「学生運動×ロボットもの」という特異な組み合わせが話題となり、アニメ化(2009年1〜3月放送)もされた漫画『RIDEBACK』。何気ない学生生活と全世界的な紛争、少女の迷いと権力の意志……それらが複雑に絡み合い加速する。そんな、どこか懐かしく、だけど誰も見たことがない世界を描き出したカサハラテツローは、今最も注目すべき漫画家の1人である。
(インタビュー・撮影/前川誠)
●設定が緻密に出来上がっている物語が、好きなんです
──最初に興味を持った漫画って、何でしたか?
小学校のときに読んだ『ブラックジャック』ですね。とにかく手塚治虫が大好きで。当時は『少年チャンピオン』全盛期だったんですけど、僕はひたすら『ブラックジャック』と『ドカベン』だけを読んでました。
──「SF」に興味を持たれたのは?
星新一ですね。これも小学校のときだったんですけど、友達から借りて読んだらすごく面白かった。でも、その頃はまだ漫画と結びつけては考えてませんでしたね。
SFと漫画・アニメが僕の中で初めて結びついたのが『風の谷のナウシカ』。それまではアニメも漫画も作品そのものだけを見ていて、例えばどういう人が監督しているとかそういうことは一切考えなかったんです。強いて言えば「手塚治虫っていう人が『ブラックジャック』を書いてるんだなあ」っていうくらい。でも『ナウシカ』のアニメを観たときに「あ、これ『カリオストロの城』の人なんだ」って、急に「作る人」と作品が結びついたんです。しかも『ナウシカ』ってガジェットがすごくレトロな感じで、一見ハードSFっぽくないんだけど、ものすごく設定が緻密に組み立てられてるじゃないですか。そこに、『カリオストロ』と通じるものがあったんですよ。
『カリオストロ』を初めて観たのは中学生の頃だったんだけど、僕はあそこにSFを感じたんです。ストーリーとしてはルパンが伯爵と戦って……ということになっているけど、舞台そのものは、ローマ人が城を築くところから始まる訳じゃないですか。だから俯瞰していくと、実はメインプロットを取り巻く舞台自体に、壮大な物語が内包されているんですよ。
──ストーリーではなく、設定がSFだと。
そうなんです。現実とは全く違う価値観とか違うモノの見方があって、そこに自分が身を置いたときに何がどう見えるのかっていうこと。そういうことがきちんと、隅から隅まで出来上がっていることに感動したんですよ。
小学校の頃は『宇宙戦艦ヤマト』とか『銀河鉄道999』とか好きだったけど、あんまりSFっていう意識は無かったんです。こんなこと言ったら怒られちゃうかもしれないけど、『ヤマト』も『999』も設定だけ考えたら穴だらけじゃないですか。「ヤマトって下から狙えば簡単に撃墜できるじゃん」とかね。そういうものよりは、しっかり現代の現実と結びついて出来上がっているものが好きだったんです。
──何かのインタビューで手塚治虫が『鉄腕アトム』の世界観を説明するときに、「現代と地続きの未来」みたいな言葉を使っていたんですね。完全に作りあげた未知の世界じゃなくて、未来都市なんだけど住人が下駄をはいて歩いている、みたいな。そして、そんな「未来における現代」の要素が『RIDEBACK』の中では「学生運動」という形をもって現れていると思うんですが。
そうですね。何となく懐かしいものと何となく新しいものが作品の中でくっ付くっていう。それについてはさっき言った『ヤマト』も『999』もそうだし、『スターウォーズ』のファルコン号だってそうだと思うんですよね。飛んでいるときは機械の塊みたいだけど、止まると蒸気機関車みたいに「シューッ」って音を立てる。だからライドバック(『RIDEBACK』に出てくるロボット)もね、どうしてもモーターじゃなくてエンジンで動かしたかった(笑)。
──しかも液体燃料で。
あの連載始めた頃はね、まだバイオ燃料とかそんなに有名じゃなかったんですよ。ブラジルでアルコール燃料が流行っているっていう話を聞いて、まあいずれそうなるのかなって思っていたら、まさか食料危機を巻き起こすような大問題になるとはね。今では悪者になっちゃってるし。
──その話にしてもそうですが、近未来を描くときに時代が作品を追い越してしまうという危機感は感じませんか?
『新世紀エヴァンゲリオン』も『AKIRA』も『鉄腕アトム』も『2001年宇宙の旅』も、みんな大丈夫じゃないですか。それに、僕は未来に何が起こるか当ててやるんだ、みたいな山師的な感じでもないんで。
『RIDEBACK』はね、いつまでも読んだ時代から20年後の世界で良いんですよ。確かに、いろいろ言う人はいると思います。「この設定だったら2009年のモーターショーにライドバックが展示されてなきゃおかしいじゃないか」とかね。でもそれに対して僕は「まったくですね」とお応えするしかない。その辺は、いたって無責任なんですよね(笑)。
●連載ができて自分が面白ければそれで良いんです
──そもそも『RIDEBACK』を描こうと思ったきっかけは何だったんですか?
ホンダがASIMOの前に開発した、P2(プロトタイプ2)っていう2足歩行のロボットがあったんですけど、それを観たときに「これだ!」って思ったんです。「これの上に乗りたい!」って。ただ、そのままだとただの邪魔な乗り物になっちゃうから車輪を付けて……とかね。そして腕は、ちょうどその頃アニメをやっていたエヴァンゲリオンの腕をくっ付けて(笑)。そんなロボットを作って、独りで「かっこいい〜」って言ってたんですよ。特に漫画にするアテもなく、時間を見つけては「ここに燃料を入れて……」なんて設定を考えて。
──とにかくロボありきだったんですね。その後作品化することが決まってから、主人公の尾形琳が産まれたんですか?
そうですね。主人公を男にするか女にするか迷ってたくらいですから。でも担当編集はずっと女の子が良いって言っていたんです。それで、ルパン三世の『さらば愛しきルパンよ』に出てくるヒロイン・小山田真希がラムダっていうロボットに乗るシーンがあるんですけど、さんざん迷ったあげくそれを思い出して「じゃあ主人公は小山田真希で良いや!」って(笑)。そして小山田真希にしたからこそ、ロボットに「おいで」って言うシーンが入った(笑)。
──ただ、そこで琳を女子大生にしたところが、素晴らしいと思うんです。これだけ2次元の世界に女子高生以下が氾濫している今の状況を考えると、きっと敢えて女子大生という選択肢を選んだに違いないなんて邪推をしてしまうんですが。
あはは。だって(漫画の世界には)かわいい女子高生がいっぱいいるじゃないですか。それと同じ土俵で相撲を取れるほど強くないですからね、僕は(笑)。それにきっと、女子大生が好きな人もいるハズなんです。少なくとも僕は、どうせ手を出すなら女子高生より女子大生の方が良い(笑)。
──そして、そこに学生運動を持ち込んだのは、主人公を警察と戦わせたかったからだという話を伺いましたが。
本当は主人公が白バイ隊員っていう案もあったんですよ。でも『機動警察パトレイバー』って(『RIDEBACK』が連載していた『IKKI』と同じ)小学館ですし、ゆうきまさみ先生と同じ土俵には絶対に上がれませんから(笑)。
──また出ましたね。土俵問題(笑)。
みんなと違う所に山を作って、その小さい山の大将で良いんだっていう。ずっと逃げ腰ですからね、僕は(笑)。
──でもその山を作れるのはスゴイことだと思いますよ。
必死に隙間を探してね。それで山を作ってみたら、隣にそっくりだけどもっと立派な山があったりとか……。
──それが功を奏して、本当に特異な山になったのが『RIDEBACK』だと思うんですが。
だからこそ一般の人がとっつきにくいんです。連載当初からね、いろんな業界の人に褒めてもらえるんですけど、いわゆる普通の人はダメですね。例えばウチの子供の友達が「お前の父ちゃん漫画家なんだって! スゲー!」って言って我が家に来るんですよ。それで「どんなの描いてんの? 見せて見せて〜!!」って言われて単行本を渡すと、「う〜ん、難しいかも。お、面白いとは思うんだけど……」って。
──子供に気を遣われてるじゃないですか!
でも、普通はそういう反応だろうなと思いますね。僕の漫画って、いろんなことをやっていろんなことを見てきた人が、その経験を保管しながら読むとすごい面白いんだなってつくづく思います。でもその保管庫が空いている人が読むと、台詞は説明が足りないし、キャラクターはそんなにかわいくないし、そもそも主人公の目的が解らないっていう。
こんなこと言ったら絞め殺されると思うんですけど、『ナウシカ』の漫画もわりとそういうきらいがあるじゃないですか。
──ナウシカも琳も戦ってはいるんだけど、そこに解り易い「善VS悪」の構図が無いんですよね。しかも『RIDEBACK』では、敵である筈のGGFによる管理社会を肯定するような台詞が出てきたりもして。
だからね、いろんな人を敵にしてしまうんですよ。反体制の漫画だと思っていた人からは「あれ? 権力とか肯定しちゃうの?」って言われるし、学生運動なんて嫌いだ! っていう人はハナから読んでくれないし。
──でも、別にそこを描きたかった訳ではない。
そう、僕は連載ができて自分が面白ければそれで良いんです。もちろん皆に良い気持ちになってもらいたいと思ってエンターテインメントをやっている人もいると思うんですけど、僕みたいにそうじゃない人もいるんです。自分が気持ち良く思う世界に「付いてこい!」っていう。
●『RIDEBACK』の最後は泣きながら描きました
──話は前後しますけど、カサハラさんはそもそも子供向けの漫画を描かれていた訳じゃないですか。
さかのぼると大学に入る前後くらいから、漫画家になりたいとは漠然と思っていたんです。それで出版社に持ち込みをしていたんですけど、「キミ、古いよ」と散々言われまして。まあ確かに自分は古い漫画が好きだし、それもしょうがないかと思っていたんですよ。ところがその後、学研でハガキ整理のバイトをやっていたときに「君、美大生なんでしょ。じゃあ漫画描いてみてよ」と言われて。それで何となく描き始めたのが最初ですね。すると不思議なことに、子供向けの世界では「古い漫画」がアリだったんですよ。
そうこうしているウチに柳田理科雄さん原作の『うさぎ山のひみつ』っていう話を描いたんですけど、それがきっかけで柳田さんに紹介して頂いて始まったのが『空想科学エジソン』(00年〜02年)だったんです。ただそれが諸般の事情や……、まあぶっちゃけ人気が無かったということで打ち切りになってしまいまして。それでどうしようかと思っていたところで『IKKI』の担当さんに声をかけて頂いて始まったのが『RIDEBACK』だったんです。
──初めての大人向け作品で、原作から組み立てるのも初めてだった。
だからね、ハジケたんですよ。やりたいコトは全部やってやれと。『空想科学エジソン』のときに「いつ打ち切られるか分からない」という月刊誌のシビアさを勉強したので、それなら初めから風呂敷を広げて何でも詰め込んじゃえばいいじゃん! っていう思考回路で作ったんですよ。とにかく風呂敷をドーンと広げた後に、伸びそうな部分だけ様子を見ながら伸ばしていく。最初から起承転結をつけてしっかりやってる作家さんからしたら、信じられないですよね。でもね、設定さえある程度できていれば、こういうやり方でもどうにかなっちゃうんですよ。
──ちなみに、そもそも学生運動に興味がなかったそうですが、本作を描くためにいろいろと調べてみていかがでしたか?
あれはあれでSFですよね(笑)。未知の世界というか、時代劇に近い。独特の言葉とかキャラクターがいっぱい出てきて、面白いんですよ。あと最近、あの時代の熱狂とはまた違うんだけど、何となくああいう感じのものって増えてきてますよね。サウンドデモとか。
ちょっとズレますけど『月下の棋士』が連載していた頃に、将棋がガーッと来たじゃないですか。羽生名人なんて、それこそ今のイチロー並の扱いでしたよね、あの頃は。なんかね、日本ってそういうことがあるんですよ。今だとゴルフなんかがそうだと思うんですけど、シンボリックな人がいると急に火が着く。それでもし、そのシンボルがすごくカワイイ女の子だったりしたら、もっともっと行けるんだろうなって思う。琳はまさにそういう存在なんですよね。
──陳腐な表現をすればカリスマですね。
そう、まさに最初「カリスマ」っていう言葉を使おうと思ったら、担当編集に「陳腐ですね」って言われたんです(笑)。それで学生運動のことを調べてたら「イコン」って言葉があったから、じゃあこれで! っていう。本当に手探りだったけど、でも楽しんでやってましたよ。
──そして連載が終了した訳ですが、やり遂げた感想はやはり10巻の後書きに尽きますか?
いや、本当はあの後書きもね、ロボットへの熱い思いを書こうかと思ったんですよ。そもそも僕はロボットが描きたかった訳だし、主人公はやさぐれた少年でもおっさんでも良かったんだし。でも(主人公は)小山田真希と巨摩郡(『バリバリ伝説』)のハネ髪とナウシカを組み合わせれば何とかなるよ、っていう考えで始めたら、割と何ともならずに作者である僕が振り回されてしまったんですよね(笑)。
──かなり扱いにくい主人公だったようですね。
物語の中で、学生運動が最高に盛り上がって国会の前でもみくちゃになる場面があるんだけど、それが過ぎ去ってしまったらあれだけ輝いていた彼女は行方が分からなくなってしまいました、というところで終わろうと思っていたんです。でも、そこに辿り着く前にもうちょっと連載が続きそうになったからBMAを出してみて、そうこうしているうちにアニメ化の話が来てまた続けられることになりまして。ところが琳がいなくなっちゃって、じゃあどうしようと思ったんですが、やっぱりロボットが描きたかったからにはドンパチがなくちゃね、っていうことで(琳が)軍隊に入って。それで軍隊に入ったからには『トップガン』だろうと。
──てっきり『フルメタル・ジャケット』だと思いました。
あ、確かにそっちの方が強かったですね。連載中は『フルメタル〜』のDVDを何度も観て、あの感じを身体に染み込ませたりしました。
──なるほど。でも、それだけいろいろな展開をして行って、よく無事に終われましたね。
最後は泣きながら描きました。いやあ……本当に大変だったんですよ。ただいつの時点で話が終わっていたとしても、結局最後に琳が消えていくっていう方向性だけは変わらなかったんです。アメリカ編ではBMAの総攻撃を受けてキーファに攫われた時点で終わるハズだったし。そう、本当は4巻の最後で終わらせるための伏線として、2巻に無理矢理キーファを出したんですよ。そうしたら結局絡む機会が無くなって、キーファの行きどころが無くなっちゃった(笑)。鬼頭莫宏(『ぼくらの』など)さんと飲んだときに「あのキーファは、やっちゃったでしょ」って言われました。「分かってないなあ、計算通りだよ」って強がりましたけどね(笑)。
──キーファと言えば、あの変装シーンはルパンですよね?
その通りです。実はあれ、ライドバックよりオーバーテクノロジーです(笑)。ただ、あのシーンでキーファの銀髪がなびくかなびかないかで、結構編集さんと揉めたんですよ。「それはあり得ないですよ、カサハラさん」って言われて。でもね、漫画ですから。漫画の世界では、頑張ればマッチ棒で空を飛ぶことだってできるんです!
──そうですね!
結局あのシーンに関する苦情は1つも寄せられませんでしたね。漫画大国日本の偉大さを実感しました(笑)。
で、話は戻るんですがアメリカ編の後、しょうこ編で終わるという選択肢もあったんですよ。むしろあの時点で僕のなかの『RIDEBACK』は終わっていて、アニメに喩えればエンディングのスタッフロールの背景でしょうこ編が流れている、くらいの感覚だったんです。
でも編集さんに「最後にちょっと琳を出してくれればそれで良いですよ」って言われて軽い気持ちで登場させてみたら、そこから更に3巻も続いてしまった(笑)。いやあ、本当に琳には振り回されましたよ。
●エンターテインメントにルールなんて無いんです
──ちなみに『RIDEBACK』って、よく人が死にますよね。
『IKKI』っていう雑誌で書いている以上、そうなっちゃうんですよ。作家魂……と言うほど崇高なものじゃないんですけど、「こいつには負けたくない!」という対抗心ですね。(『IKKI』に連載されている)『ぼくらの』も『フリージア』も『ドロヘドロ』も……、とにかく人が死ぬじゃないですか。『IKKI』って、よく作家同士が集まって飲み会をやっているんですけど、その場でそういう話になるんですよ。そうするとつい対抗心が芽生えてきちゃう。
──作家さん同士の交流が頻繁な雑誌って、珍しいのでは?
誤解を招くかもしれないけど、同じ感覚の作家がひとつの雑誌に集まっているという意味で同人誌みたいなノリはありますね。まあ、そのへんは集めた張本人である編集長の趣味が如実に出ているんでしょうけど、とにかくそういうところが、僕にとってとても居心地の良い雑誌でした。
あ、でも昨今の同人誌って、もしかしたら僕の定義よりもっと商業的というかシビアというか、例えば「この漫画でヌいて欲しい!」っていう購買意欲をそそるための、ハッキリした目的意識をもって制作された物が多いかもしれませんけどね。
──そういった昨今の風潮についてはどう思います?
これは同人誌に限らずなんですが、もっと多様性があっても良いと思う。最近「こうでなくちゃいけない」みたいなルールがいつの間にかできている気がするんですよ。例えば「エンターテインメントはこうである」ということを突き詰めていった結果、ハリウッド映画が爆発とキスシーンだらけになっちゃった、みたいな。もちろん昔はそういうものも好きだったけど、そんなのばっかりじゃない方が面白いし、そうじゃなくても面白いものはいっぱいあるんです。
例えば夏目漱石だって、ポケットから取り出した先生の遺書がそれまでの2章を遥かにしのぐボリュームだったりとか(『こころ』)、そういう訳の分からないことを普通にやっていたんですよ。それで良いんです。
──むしろカサハラさんはそういうものを作っていきたい?
そうですね。そして、そういうものを作る人も、そういうものが好きな人も、この世にもっと居て良いと思う。……すごく文化系な考え方ですけどね(笑)。
──現在『コミックフラッパー』で連載中の『スコペロ』も、そういったカサハラさんの志向性がよく出ていると思います。
あれはね、本当は未来版『坊ちゃん』(夏目漱石)をやるつもりだったんですよ。でも2巻になったら、カプセルボール(作中に登場するスポーツ)がメインのスポ魂ものになっちゃった(笑)。
──では1巻で張られた『坊ちゃん』的な伏線は、今のところ回収予定が無い?
いや、きっとどこか先の方で結びつくハズなんですけどね。ただ担当編集さんが、文平先生(主人公)よりサキちゃん(ヒロイン。女子高生)の方が大好きなんですよ。僕は文平先生が好きなんですけどね。だって、話の展開に困ったらどうにかしてくれるじゃないですか。ああいうキャラって、読者には嫌われるけど作者には好かれるんですよ。例えば水木しげる先生はねずみ男が一番好きだと思うし、水島新司先生は岩鬼が大好きだったと思う。そういうキャラクターを作れるかどうかで、その作品を描き続けられるかどうかが決まるような気がするんですよね。
──それは今後が楽しみです。ちなみにカサハラさんは、今後もSFという枠組みの中で作品を作られていくんでしょうか?
そういうこだわりは無いんですけど、どうせ描くなら舞台はイチから作りたいですね。何となくどこかにある高校のお話……とかではなく、その高校の歴史とか、周辺地域の事情とか、ひいてはその時代の世界情勢まで考えたくなっちゃう。その結果SFになってしまうかもしれないけど、逆に時代劇というやり方もありますし。
きっとそういう作り方が好きなんだと思います。ストーリーからガッチリ組み立てて描き始めると、急に打ち切られたときにトホホ……ってなりますからね(笑)。それに、しっかり世界が組み立てられていれば、読者の方もその世界の中で自由に遊べるじゃないですか。
──あと個人的には、以前ウェブラジオでも話されていた女性キャラクターの「胸の隙間」にも注目しています。
あれはね、中学生の頃好きだった子が、そこらへんがすごく無防備だったんですよ。だから毎日ね、学校に行くのが楽しかった(笑)。その思い出を今になって蘇らせている訳です。
──あれこそカサハラさんの専売特許だと思いますが。「谷間」じゃなくて「隙間」にフォーカスを合わせた作家さんって、今までいなかったのではないかと。
そうですかね(笑)。まあ確かに、雑誌でそういう特集されているのも見たことないですね。ただ需要が無いだけだと思うんですけど(笑)。
──いやいや、そんなことないですよ! ……と、話が逸れてしまいましたが、最後に漫画家を目指している皆さんへのメッセージがあったら教えて頂けますか?
実用的なメッセージなんですけど、担当編集とは仲良くした方が良いですね(笑)。
まあね、いざ雑誌で連載が始まるとなると担当編集とのやり取りのなかで「描き直しイヤだなあ……」とかいろんなことがあるんですけど、それでもお互いの接点はしっかり持っておく。昨今、いろんな方のブログで「担当編集が気に入らなくて……」みたいな文章を目にするんですけど、あれは悲しいですよね。折角才能があるんだから、エネルギーをそこに割いてしまったらもったいないと思う。かく言う僕も散々そういうことをやって来たんですが、その結果辿り着いた結論が「仲良くしよう」なんです(笑)。そのうえで、作品については好きなことをやれば良いと思いますよ。
★オフィシャルサイト
カサハラテツローHP
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