昔、関西の情報誌プレイガイドジャーナルが「怪奇映画ポスター集」みたいな画集を出したことがあっって、僕はその本で初めて新東宝エログロ映画の世界を知りました。池内淳子や原知佐子、三ツ矢歌子といったTVドラマの大御所女優が、世間的には「キワモノ」と呼ばれる映画でデビューしていたことに驚きました。「日本の理想のお母さん」「上流階級のマダム」みたいな女優さんが、かつてはデロデロでベロベロな世界にいたというのが、妙に興奮させられたのです。
「新東宝女優」という言葉の響きには、戦後の暗闇に咲いている妖しい花、というイメージがあります。「海女の化け物屋敷」とか「花嫁吸血魔」とか「女真珠王の復讐」とかタイトルもカストリ雑誌みたいです。現在では前田通子や三原葉子、万里昌代といった【悪女(ヴァンプ)女優】派に脚光が当たりがちですが、影があれば光もある。池内淳子や三ツ矢歌子、久保菜穂子「現代劇三羽ガラス」という【都会派清純路線】も合ったんですよね。「現代劇三羽ガラス」という言葉に全く現代性は感じないけど。
「スーパージャイアンツ・シリーズ」には、池内淳子、原知佐子(実相寺昭雄監督夫人)、三ツ矢歌子が出演しています。なかでも「人口衛星と人類の破滅」のヒロイン・三ツ矢歌子がいいですよね。銀色の宇宙服で光線銃を構える姿は、「SF戦闘美少女」像の草分け的存在と言ってもいい。三ツ矢歌子はたいていどの作品でも、主人公やヒロインの妹役ばかりやっているから、元祖「妹萌え」女優。「戦闘美少女」と「妹萌え」のコンボを半世紀前にやってるのはスゴイですねえ。
 この年(1957年)、三ツ矢歌子は「スーパージャイアンツ」と平行して、同じ石井輝男監督のエロチックスリラー「肉体女優殺し・五人の犯罪者」にストリッパー役で出るんですね(役名は同じ『かをる』)。「役の振り幅が広いですなー」と書こうと思ったけど、でもまあこの辺の構図は、「戦隊ヒロインが大胆グラビア!」みたいに21世紀になってもあまり変わってないですな。
 石井輝男監督はこのころの三ツ矢歌子を評して「浅草の娘」と言ってますね。石井輝男のいう「浅草」というのは現実の「浅草」ではなくて【石井輝男宇宙】の「浅草」ですね。レビューやストリップみたいな「あんまり一流じゃないけど、キラキラぴかぴかした世界」。ちょっと路地をそれると、暗黒の魔人が蠢いてる、みたいな。
 三ツ矢歌子の人形のような容貌は、そういう人工的キラキラ美とはらわたむき出しが同居するような世界に置かれると、実に妖しい輝きを見せるんですね。
「悪所に燦然と輝く美少女」というのは実にキケンです。ある意味、妖婦(ヴァンプ)とか悪女なんかより、よっぽど怖い。彼女は神の託宣を述べる「巫女」であり「聖なる処女にして売春婦」でありますから、その為に平気で人は死にます。悪女に狂って死ぬ人間は「肉体」と「金」が絡んで、せいぜい一人か二人ですが、「美少女へのピュアな愛情」の為に笑って死んでいく人は、おそらく何千人もいるでしょう。
三ツ矢歌子の「戦闘美少女」や「処女ストリッパー」にはそのぐらいの力があると思うんですよね。悪女とはまた違った「暗闇の妖しい花」なんですよね。
中野貴雄(なかの・たかお)
映画監督・脚本家。アルバトロスから3Dホラー「人喰い秘宝館」が発売中です!