アトピー性皮膚炎のステロイド治療について

ALBERT M.KLIGMAN/ステロイド嗜癖(しへき)
藤澤重樹/プロトピクス軟膏0.1%(タムロリムス水和物軟膏)について
安保 徹/アトピー性皮膚炎患者のためのステロイド離脱(1)
安保 徹/アトピー性皮膚炎患者のためのステロイド離脱(2)
安保 徹/アトピー性皮膚炎患者のためのステロイド離脱(3)
佐藤健二/「成人型アトピー性皮膚炎」の治療上の工夫
安保 徹/再び、胃潰瘍、アトピー性皮膚炎、慢性関節リウマチについて(前編)
安保 徹/再び、胃潰瘍、アトピー性皮膚炎、慢性関節リウマチについて(後編)
深谷元継/アトピー性皮膚炎の脱ステロイドは「療法」ではなく、副作用報告である
佐藤健二/成人型アトピー性皮膚炎の治療
安保 徹/くらしの手帖「私たちはこの本に反対です」に対する私の主張




アトピー性皮膚炎患者のためのステロイド離脱(1)
新潟大学医学部医動物学教授 安保 徹

はじめに
 これまでアトピー性皮膚炎の発症機序を明確にした仕事はなかった。また、アトピー性皮膚炎患者にステロイド外用剤を使用することがどのような意味を持ち、なぜ、多くの患者がステロイド依存症に進展していくのかを明らかにした仕事はなかった。  著者らのここ5年間の研究によって、この2つの問題を明らかにできたと思う。そうして、アトピー性皮膚炎の治療が可能になった。本論文では上記したすべての機序を明らかにし、さらにアトピー性皮膚炎の治療法を紹介する。  また、すでにステロイド依存症になりステロイドの外用剤なしには炎症をコントロールできなくなっている人もいる。このような人はこのままだと、さらにステロイドの増量を強いられ、最後には命にかかわる。そこで、ステロイドの離脱の実際をも紹介する。  ステロイドホルモンやその外用剤が広く臨床に使われるようになって40〜50年の歳月を経ている。ステロイドホルモンを使用するいずれの疾患でも、使用の早期には著しい治療効果を表したかに見える。しかし、その後経過とともに、疾患のコントロールができなくなり、増量を強いられステロイド依存症に移行することが多い。アトピー性皮膚炎もこの例外ではない。  医療現場はステロイドホルモン使用の推進派と否定派と相半ばしているように思われる。また中間派もいて、現状維持でステロイド外用剤を処方し続けている。このような場合、そのうち患者の方が不安になって医者を変えて、変えた先ではステロイドを増量してその場をしのぐ。しかし、数ヶ所と病院を変えているうちに深みにはまっていくか、患者の方が危険を察知して独力でステロイド離脱するかの道をたどることが多い。  このような「医師側に主体性がない」理由は、アトピー性皮膚炎の発症や治療に統一概念がなかったためである。多くの医師がこの論文を読み、そして治療法を実践することにより患者が救われていく。


●なぜアトピー性皮膚炎が子どもに多く起こるのか
 出生時の肺呼吸開始の酸素ストレスによって、新生児は交感神経緊張状態になり、交感神経支配下にある顆粒球が激しく増加する(図1)。これは出生後数日でおさまり、その後子ども時代に特有なリンパ球優位のパターンに入る1)。つまり、副交感神経優位の体調であり、成長のエネルギーを吸収できる体調といえる。


このようなリンパ球優位の体調は15〜20歳くらいまで続くが、食糧事情や生活パターンの改善によってこの年齢が上昇する傾向がある2)。日本では戦後の貧しい時代から今日の豊かな時代への間に、この年齢が大幅に上昇している。 アトピー性皮膚炎や気管支喘息などの子どものアレルギー疾患が今日の日本で増え続けているのは、このリンパ球優位の体調が拡大し続けていることが基本にある。しかしいずれにせよ、リンパ球優位時代が終わるにつれて、子どものアレルギー疾患も自然に治癒していく理由はこの図の中に表れているのである。  しかし、これから述べる理由によって今日の日本では、この子どものアレルギー疾患の自然治癒反応が妨げられる傾向にある。ステロイドホルモンを使用した場合である。これから述べるように、ステロイドホルモンは人にそなわった自然治癒力を完全に奪う力をもっている。これが青年期に入ってもアトピー性皮膚炎が治らず難治化していく理由となっている。


●アレルギー疾患を引き起こす原因と直接の誘引
子ども時代はリンパ球優位の状態であるが、この体調がさらに片寄って過剰状態になるとアレルギー疾患を引き起こす(図2上段)。リンパ球は副交感神経支配下にあるので、副交感神経を優位にする体調である3)。自律神経はエネルギー系と連動していて、エネルギーを蓄積するあるいは生体が酸素を奪われ還元状態に入ることで副交感神経が刺激される。交感神経がエネルギーを消費したり生体が酸素をとり入れて酸化状態に入ることで活性化するのと対比できる。  図に示したように、排気ガスの吸入は生体を副交感神経優位の体調にする。 CO2+O−→CO3−やNO2+Oー+NO3ーの反応で示される。つまり、排気ガスは肺から吸入され、体液に溶け酸素を奪いリンパ球増多を誘導する。

(図2)アレルギーを引き起こす原因と直接の誘因
運動不足や肥満も次に挙げられる。過剰リラックスの体調ともいえる。過保護も過剰リラックスであり、エネルギーの消費が少ないために副交感神経優位の体調となる。  有機溶剤がアレルギー体質をつくるのは、ベンゼン環の測鎖が酸素を奪う力を持っているからである。具体的には新建材に使われている接着剤が有機溶剤を揮発させ、これを吸入してリンパ球過剰状態の体調がつくられていく。  アレルギー体質はそもそもリンパ球が長く長寿命のための体質であるが、1〜4の原因でリンパ球過剰を招きやすい体質といえる。  しかし、1〜5によってリンパ球過剰になってもすぐにアレルギー疾患が引き起こされるわけではない。リンパ球が過剰になっていろいろな抗原と反応してimmune complex(免疫複合体)が形成されても、血流や分泌現象が保たれている場合は発症に至らない。immune complex が組織局所に停滞しないからである。そもそも副交感神経は血流促進や分泌反応と連動している。  次に示す誘引が起こって血流障害や分泌抑制がきた時にアレルギー疾患が発症する(図2下段)。ここに示したように、1)の具体的ストレスや心の悩みが直接の誘因となる。1)よりはるかに少ないが、抗原が多すぎることも発症の誘因となる  アトピー性皮膚炎の炎症はimmune complex や落屑や分泌によって体外に出そうとする反応で、ある意味では生体が治癒しようとしている反射である。したがって、直接この炎症を抑える治療はすべて逆効果となる。これがアトピー性皮膚炎の治療で大切なところである。  したがって治療指針はまず、1)ストレスや抗原から逃れることである。その次の2)は副交感神経優位の体質を改善することである。  具体的には、図2上段の1〜4と逆のことを行う。乾布マサツ、野外での運動、甘い物をとらないなどは特に治療効果が高い


●ステロイド外用剤はアトピー性皮膚炎を悪化させていく
 そもそも、ステロイドホルモンは他の性ホルモンやビタミンDなどと同様にコレステロールから合成される。つまりコレステロール骨格をもつグループである。新鮮なステロイドホルモンは側鎖のほとんどが酸素フリー(oxygen-free)で極限ともいってよい抗炎症作用を示す(図3)。そして生体内で次第に酸化を受けていく。 酸化レベルのまだ低いステロイドホルモンは17-OHCSなどとして尿から排出される。しかし、酸化レベルが高くなると通常のコレステロールと同様、胆汁酸として肝から腸へ排泄される。
コレステロールが生体内に停滞し、加齢とともに動脈硬化を引き起こすことでもわかるように、過剰に生じた酸化コレステロールの排泄はいつでも困難さを伴う。 特に、外用薬として生理的濃度を超えて体内に入ったステロイドホルモンは、組織に停滞し酸化コレステロールに変成していく。

(図3)ステロイドの代謝と組織沈着
酸化物質は組織を交感神経緊張状態にし、血流のうっ滞(peripheral circulation failure) と顆粒球増多をまねく。  顆粒球は組織に浸潤しすき間のない炎症を引き起こすに至る。これがアトピー性皮膚炎から酸化コレステロール皮膚炎への移行である。この移行はステロイド外用剤を使用し始めてから数ヶ月から数年で引き起こされる。  このような酸化コレステロール皮膚炎を静めるために、もしステロイド外用剤を使用するとすれば、前よりも多量の外用薬を使用しなければならなくなる。これが患者や医者がいつも経験しているステロイド使用時のステロイド剤増量のメカニズムである。『ステロイド依存症』 のメカニズムである。  減量どころか、増量せずには変成した酸化コレステロールを中和できないのである。そして、それも一時的なことである。全身投与よりも局所投与の方が副腎機能低下を招きにくいが、局所投与には組織沈着による酸化コレステロールへの変成という別の困難さがある。  このようなステロイド依存がくると、酸化コレステロールの反応により炎症性サイトカインがストレスによって多量に放出されるようになり、独特の炎症像がつくられていく。 元のアトピー性皮膚炎とは異なり、ステロイドを塗った場所に特異的にすき間のない炎症が出現してくる。全身反応なので、ステロイドを塗らない場所にさえ広がる。ステロイドが切れた時にである。  誤解のないために言うが、痒くて掻いたから炎症が出たのではなく、ステロイドが切れたために一瞬にして炎症が引き起こされ痒くなるのである。  酸化コレステロールは交感神経緊張状態をつくり、これはついには不安感、絶望感、うつ状態などの精神的破綻をも引き起こすに至る。このような子どもを見る両親の心の苦悩はいかばかりであろうか。ステロイドの長期使用は家族のすべての人を苦しめることになる。  交感神経緊張は元気が出る体調であるが、あまり長く持続するといつも疲れているなどの体調に加えて上記したような精神状態になる。


→アトピー性皮膚炎患者のためのステロイド離脱(2)




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