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国有化を通じた東京電力の処理は、電力システム改革の切り札になる。
めざすのは、新規参入者が公平に競争できる電力市場だ。
それは、日本が原発への依存度を減らしていくにあたって、最大の課題である電力の確保にも結びつく。
まず、発電の担い手を増やさなければいけない。温暖化対策を考えれば、自然エネルギーや天然ガスの分野が中心だ。
同時に、全国各地の発電所と需要地を効率よく結んで、電力設備のムダをなくす。
どちらも、全国を分割して支配する「地域独占」「発電・送電・配電一体」という電力体制を改めることが不可欠だ。
90年代以降、制度上は発電や小売りの自由化が進められた。だが、既得権者の電力大手がさまざまな手で新規参入を阻み、有名無実化している。制度設計をやり直す必要がある。
すでに変化は起きている。
震災を機に、東電だけに電力を依存する危うさを実感した企業や自治体は少なくない。新規事業者に契約を切り替えようとする動きが加速している。
新規事業者も、供給力を上げるために発電設備を増やしたいところだ。
■政権の意思を明確に
しかし、いまのところ踏み切れずにいる。国が本当に電力改革に踏み込むのか、疑心暗鬼だからだ。自然エネルギーの発電業者も同じ心境だろう。
野田政権は大胆な電力自由化への意思を明確にすべきだ。東電の国有化に向けた断固たる姿勢は、その象徴となる。
新たな投資を促すには、電力をもっと自由に売れる仕組みを整えることも重要になる。
ポイントは電力卸売市場だ。売買を通じて価格競争を促し、需給を効率的に調整するため取引所が設けられている。
ところが、実際には取引量が限られ、思ったような効果をあげていない。送電網を握る電力大手が市場の活用には冷ややかだからだ。
震災で電力不足に陥った際、東電は需給を一元的に管理するため、送電網の利用を制限し、取引所での売買はとまった。
東電以外の事業者と契約していた企業も、計画停電に巻き込まれた。
それでも、表立った苦情や批判が少なかった背景には、後々のことを考えて、強大な支配力をもつ東電に逆らうことへの不安があった。
これでは多様なプレーヤーの参入は望めない。1社の都合で他社の安定供給まで妨げられる事態を避けるためにも、送電網は誰もが公平に利用できるインフラにしなければならない。
送電部門を発電部門から切り離す「発送電分離」が求められるゆえんである。
■送電網の広域運用を
政府内では、機能を分離する形から所有会社を別々にする方法まで3案が検討されている。
送電網は現在、電力大手の設備だ。国有化される東電はともかく、他の電力会社が持つ送電網を完全に切り離すには、新たな法律が必要になろう。
だが、手間がかかっても将来的にはまったく別の企業にして独立性を確保すべきだ。そうした最終的な姿を示し、段階的に分離を進めることだ。
東電を分社化し、送電部門を発電部門と別会社にする。そのうえで、送電網のコスト構造を明らかにし、合理化して中立的な送電会社に向けた基盤をつくる。新規業者が「高すぎる」と批判する送電網の使用料も、算出根拠を透明にする。
もともと送電網は、広域になるほど効率的に運用できる。
それなのに、日本は狭い国土の東西で周波数が異なり、電力会社間の連携線も細い。地域独占を続けてきた結果だ。
東電の送電子会社を軸に、50ヘルツ帯の東北電力、北海道電力と一体運用するところから始めてはどうか。東北、北海道は風力発電の適地であり、自然エネルギーの普及にもつながる。
送電網の運用を監視する公的機関も必要だ。電力卸売市場と連携して、需給の調整を担わせる。いざというときは発電会社にさまざまな命令を出せるようにすれば、市場機能を生かした公正な電力市場にできる。
■地域独占による弊害
家庭向けでは、通信機能がついた「スマートメーター」の普及を急ぎ、料金体系を多様化させる。消費者が自然エネルギーによる電力を購入したり、自分の生活に合わせた料金メニューを選んだりするようになれば、電力会社は利用者の意向を反映するようになる。
私たちは原発事故を通じて、電力会社の閉鎖性や地域独占の弊害を嫌というほど味わった。事故の後始末で、経済的な負担も背負わざるをえない。
供給者側に都合のいい電力体制から、利用者が主導権を握る時代へ。
私たちの問題意識が改革への原動力となる。