縮小し続けるボウリング市場、栄光の時代はよみがえるか?
Business Media 誠 2月17日(金)12時51分配信
ラウンドワン公式Webサイト。「若者がボウリングに参加する上で、ラウンドワンは大きな役割を果たしてきた」と中里さんは話す |
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1960年代に日本に本格的に入ってきたボウリングは、中山律子さんを始めとするアイドル的人気女性ボウラーたちの出現もあって、一躍、国民的人気スポーツになったものの、後が続かず急速に低迷。
スコアボードのコンピュータ化などによって一時的に持ち直したこともあったとはいえ、最盛期に3600カ所に達したボウリング場も、今では日本全国トータルで923カ所にまで減少し、現在でも年平均10カ所のペースで閉鎖が続いている。
グラフ「ボウリング参加人口の推移」、ほか:(http://bizmakoto.jp/makoto/articles/1202/17/news010.html)
そこで、今回はこのような厳しい経営環境のもと、業界団体である日本ボウリング場協会のトップとして、そして相模原パークレーンズの2代目経営者として、状況の好転に向けて努力を続けている中里則彦さん(53歳)に、業界低迷の要因や、そこからの脱却策についてお話をうかがった。
●このままでは衰亡しかねない厳しい業界環境
子どものころはプロボウラーを志し、玉川大学を卒業すると同時に、父親が経営する相模原パークレーンズに就職し、1997年に社長就任。まさに業界一筋の人生を歩んできた中里さんは、誰よりもボウリングを愛するがゆえに、その危機感も人一倍強烈だ。
「レジャー白書によると、2009年から2010年にかけての1年間だけで、日本のボウリング人口は2210万人から1780万人にまで落ち込んだんです。この勢いで減り続けたら、業界は衰亡しかねません。
ボウリング場の顧客層は、常連客を主力とする“競技ボウラー”と、レジャーとして楽しむ“一般ボウラー”に大別されます。その中でも特に一般ボウラーの減少が著しいですが、競技ボウラーも来場頻度が徐々に低下してきており事態は深刻です。
首都圏のセンター(ボウリング場)はそれでも比較的善戦していますが、長期不況の直撃を受けている地方都市のセンターは、経営的に厳しい状況に置かれているところが少なくありません」
日本のボウリング業界は、ラウンドワンがマーケットシェアの30%以上(売上ベース)を占める一方、残り70%弱を全国の中小規模のボウリング場が分け合うという構造になっている。
テレビCMなどメディアを活用しているラウンドワンは、売り上げの実に9割を一般ボウラーが占めているが、そのほかの地域密着型の中小ボウリング場では売り上げの半分以上を競技ボウラーが占めているという。
「1センター当たり100人程度の常連客がいると仮定すると、全国に約900センターありますから、日本全国の常連客は約9万人となります。つまり、日本全国に約1800万人いるボウラーの中の、たった0.5%の顧客が中小ボウリング場の売り上げの半数以上を占めているという構造になってしまっているのです。
しかも、その0.5%の常連さんたちの来場頻度も低下してきているわけですから、我々としても、こうした構造を何とか変革して、業界としてのサバイバルを図っていくことが差し迫った課題となっているのです」
●新規顧客開拓に効果的な意外な方策とは?
こうした苛酷な環境にどのように対応していけばよいかを考えるに当たっては、「新規顧客開拓(一見客数の拡大)」とその「定着化(常連化)」という2つの段階に分けて考えるのが良さそうだ。
その第1段階としての新規顧客開拓に関しては、「やりようによっては、かなりのことができる」と中里さんは断言する。それもレトロでアナログな2つの手法が意外なまでに効果的だという。
「1つ目は私が相模原パークレーンズに入社したころやった方法なので、今、それと同じことをして、果たしてその通りうまく行くかは分かりませんが……。私が入社した当時は、ブームが去った後で、客足も遠のき、時には怖い筋の方々がいらして胸倉をつかまれるようなこともありました。そんな状況でしたから、館内は汚れ傷んで、まるでお化け屋敷のようでした(笑)。
そこで、私は壁面などのペンキ塗りを1人で始めたのです。何年もの間、毎日毎日塗り続けたのですが、館内がキレイになりデザイン性が高まっていくのに正比例して、お客さんの数が増えていったんですよ」
その結果、当時、神奈川県内で売上最下位だった相模原パークレーンズは県内トップにまで上り詰め、全国のボウリング場の経営者たちが視察に訪れるまでになったという。
「2つ目は初心に返り、2011年から取り組み始めたことなのですが、相模原パークレーンズとして、割引券の地元へのポスティングに力を入れています。私が先頭に立って半年間で12万枚をポスティングした結果、その割引券を持参して毎月1500人近い方々が来館し、しかもその95%が新規のお客さんなのです」
こうした努力の甲斐あってか、経営不振に苦しむボウリング場が多い中にあって、相模原パークレーンズは年間売上3億3000万円、経常利益率は15%前後という好成績を達成している。
悪化の一途をたどる経営環境の中で決め手となった起死回生策が、ペンキ塗りを通じた館内美化、あるいは業者に依存せず自らの手で行う地元でのポスティングだったという点は注目に値しよう。このままでは絶体絶命という時、一発逆転のイノベーションを指向しがちだ。それは大事なことであるが、それ以前にまずはサービス業としての初心に立ち返って、基本をしっかり押さえてみることが意外なまでの効果を発揮することがあるというのも事実なのだ。
●カギを握るのは、新規顧客の定着化
こうして新規顧客(一見客)数の拡大に成功したとして、それを固定客として定着させることができるかどうか。それができなければ業績の安定的回復は難しいのだが、現在のボウリング業界の困難は、まさにここにあるようだ。
これはすべてのサービス業に共通することだが、常連客と店のスタッフは付き合いの長さを反映して会話も多く、両者の間には独特の空気が醸成され、それがその店の雰囲気に大きな影響を与えている。しかしそれが行き過ぎると、常連客にはすり寄り笑顔を振りまくが、一見客に対しては笑顔もなければ声もかけないという明確な“差別待遇”が顕在化することになる。一見客は、疎外感を味わいながら、みじめな気分で店をあとにし、2度とその店に来ることはないし、その不快な気分を多数の友人や知人に伝えることとなる。
こうした状況を悲しい光景として「あってはならない」と主張しているのが、人気ラーメンチェーンの博多一風堂・河原成美社長だ(「ラーメン界をリードしてきた男は何を作ってきたのか? 『博多 一風堂』河原成美物語」)。河原さんは「常連・一見、有名・無名を問わず、お客さんはみんなが平等に扱われるべきであり、来店後にアンチになるお客さんがいるとすれば、それは100%店側の責任だ」と言い切る。
こうした「常連客にも一見客にも平等な接客」をどう実現するかは、ボウリング業界においても重要な経営課題である。そして、「業界だけでなく、好調な経営を維持する相模原パークレーンズにおいても同様に重要課題だ」と中里さんは言う。
「常連のお客さんは勝手が分かっているのでスタッフとの会話も自然に生まれますが、初めて来るお客さんは知り合いがいないし、勝手も分からず不安で孤独です。だからこそ、当センターとしても、笑顔で積極的に声掛けを励行するよう全スタッフを教育しているのです」
しかし、簡単なことにも見える笑顔&声掛けが実は「言うは易く行うは難し」で、なかなか実現しないのだと中里さんは嘆息する。
●「檻から出ろ」と言っても出にくい現実
「時代認識として、ボウリング業界もコンピュータ・ボウリング導入などに代表されるハード志向の時代は一段落し、今や明らかにソフト志向の時代になっています。それは言い換えれば“待つ商売からの脱却”ということです。お客さんに対するホスピタリティ・レベルを上げていくべき時代だということです。
ところが当センターも含め、日本の大多数のボウリング場は昭和40年代に作られたもので、そこにいる経営者や正社員も総じて高齢化しています。そうしたこともあって、ボウリング業界の良かった時代のやり方がしみ付いてしまっていて、プライドもあるでしょうし、現代の経営環境に即したやり方に自らを変えていくことが難しいのです。
それだけではありません。景気の良い時は一般ボウラーにも目が向きやすいのですが、今のような長期不況下にあっては、どうしても売り上げの中心をなしている競技ボウラーにばかり目が行きがちになるのも事実です。
また、せっかく現代的なホスピタリティ・センスを身につけた若い人が入社してくれても、“朱に交われば赤くなる”で、いつの間にか古いやり方に染まってしまいがちなのですよ。
私は毎日口をすっぱくして『檻(おり)から出ろ!』と言い続けています(笑)。フロントの中に閉じこもっているだけで仕事をしたつもりになっているけれどもそれではダメで、積極的にフロントを出て、お客さんと触れ合えとハッパをかけているのですが、まだまだ十分とは言えません。そのため、積極的に話しかけてくる常連さんたちとのコミュニケーションはあっても、一見さんなど新規顧客のみなさんへの対応が不足しがちになるんです」
では、新規に来場されたお客さん1人1人に対して笑顔で声を掛けるとして、どんなタイミングで、どんな点に気を付けて行うのが効果的なのか? それに対する中里さんの答えは明確だ。
「お客さんがストライクやスペアを取れた時にハイタッチしてあげたり、あるいはどうすればスペアを取りやすいかを具体的にアドバイスしてあげたりするのも効果的です。一般ボウラーのお客さんでも『うまくなりたい』という気持ちは一緒ですから、結果が出ればうれしいし、『また来よう!』という気持ちになって、次第に定着していくものなのです。
また、マイボウルを持参されている場合にはそれを持ってあげて、先に階段を上って玄関までお送りするとかも大事ですね」
こうしたことがキチンとできるホスピタリティ・レベルの高い一部のボウリング場は、ラウンドワンを始め、いずれも顧客からの支持が高いそうだが、それは当然のことだろう。いかにして、それを業界全体に浸透させていくかだ。
●日本のボウリング業界に明日はあるのか?
年々縮小を続けるボウリング業界にあって、「新規顧客開拓→定着化プロセス」の方法とそれを実現する上での課題については分かった。
それでは5年、10年という中長期的な展望に立った場合、日本のボウリング業界は生き残っていくことは可能なのだろうか? 仮にそれが可能だとして、では今後どういう方策を採るべきなのだろうか?
「先ほども申し上げましたが、日本の大多数のボウリング場は昭和40年代ころに建設されたものですので、遠からず建て替えの時期を迎えます。その時に、莫大な設備投資をしてまで、またボウリング場を作ろうという人が果たしてどれだけいるだろうかという点が非常に懸念されます。業界が現状のまま推移するならば、建て替え時にボウリング場を作っても回収できないということで、ほかの業態に転換するところが多く現れるでしょう」
そこで中里さんが会長を務める日本ボウリング場協会として、中長期をにらんで計画を進めているのがジュニア層の開拓・育成だ。
「全国47都道府県に5〜15歳を対象にしたジュニア・クラブを創設し、まずはレジャーとしてボウリングに親しんでもらい、やがては選手としての育成を図っていきたいと考えています」
なぜこの世代かと言えば、中高生だとすでに多くの生活上の選択肢が存在していて、そこにボウリングが新たに入り込む余地が少ないからだ。それにジュニア対象だと、両親はもとより祖父母まで巻き込むことが可能で、それはファストフードのマーケティングなどでもお馴染みの手法でもある。
小さな子どもでもボウリングを楽しめる「ガターなしボウリング」を一部導入しているボウリング場も今や半数を超え、さらには「ボウリング滑り台(=投球補助台)」を用意しているところも増えるなど、ジュニア層開拓に向けての地ならしは進んでいる。
スライド(滑り台)を使ったボウリング
ボウリングがかつて人気スポーツだったころ、中山律子さんを始めとする女子プロボウラーたちが日本中の人気をさらっていた。その再現を狙って、業界では20代を中心とする女性プロボウラーたちによる「P★League」を組織しており、試合の模様はBSなどでレギュラー放映されている。その成果というべきか、女子プロたちは全国の競技ボウラーたちの人気を集めているが、普段ほとんどボウリング場に行かない一般の生活者からの注目度となると、必ずしも十分とは言えないし、往年の中山律子さんたちの人気には届いていないようだ。
なぜなのか? その理由を中里さんはこう説明する。
「現代ではサッカー女子日本代表のなでしこジャパンを例に挙げるまでもなく、世界に通用する女性アスリートこそが国民的な人気を博しますし、そうしたアスリートたちの出現こそがそのスポーツの人気を高めることにつながります。ジュニア層の育成を通じて、そうした世界のトップを競える女性ボウラーが出現することを期待しています」
確かになでしこジャパンの面々のような、キャラが立つし腕も立つという女性選手たちが世界を股にかけて活躍する時代が訪れれば、日本でのボウリング人気も再沸騰するだろう。果たして、日本の多くの家庭にボウリングが生活の一部として定着する、かつてのような、あるいはそれ以上の日々はやってくるのだろうか?
「東日本大震災の後、福島県で避難生活を送る被災者のみなさんを招待して、ボウリング大会をやらせていただいたのですが、ボウリングこそ、3歳から90歳まで楽しめる、そして悲しみのどん底にある方々をたとえ一瞬でも幸せにできる稀少なスポーツであることを実感しました。
ボウリングが長崎の出島に渡来してから2011年で150年になりましたが、これからももっともっと多くの人に親しんでほしいし、もっともっと多くの人にボウリングの楽しさ、すばらしさを分かってほしい。それは、努力次第で十分に実現可能なことだと私は信じています」
中里さんのこの想いが実現することを祈りたい。
[嶋田淑之,Business Media 誠]
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最終更新:2月17日(金)12時51分
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