver as well as in the blood .Hepatology ,26:1567-1572,1997.
  2)安保徹:「未来免疫学−あなたは顆粒型人間かリンパ球人間か」インターメディカル,1997
  3)Toyabe,et al.:I dentification of nicotinic acetylcholine receptors on lymphocytes
    in periphery as well as thymus in mice .Immunology, 92:201-205,1997
  4)Maruyama ,et al.:Administration of glucocorticoids markedly increases the num-
    bers of granulocytes and extrathymic T cells in the bone marrow .Cell Immunol,
    194:28-35,1999
  5)深谷元継:ステロイド依存−ステロイドを止めたいアトピー性皮膚炎患者のために.柘植書房新社,1999.
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安保先生の了解を得て、「治療、Vol.82,No.6、(2000・6)」より転載しました。

(アトピー・ステロイド情報 第46号より)







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